断念! ついに陸が仲間に
最後の乗り換え。
二両編成の薄汚れた黄色っぽい列車。
重厚で趣のあるクラッシックトレインが入線。
目の前に止まったその列車はなぜか開かない。
俺たちが右往左往してると地元らしきおばさんに早くしなよと割り込まれる。
備え付けの大きなボタンを押してさっさと中へ。
うん…… そう言えば五年前もこのボタンがあったな。
あの時も驚いた覚えが。これくらい常識だろうと父に笑われたっけ。
近づけば近づくほどより鮮明に五年前の夏のことが思い出される。
やはり田舎は違う。都会ではまず見られない光景。
このようなちょっとしたことで地元とよそ者が判別できてしまう。
気をつけなければ彼らは目を光らせているぞ。
下手に迎合してもダメだし好き勝手やるのも危険だ。
陸で実験するのも悪くないが油断は禁物。ここからは慎重に行動しよう。
引き続きボックス席でのんびり終点まで。
しかし危なかったな。この一本を逃せば二時間待たなければならなかった。
昼間は大体二時間に一本だから。
できれば遅れは十分以内に抑えてもらえたらこの後がスムーズに行くんだけど。
ただバスも最終ではないので待てばいいだけだが。
何もないところでいつ来るか分からないものを一時間以上待つのは拷問。
日が暮れれば恐怖でしかない。
それならいっそのこと歩いた方がマシ。ただ希ちゃんもいるからな。
ここまでは予定通り。順調に進んでいる。
トラブルメイカーの二人がいてこれなら文句ない。
後はどうか遅れませんようにと祈るだけ。
おかしなお友だちはそれぞれ秘密兵器の点検に余念がない。
捕獲で失敗したくないらしい。ただ見つけることが最難関なはず。
見つけさえすればどうにでもなる。それが分かってるのかなこいつら。
何だか急に空気が悪くなったような。気のせい?
「そうだアイミ。敵情視察に行ってくれ! 情報収集頼む」
アイミを使って宇宙人に関する情報とライバルの動きを探る。
単なる思いつきだけど有用な情報があるかもしれない。
それは何も宇宙人探しに限らない。
「ウソ…… 冗談でしょう? 何か嫌なオーラを感じるんだけど」
偏見に満ち溢れたアイミ。
「大丈夫。仲間だから優しくしてくれるよ。俺たちはその間に話し合うからさ」
アイミ一人に任せる。本当は希ちゃんでもいいんだがこの手のことは苦手だから。
俺も似たようなところがあるからよく分かる。
うまく話を聞き出すのはアイミが得意なはず。
この間にこれからのことを決める。
「おい! アイミちゃんに任せていいのかよ? 」
「大丈夫。心配ならついて行ってもいいがそうしたらたぶん相手が黙っちまうぞ」
ここはアイミに任せるのが一番。情報収集能力には長けている。
と言うか俺たちがあまりに向いてないだけだが。
ひとまず落ち着いたところで確認。
「お前たちも終点からバスでいいんだよな? 」
「そうそう。崖の谷停留所ってとこで降りるよ。
目の前は絶景と言うか恐怖が堪能できるって海外の人が紹介してくれたんだ。
本家はすべてカバーするからな」
何を言ってるんだか分からないがうんうんと適当に流す。
陸だから真面目に聞いていては頭がどうにかなる。
「俺たちはコミュニティーバスで山入り口まで行って歩きで一山登る。
そこから集落の近くまで行くバスに乗れば到着。
最終は五時だからたぶん間に合うと思うんだ。まあ無理なら歩くしかない」
とんでもない山奥の集落を目指す旅。そろそろ終盤に差し掛かろうとしている。
五年前はワクワクしていたっけ。
小さな子供にとっては大冒険。今だって大人がいなければ少々不安。
集落の者に食い殺されるのではないかと本気で思っている。
「うわ! とんでもなく遠いな…… 」
奴にはしっかり説明しといたのにこの驚きよう。大事なんだから覚えとけよな。
「さあ後二十分もしたら終点だ」
「ねえもしかして私も山を登るの? 」
苦手オーラを出す希ちゃん。
「仕方ないんだよ。こうしないとたどり着けないのだから。
五年前も普通に山登りしてたしね」
小さい頃は山登りするぐらい何てことはなかった。
海ちゃんはすごいねってあっちの婆ちゃんに褒められたっけ。
ああまだ元気かな? 連絡を取り合っていたのは主に爺ちゃんだからな。
「おいぼうっとするなって! それでどうなんだ? 」
危うく夢の世界に誘われるところだった。
「どうだったって何が? 」
「おい聞いてなかったのかよ? 今日の宿さ…… 」
「大丈夫。俺たちは離れにでも泊めてもらうよ。
さすがに迷惑になるかもしれないからな。一人ならいいが希ちゃんもいるから。
いきなりだからあっちも何かと気を遣いそう」
「そうじゃなくて。俺たちの泊まる場所がないって言ってるんだ! 」
何とまだ宿を決めてないらしい。
冗談じゃなかったのか? 本気で野宿する気かよ?
だったらいっそのこと宇宙船に泊まらせてもらえばいい。
「本気なのか陸? 」
「本気に決まってるだろう! どうしてこんなことでウソを吐くんだよ? 」
ここまでとは思ってもみなかった。
まさか二人を誘っておきながら宿がないって無茶苦茶だ。
もう無理だと泣きつくので仕方なく一緒に来るように誘う。
「いいのか? 三人もだぞ? 」
「離れは少々狭いがどうにか三人は寝れる。無理すれば四人だって」
「ははは! 持つべきは親友だよな」
「ただし条件がある。人探しに協力して欲しい」
「いやでも俺…… 」
「宇宙人探しと並行して行えばいいだろ?
お前だってそのために来てくれたんじゃないのか? 」
「うーん。でも先越されたらどうする? 」
「信じてるのか? 」
「当たり前だろうが! だからこんな遠くまで来たんじゃないか! 」
どうやら本気で宇宙人探しに来たのだろう。
仕方ないここは希ちゃんに任せよう。
「どうしよう希ちゃん? 」
「そうだね。私も陸君と一緒がいい。ううん…… 一緒に行きたかった」
見事に応えてくれる希ちゃん。俺たちは心でたぶん繋がっているんだろうな。
「へへへ…… 希ちゃんがそう言うなら手伝ってやるか」
こうして陸はついに仲間に加わった。
宇宙人探しがどこまで本気か気になるがひとまず封印してもらう。
残すはアイミだけ。どうにでもなるさ。
続く