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異丹治からの招待

ついにこの集落をまとめる大物が姿を見せる。

眼光鋭い威厳もあり人気も高い異衛門。

「誰だか知らねえが俺たちの祭りの邪魔をするんじゃねえ! 」

よそ者を極端に嫌う性格で例外などないよう。

今にも食い殺されそうな恐怖にただ震える。


「なあチュウシンコウについて知ってるか? 」

それでも突撃しようとする命知らずの陸。状況判断がまったくできてない証拠。

「ガキが消え失せろ! 」

異衛門の一掻きで吹っ飛ばされそうになる陸。

これはまだ暴力を振るわれた訳ではない?

まずいぞ…… どんどん大ごとに。手に負えなくなっている。

俺はもう知らない。ここは他人の振り。


「何を言ってるのおじいちゃん! 人が質問してるんでしょう? 」

うわ…… アイミを抑えるのを忘れていた。

どうすればいい? もはや逃げきれない。

暴走コンビを放置したことで窮地に追い込まれる。


その時だった。

「済みません。息子たちなんです。里帰りしていまして」

父さんが頭を下げ許しを乞う。

「何だ。それならば早く言え! よそ者ではないではないか! 」

どうやらごくたまに来る非常識で迷惑で危険な観光客だと勘違いしたらしい。


「ありがとうございます。異衛門さんに大変失礼な真似を…… 」

「いやお前には日頃から世話になってるからな。少々のことは気にするな。

それとまだ寝ておるのか? 」

「ええ伏せてます。また戦えたらなと」

何だか爺ちゃんとは関係が深いらしい。

「おおそれは俺も鍛錬せねばな」

こうしてどうにか危機を乗り切った。


ふう危ない危ない。

だからいきなり祭り会場に乗り込んではダメだったんだ。

そして陸を放ってはいけなかった。アイミも。もはやどうなるか賭けでしかない。

今回はこれでどうにかなったが次はないと肝に銘じる。


二人が話し合ってるのでこっちもヒソヒソ話に興じることに。

「しかし怖かったね海君」

「ああ希ちゃん。寿命が縮まるかと。ははは…… 」

「戦いって何だろう? まさか真剣で真剣に切り合うとか? 」

アイミがふざけつつ不穏なことを言う。たとえそうでも聞いてはいけない。

聞いたら恐らく陸が切られてしまう。

もう逆らってはいけない。絶対服従こそがこの集落で生き残る術。

集落の掟を決して破ってはいけない。


「ははは…… 爺たちの勝負って言ったら囲碁だろう。そうに決まってる。

どうせ暇を持て余してるんだろう」

失礼なことを。聞かれたらそれこそ切り殺される。

それほどの危険性を帯びている。こいつは運がいいだけ。

助かったのは父さんのおかげ。

ここは危険だ。昔はそう感じなかったのにな。何だか別の世界に来た気分。


「それでチュシンコウだったな。俺もここのリーダーだ。

知らないのかと馬鹿にされる訳にいかない。だから特別に教えてやる」

うまく行ったような気もするけど興奮した異衛門が何をするやら。

別に知らないからと言って馬鹿にはしない。ただ助かりさえすればいい。

ここをどうにか乗り切ればいいと思っている。


「客人が困っておる。ほら異丹治! 詳しく教えてやれ」

眼光は鋭いが口数も少なく紳士的な異丹治。良い人に見えなくもない。

ただ何を考えてるか分かり辛いところがありちょっと怖いなと。

「チュウシンコウとは…… 見間違い。ただの勘違いでしょう」

「そんなはずは…… 」

「ほら大事な客人だぞ。いい加減なことを言わずにもてなせ! 」

集落のリーダーからお墨付きをもらう。これで真の仲間として受け入れられたか?


「よしではここから先は我が家で話そう」

午後も過ぎ夕方になりかけた頃ようやく詳しい者に出会えた。

「そうだな。屋敷なら落ち着くしうるさくない」

こうして有力者の家にお呼ばれすることになった。


祭り会場から抜けて二十分も歩くと見えて来る。

立派な日本家屋。庭に犬か放し飼い。池には鯉も泳いでいる。

凄いなこれ…… 庭を見学するだけでも価値がありそうってそんな時ではないか。

「これいくらするんだ? 」

異丹治相手にも一歩も引かない陸のその図太い神経。

見習いたいな。でも真似はしたくないな。


「ちょっと…… 犬が睨みつけるんだけど。餌をきちんと与えてるの? 」

アイミと希ちゃんが抱き合う。

今にも襲い掛かろうとせんばかりの勢い。

せめてリードをしてくれよ。いくら個人のお家でも放し飼いは心臓に悪い。

「ああこの子たちは大人しいから心配ありません。

大好物の肉がまだなので少々苛立っていますがこれでもかわいいもの」

人間味を見せる異丹治。怖い人に見えたが接してるとそうでもないな。

紳士的に振る舞おうとしてるところが好感が持てる。


「では準備もありますので後はこの男に」

そう言うと行ってしまった。


「なあなあ! こんなところだと食事も豪華なんだろうな…… 

へへへ…… 涎が止まらないよ」

「勝手に言ってろ! 俺たちには婆ちゃんの夕食があるだろう? 」

昨夜の約束を忘れる困った奴。裏切る気か?

「それはそうだけどよ…… 」

「お望みでしたらお食事も用意しますが」

案内役の男は親子にも劣らないほどの凶悪面。

アイミはさほど気にしてないが希ちゃんは震えている。

それはそうだろ。俺だって嫌だぜ。呑気なのはいつも陸。


「ラッキー! だったらお言葉に甘えて」

「でも婆ちゃんが…… 」

「おい疲れてる婆さんに作らせる気かよ? 酷い奴だな? 気は確かか? 」

得体の知れない奴に招かれてのお食事の方が問題だと思うが。

だが食い意地の張った陸を止められない。

「もう分かったよ…… 」

「では四名様で。後ほど連絡しておきますのでご心配なく」

こうして庭を少し見てから屋敷内へ。


「どうしますか? せっかくですから屋敷内も案内致しましょうか? 

それとも直通しますか? 」

直通の意味がよく分からないがあまり時間がない。お宅拝見に来たのではない。

だから直通することに。


ここは異丹治のお屋敷で現在は異衛門と別れて暮らしてるそう。

そしてこの男は元々異衛門のお世話係だったのだとか。

そう言う意味では古い話も漏れ聞いた可能性も。

二人に仕えてるベテランの世話係と言うか管理人。

少々興味が湧いてきたな。

                続く

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