付き合い
補習二日目。
三人だけの特別な夏季補習を終え陸が動き出す。
多少緊張したものの告白をやってのけた陸。
凄い…… 何て奴だ! 尊敬するとかよりも圧倒された感がある。
ただ当然の如く振られてしまう哀れな男。
それが奴の運命ならば受け入れるべきだろう。
「それであなたは? 付き添い? それとも同じな訳? 」
興奮した彼女は俺を睨むと詰め寄ろうとする。
実際には違うかもしれないがそう捉えるほどの迫力。
どうやら彼女は俺に興味を示したらしい。
俺はと言うと希ちゃんへ告白しようと。
それなのになぜか巻き込まれて名前もあやふやな彼女に告白することに。
夏の暑さで頭がぼうっとしてもう何をやってるんだか。
それにしても奴はどうしちまったんだよ? 本気なのか?
これではまるで手当たり次第告白してるみたいじゃないか。
あまりに余裕がなさ過ぎる。それではさすがに誰も受け入れてはくれない。
ついに俺に番が回って来る。どうする?
告白する? やっぱりしない方がいいのか? どっちだ?
「ははは! 俺だって君のことが好きだ。付き合って欲しいと考えてる」
冷静に聞こえるだろうがもうすでに足は震え限界。
告白ってこんなに緊張するんだな。本番はもっと緊張するだろうな。
恥を掻くこと間違いなし。
それでも希ちゃんは優しいからきっと受け入れてくれるに違いない。
「最低! 」
そう言って頬を張る。俺だけに向けた軽蔑の目。
なぜそうなる? まったく意味が分からない。
俺は奴のついでで…… 告白しようか迷った。それでも彼女が強引に求めるから。
「ちょっと待ってくれ! 君の返事を聞かせてくれないか? 」
ここまでされてただ振られるなんてやってられない。それに奴が発端。
俺はただ奴に付き合って告白したまで。それなのになぜ俺だけがこんな目に?
「バカじゃないの? 本気じゃないくせに! 」
完全に読まれていた。俺たちの企みが破綻する。
もうこれ以上言い訳を重ねたところで無駄だって分かっている。
「本気だよ…… 」
まずい。つい嘘を。何か言い訳しないと。でもどうすれば?
とんでもなく重たい雰囲気。もう逃げ出したい気分。
「ちょっと待ってくれ! 俺のことを無視するな! 」
今まで相手にもされてなかった陸がとうとう我慢できずに。
「あんたは関係ないでしょう? 入って来ないで! 」
「いや待ってくれ…… 最初に告白したのは俺だろ? 順番は守ろうぜ」
どんなことがあっても引かない情熱的な陸。
俺だって奴の情熱につい乗せられて今回の茶番に付き合った。
だからこそそんな奴の気持ちに応えてやって欲しい。
いくら予行練習でもそれくらいは頼むよ。
「はいはい。お断りします。それであんたよ」
奴を無視し俺を標的に。おかしな奴におかしなことされて不快なのは分かる。
でももうこれくらいで許してくれないかな。それが優しさだと思うな。
「俺かよ? 俺はただの振られた情けない男さ」
自虐的に格好つける。これでプライドは傷つかない。
それでいい。それだけで十分。本気で振られたらショックで立ち直れないだろう。
俺はそう言う臆病なところがある。
「ふざけないで! 悪ふざけでからかって!
こんなことしてたら本当に好きな人に振り向いてもらえないよ。それでいいの?」
勉強もできずいい加減だとばかり思ってたが少しは真面目に考えてくれたらしい。
それは物凄くありがたいこと。でもだったら奴のことも少しは考えてあげようよ。
俺はただ奴に付き合っただけ。しかも最低なことに奴だって利用しようとした。
あれ? 違うのか? まあどっちでも良いか。
「悪い。俺が間違っていたよ。また明日」
気まずい雰囲気の上なぜか俺だけ怒られる展開はもう耐えらない。
ここは出直すとしよう。
しつこく迫る陸を無理やり引っ張て行く。
ここは彼女の気持ちを優先する。
勝手な思いを押し付けても迷惑なだけだろうからな。
「おい! 引っ張るなよ! 」
まだ物足りないのが一名。
もう完全に相手にされてないのになぜまだ立ち向かえるんだ?
「いいから帰るぞ! 」
そう言ってピンチの場面をどうにか逃れる。
「何だってんだよ! まだ返事をもらってない! 」
奴は期待しているらしい。だがそれがそもそもの間違い。
「予行練習だろ? なぜ本気になる? 」
考えてることがちっとも理解できない。
あーあ。付き合いの上ノリで告白などしなければよかった。
これではただカウンターパンチを喰らっただけ。
しかも俺と来たら何も言い返せずにただ逃げるように去ってしまった。
「もう知らないからな! 希ちゃんに言ってやるぞ! 」
もちろん言う気などないがでもいい加減目を覚まして欲しい。
そもそも多くの女をものにしようなど浅ましい。
その辺の格好よく頭もよく話が面白い奴なら別だが。
せめて身長でもあればいいが陸はまったくの反対だからな。
無理だ。無理過ぎる。せめて勝手な行動を控えなければまともに相手されない。
俺だって似たようなものだけど……
格好は悪くないし頭は奴ほど悪くない。話は人による。身長は低い方だ。
まあもうあと一年もすればぐんぐん伸びそれこそ平均を超えると思っている。
だからあそこまではっきり言われたら傷つくし改心もするさ。
続く