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異衛門と異丹治

祭りの会場広場には集落のほとんどの者が集結している。

一年に一回のお祭りだから気合十分。


「はいどうぞ」

祭り会場では間もなく本番を迎えるとあって大慌て。

猫の手を借りても足りないほど。

荒い言葉でほぼ喧嘩腰の殺伐とした雰囲気。

活気があっていいが俺は苦手だなこの感じ。

どうせ怒られるのは俺たちみたいな弱き者。何だかんだ理由をつけ叱られる。

しかも普段止めるであろう者までが加担する惨事。いや大惨事か。

仕方なく認め謝ったところでただ早くしろと言われるだけ。

せめて冷静な人を一人ぐらい配置しないととんでもないトラブルに。

火種となるかもしれない。だからもっと冷静にと言っても聞く耳を持たない。

何かにつけて文句を言って来る連中。喧嘩が始まってしまう。

その繰り返し。負のループは止まらない。


会場には入れたが相手にされてるかと言ったらまた別問題。

できたらまだ話を聞いてくれそうな女性を捕まえたいんだけど。

女性は奥の方に引っ込んでいて見かけても忙しなく歩き回ってるからな。

さすがに動きを止めて聞くのも悪い気がする。

そうすると知り合いにでも……

要するに会場の雰囲気に吞まれてしまって動けずにいる。情けないが仕方ない。


こういう時に陸が役に立つはずなんだが初めてだと人見知りするのか大人しい。

この張り詰めた空気をどうにかしないと奴の良さが生きない。

希ちゃんに任せるか? でも希ちゃんは俺以上に呑まれてしまっているしな。

ここは度胸充分のアイミにお任せ。


「ちょっと話を聞きなさいよ! 困ってるでしょう! 」

「ああん? 何だこの都会者は? ガキのくせに生意気な口を利くな! 」

お年寄り特にお爺ちゃんが多いこの集落では非常識なアイミの投入が裏目に出る。

分かってはいた。険悪な雰囲気になってもいいから認識される方を取る。

大体険悪な雰囲気は後でどうにでもなる。まあ場合にもよるが。


「早くしなこの田舎者! 」

都会者と馬鹿にされたのでついきつい言葉で集落の者を貶めるアイミ。

とんでもない事態になりかねない。

仕方なくアイミを下げて俺が何とかする。


「あの…… 」

「ほらそこ退いて! ガキの遊び場じゃないんだ! 」

やっぱり…… まあ仕方ないことだけどさ。これが祭り本番まで続く。

地元の祭りでも似たようなもの。祭りが迫るとどうしてもこうなりやすい。

焦りだろうか? 余裕がないんだよな。本当に嫌。

幼い頃は泣くこともなくただ見ていた。

今になって恐怖のあまり泣くと言うか漏れそうになる。

そんな臆病ではないが自分のプライドがズタズタにされた気分。


「いやー活気があっていいっすね」

本来の自分を取り戻した陸がいつものように調子に乗って生意気を言う。

叱られるかと思いきや意外にも歓迎される。

奴の動じないところが魅力的。ただそう感じたのは今日が初めてかな。

普段はどうもね。ただ迷惑に感じている。


「はいさ。ああ祭りかい? 明後日だ。楽しいから見においで」

「あなたは? 」

「ふふふ…… そんな名乗るほどの者じゃ。それで何が知ったい? 」

祭りの準備を終えた者から順に聞いて回るが知らんか退けの二通りしかなかった。

その中でも比較的若くて大人しい者を選んでいる。

それでも不穏な空気が流れていることには変わらない。


チュウシンコウについて聞いてみる。

「ごめんね。こう言うのはお滝さんしか知らないんだよ。

この辺の歴史に詳しいお滝さん。一度ぽろっと口を吐いた時に昔の話をしてたね」

「お滝さんだ? それは知ってるさ。有名な人ですからね」

「うーん。お滝さんね。そう言えば見かけないな。どこに行っちまったんだろう?

それと歴史ならお鶴さんも詳しいよ」

応じてくれた四人から情報を得るがどうもパッとしない。


「チュウシンコウについて本当に何も? 」

しかしその四人も周りの者も一様に首を振るばかり。

いきなり来たよそ者のガキだからな。

俺たちは相手にされないかと思いきやただ本当に知らないそう。


「海! 祭りに興味があるなら言ってくれればいいのに。手伝いに来たのか? 」

そう言って一杯やっている呑気父さんと林蔵さん。休憩中? サボり?

イメージ悪いよ父さん。皆一生懸命じゃないか。こんなクソ暑いのに。

「チュウシンコウについて知らない? これは真面目な問題なんだ」

「チュウシンコウと…… ダメだ。やっぱり俺にはさっぱり。林蔵は? 」

「昨夜? ああ酔っぱらってつい適当に。心当たりはないんだ。悪いね」

昨夜とうって変わって林蔵さんは口を閉ざす。皆の手前か? それとも本気で?

さあどうする? とにかく今は情報収集かな。


「はーい皆さん! 誰かチュウシンコウについて知ってる人は? 」

まとめ役で陽気なおばさんが大げさにする。

せっかく極秘に動いていたのにこれでは俺たちの努力が無駄に。

でもこれで詳しく聞けるんだからいいのか。感謝するべきだろうな。

「そうだぜ皆! 知ってる奴は教えてくれ! 」

非常識で無礼な怖いもの知らずの陸がおばさんの横に並び叫ぶ。

いやだから危険だっての。

チュウシンコウが何か分からないのにこれ以上は自重すべきだろう。


「おおいいねえ! 面白そうだ。でも俺は聞いたことないな」

「ああ俺も。でも何となく効き目がありそうな…… 薬じゃないのか? 」

「いやいやもしかしたら…… 」

いろいろな意見が出るがただの推測でしかない。


「黙ってろお前ら! 」

ついにここを取りまとめるリーダーが姿を見せる。

口ひげを生やし眼光鋭いお爺さんだ。

もう年だが若い頃は尊敬と畏怖の対象だと近くの者が教えてくれる。


「おお異衛門! 異衛門! 」

まだ絶大な支持がある。その後ろには息子の異丹治も姿を見せる。

五十代のこの集落では若造ではあるが異衛門の血を継ぎ政を任されている。

この集落を牛耳る化け物。


                  続く

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