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婚約者ごっこ

夜。遅めのお食事。

「婆ちゃんは遅いの? 」

「五年前にも来たろう? あの時だって祭りで大忙しだった。

その頃と大して変わってないさ。来るならもっと前か後でないと。

特に婆ちゃんは大事な演舞があるから忙しいんだ」

そう言うとさっそく一杯。

演舞か? 一度見たような記憶もあるがまったく思い出せない。

眠くてほとんど寝ていたような。


「悪いが明日は俺たちも朝から祭りの準備があるから相手できない。

明後日には世話してやれるからそれまで我慢してくれ」

そう言って寿司を頬張る。

「いえお構いなく。私たちは私たちで歩いて回りますので」

アイミはまだ婚約者ごっこを続けてる。空しくないのだろうか?


「うまいなこれ」

「そうだね海君」

近くの川で取れた魚を中心に構成されている。

「これ甘くておいしい! 」

アイミも箸が止まらないよう。

「ああそれはトラウトだ。トラウトの炙り。脂が乗っていて最高だぞ」

そう言って一口摘まむとビールで流し込む。


「おじさん俺も! 」

まったく遠慮なしの陸は俺なんかよりも父さんをコントロールできている。

「馬鹿野郎! ビールはお前らには早い! ガキのくせに調子に乗るな! 」

うわ…… まずい。長めの説教モードに突入しそうな予感。

「冗談ですよ冗談。でも無礼講って言うしさ。一杯ぐらいどう? 」

陸は動じない。慣れるともう奴のペースになる。

恐怖を克服した陸はいつものように調子に乗ってまた怒られるんだろうな。


「そうか。うん確かにおもてなし精神には反するな。よし飲め! 」

「わーい。では遠慮なくいただきます」

「馬鹿! やめなさいよ! お義父様もそれくらいになさってください」

アイミが必死に止める。


「アイミちゃん…… 」

「ペットにおかしなものを飲ませないでください。ねえあなた」

「誰がペットだよ! 」

「あんたでしょう? 」

おっとエキサイトしてきたな。

それにしてもまだ婚約者ごっこしてるよ。懲りないな。甘やかしては危険?

アイミの行動力を侮ってはいけない。本物のストーカーだからな。


「ははは…… 愉快だ。愉快」

父さんは大笑い。

大勢の来客は迷惑だが賑やかなのは大歓迎らしい。


「何をやってるんだい? バカだねアンたちは! 」

血相を変え止めに入った婆ちゃんが陸のコップを取り上げる。

「母さん。そこまで厳しくしなくても…… もうガキでもないんだからよ」

酔ったのかさっきまでの厳しさが消え擁護に回る。これも陸のおかげ?

だとすれば陸の奴も役に立ったってことになるのかな?


「婆ちゃんお帰り」

「ああ海ちゃん大きくなって。でもお帰りは婆ちゃんのセリフだよ」

目を細める婆ちゃんはちっとも変わってない。厳しいけれど優しい。

「それでこの子たちはどこの子だい? 」

「ああ。それは海が連れて来た友だち」

「いえ違いますよお義父様。私はお友だちではなく婚約者。

そして付き添いの姉の希。これは置物の陸」

ダメだ。アイミは酔っぱらってないはずなのにふざけ続ける。

「はあ何でもいいよ。それより海ちゃんお腹…… 」

「急に三人も増えたから寿司を取ったんだ。母さんの分もあるから」

「ああ寿司をとってまあ…… 言ってくれたら作ってあげたのに」

どうやら俺が行くのを伝えてなかったらしい。

それはなぜか分からない。父さんがそうしたのか母さんが頼んだのか。

まあ今更どっちでもいいんだけどね。


「婆ちゃんも一緒に食べようよ」

「そうだね。明日の晩は作るからさ。楽しみにしてるんだよ」

こうして林蔵さんを含めて七人で卓を囲む。

「そうだ。チュウシンコウって知ってる? 」

いきなり尋ねられても分かるはずもなくポカンとする二人。

「ああそれはたぶん何かの薬か何かだ。体に貼りつけるものだろう」

「そうだね。私もそんな気がするよ」

ダメだ。二人とも知らないらしい。でもどうも怪しいんだよな。


「林蔵さんは? 」

酔い過ぎたせいか意味不明なことを述べて寝てしまう。

「おい寝るんじゃないよ。照三送って行ってやりなよ」

「チュウシンコウってのは暗号だぞ。動かせばいいんだ。そして…… 」

「はいはい。行くぞ林蔵」

あれ今手掛かりがあったような。でもただの酔っ払いの戯言だからな。


林蔵さんが帰ったタイミングで俺たちも部屋へ。

和室が二間ほど空いてるのでそこを使うようにと。

普段から客間として利用してるので問題ないそう。


「畜生! 何で俺がお前と一緒なんだよ? 」

陸はまだ拘っている。

それは当然だろう? 俺たち親友なんだから。

アイミにしろ希ちゃんにしろ同じ部屋にはさせられない。

「なあ突撃しようぜ! 」

度胸もないくせに言うことだけは一人前。

「俺は遠慮するぜ。父さんに朝まで説教されたくないからな」

「ウソ…… 本気なのか? 」

「ああ。相当だから気をつけろよ。お前正座できるのか? 」

具体的なことを言って思い留まらせる。


「もう疲れたから寝ようぜ陸。明日も早いんだからよ」

「まったく付き合いの悪い奴だな。まあいいか。

それよりもチュウシンコウについて何か分かったか? 」

「ああ今それを考えていたところだ」

チュウシンコウを並べ替えても意味のある言葉にはならない。


「まあそれはお前の分野だよな」

そうは言うがこいつの分野って何だ? 

「お前は宇宙人についてでも考えてろ」

「うんそうする。おやすみなさい…… 」

ダメだ。もう寝ちまった。仕方ない。俺一人でもう少し考えてみるか。


                 続く

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