ミライの夢
陸の奴め…… もういびきをかいて寝てやがる。
本当に悩みのない奴はいいよな? 羨ましいぜ。
おっと…… 隣の宇宙人研究家はどうでもいい。
今はチュウシンコウについてだ。
チュウシンコウって言うのは確か夢に出て来たんだよね。
五年前にも見た覚えがある。確かミライが踊っていた演目がそれだったはず。
そして今集落までたどり着いた。それなのにチュウシンコウを知らない?
こんなことってあるのか? いやあり得ない。俺は一体どこで見たことに?
確実ではないがミライはこの集落の出身。または周辺の村の者。あるいは関係者。
そもそもの悩みが五年後。要するに今行われようとしている祭り。
そのせいでミライは辛い思いをしている。
だがここの集落の祭りはチュウシンコウではない。
そんな前時代的で時代錯誤の世界観はこの辺りには見られない。
ならばミライはどこに閉じ込められている?
風習や伝統に逆らえずに受け入れてしまうようなところなどあるのか?
そもそも誰もチュウシンコウにピンと来てなかった。あれは演技なんかじゃない。
ポカンと口を開けて自分の知ってることにどうにか当てはめようとしていた。
一人林蔵さんだけは暗号だとか並び替えろとか言っていたな。
でも酔っ払いの戯言を真に受けるのもどうかと。
チュウシンコウに意味などない?
まさか違うのか? 俺は勘違いしていたのか?
チュウシンコウには何らかの意味があると思っていた。
でも勘違いならこんな言葉に意味などないだろう。
チュウシンコウ…… ここから全然進まなくなってる。
一体チュウシンコウは何だと言うんだ?
ガヤガヤ
ガヤガヤ
何だか騒がしいな?
そうか隣のアイミが興奮して暴れてるんだろうな?
まったく子供じゃないんだから……
さあ明日からチュウシンコウを手掛かりにこの集落の秘密を暴くぞ。
絶対あるはずだ。集落の者にさえも隠し通したチュウシンコウの真実。
しかしよくここまで来れたもの。
もう少し苦労すると思っていたけどな。
そう言えば集落の名前さえ聞いてなかったな。
明日にはすべて聞き出しておこう。でも怪しまれるような気も。
チュウシンコウについては最悪コテージの番人のミモリに聞けばいい。
それよりも五年前に行ったあそこへの道のりを思い出す必要がある。
確か秘密基地を作った次の日に迷った挙句にたどり着いたはず。
そもそも俺はどうしてあそこに秘密基地を作ろうとしたんだ?
秘密基地ぐらい遠くでなくてもいい。
それなのに…… たぶん今ではたどり着けないだろうな。
屋敷が水害にやられたようにあの場所も形を変えていても不思議はない。
調査は難航するだろうな。
そろそろ寝るかな。
いい夢が見れますように。
ミライ? どこにいるの? ミライ?
おかしな夢だった。過去を思い出している感覚。
あの日あの時のことを思い出してるのだろう。
だって俺は相変わらずガキのまんま。
でもどうも様子がおかしいんだよな。
徐々に霧が晴れて行くようにミライの顔が鮮明になっていく。
それなのによく見えない。霧が晴れてんだぞ? 鮮明になってるんだぞ。
しかも相変わらず近づくことさえままならない。
「思い出して! 私を思い出して! 私はあなたのすぐそばにいる! 」
どう言うことだ? すぐそばにいるって?
俺はミライの言葉が信じられなくなっている。
「ねえ聞こえないよ? 全然聞こえない! 」
口は動かしてるのにまったく聞こえない。
これが約束の場所に近づいてる証なのか?
仮にそうだとしても俺はどうすればいい?
見え辛くなってそのまま。近づけば見えるのに。その顔がはっきりしない。
確かあの時はっきり見えたのに。
待てよお前は誰だ? そうだ。見辛かったのも聞き辛かったのもすべて彼女。
仮に見辛かろうが聞き辛かろうがそこにいるのは幼い頃のミライじゃない。
ミライはあの頃のミライじゃない。だったら一体誰なんだ?
教えてくれ! どうしてそこまでぼやけるんだ?
教えてくれ! お前は誰なんだ?
懸命に呼びかけるが声がまともに聞こえることはない。
もう繋がらなくなった。過去の思い出でもわずかな記憶のかけらでも。
夢の世界であったとしても。彼女の方が拒否しだしている。
俺にはそれではどうすることもできない。
でも待ってくれ。お前が五年以内に迎えに来て欲しいって言うから。
俺だって必死になって来た。
タイムリミットの五年が過ぎたらどうなるんだ?
そもそもお前のところにはどうやって行けばいい?
教えてくれ! 教えて……
もはや何の反応もない。これが現実なのか? 過去の思い出なのか?
記憶の断片なのか? 夢なのか? まったく判断できない。
俺はどうしたらいい? 不安で堪らない。ここまで来て俺を拒絶するなんてない。
ミライ! ああミライ! 俺のミライ! 俺だけのミライ!
こうして夢から現実に引き戻される。
「おいどうしたんだよ? 大声出してよ。酷くうなされていたぞ」
あの陸が心配している。これは珍しいこと。
「いや…… 何でもない。ちょっと夢を見ていただけだ」
「まさかお前またいつもの夢を見たのか? 」
「それは…… 」
「そうなんだろ? はっきりしろって! 」
どうやら奴は手掛かりになると踏んだようだ。
でも違うんだ。そんな夢じゃない。とても不穏な夢。
「もしかしたら俺はとんでもない間違いをしてるのかもしれない」
奴を不安にさせるつもりはない。
でもどうも夢のお告げだとしても正夢だとしてもよくないこと。
不吉なことが起きる。そんな予感めいたものがある。
続く