二人きりの時間
やっぱりこいつらはバカだな。
俺がいつの間にかレベルアップして順位が変動したのだろう。
ぶっちぎりの陸に続くのは期待の新人アイミ。随分離れて俺が追いかける展開。
「その重そうなバッグが対宇宙人用だな? 」
重そうな荷物を二つも三つも持ってきてご苦労なことだ。
しかしこれでは機動力が落ちてしまわないか心配になる。
電車ではいいが歩きではその塊は自らを苦しめることになるだろう。
俺は持ってやらない…… と言うか持ってやれない。
電車を降りれば奴とは別れるのだからな。
「なあ陸ってば! 聞いてるのか? 」
「ああそうだ! これで俺たちはもう有名人に間違いない。ビッグになれる! 」
奴の中では膨れ上がってるんだろうな。
単純な奴だからバラ色の人生が待ち構えてると妄想して。
だがそううまく行かないのが人生。
ただ奴が有名人やビッグになれる確率は宇宙人発見よりずっと高い。
比較の問題だけどね。
「うわ凄い! 見て見て! ヒマワリがこんなに」
アイミが外を見るように促す。
車窓からの絶景。真っ黄色のヒマワリがまるでお辞儀してるかのようにこちらへ。
そう言えば五年前もそんな風に驚いた記憶がある。
あの頃を思い出さないように話題に出さないように無理やり封じ込めてきた。
それが最近じゃなぜか逆に無理に思い出そう思い出そうとしている。
「変わってないなこの景色。ははは…… 」
「何を浸ってやがる! そんなタイプじゃないだろお前? ははは! 」
大笑いでからかい始める陸。まったく人の思い出を何だと思ってるんだ?
「うるさい! からかうなっての! 」
「へいへい。だったら俺は手を洗ってくるわ。取られないように見張っててくれ」
どうやら対宇宙人用のアイテムはベトベトする上に臭いも強烈らしい。
陸には悪いが誰が取るって言うんだろう?
ただの粗大ごみじゃないか。
「私も…… 」
それから十分。陸たちは一向に戻って来る気配がない。
「どう何か思い出した? 」
急に寄りかかる隣の彼女。皆の前で何て大胆なんだ! 信じられない。
「もうそろそろ乗り換えだよ。でもこのままでいいと言うなら俺は…… 」
つい格好をつけてしまう。どうしようもないな俺?
「嬉しい! さあ一緒に最期まで…… 」
「おいおい。調子に乗り過ぎだぞ。皆が見てるだろ? いくら俺たちの仲でもさ。
あれ…… 希ちゃん? 希ちゃん? 」
こんな大胆な子ではなかったはず。そう言えば二人はどうしたんだっけ?
そうか。トイレに行ったんだった。駅にはあるけど和式だったからね。
陸はいいけどアイミは耐えられないだろうな。
「どうしたの? 」
「いや何でもない。そろそろ俺たちも降りる準備しようか? 」
優しく引き離そうとするがなかなかうまく行かない。
まあいいか。このまま駅まで行っちまっても問題ないだろうさ。
でもな…… こんだけ恋人気分なのに俺は真正面から裏切ろうとしている。
酷い奴だよな。自覚してるつもり。
会いに行くと言うことはすべてを捨てると言うこと。
でも時々思うんだ。平凡な日々だったのにいつの間にかこんな風に。
俺さえ諦めば希ちゃんもアイミも喜ぶはず。
もはや夢とも妄想ともつかないミライにすべて賭けていいのだろうか?
あっちだってもう忘れてる。そう考える日もある。いやそれが普通だ。
俺は今とても悩んでいる。せめてミライの存在が確定すれば本気になれるんだが。
あーやっぱり一人で来るべきだったな。仲間と旅するのは楽しい。
でもそれでは余計なことに気を取られどうしても本気になれない。緩むばかり。
だって世界中で俺以外誰にも知られてない存在。そんな彼女を追い求めるのか?
もう頭が痛いよ。そろそろ真面目に考える時が来たようだ。
探しに来たけれど本当に存在するのか? 幻の少女ミライは一体どこに?
大胆な彼女の温もりを感じては余計にそう思わざるを得ない。
最低だな。俺はまた逃げようとしてる。逃げ出そうとしている。
その存在を確定させたくないから逃げよう逃げようと。
だって今は仮に存在しなくてもミライが妄想だとしても俺は幸せ。
ああ揺れ動く。どんどん揺れ動く。
夏に入るまではこうではなかった。
どちらかと言えばここではないどこかへ行きたい。そんな風に思っていた。
それはミライのいる場所とかではなく日常とは違う体験ができる場所。
非日常を体験満喫できる場所を追い求めていた。
でも夏季補習でその流れが変わった。
大会でアイミが来たことにより希ちゃんが焦りだしている。
俺みたいな奴を求めて二人が争っている。
それはとても名誉でありがたいことであるけれどどうかな?
もう充分ではないかと思う自分がいる。
これ以上何を望む? すべてを失った先にミライが残るとはどうしても思えない。
「おーい。お前のも買っておいたぞ…… って何をしてやがる! 」
二人きりの時間を邪魔する陸。少しは察せよな? 子供じゃないんだからさ。
まあ奴にはその辺が難しいのだけれど。
「いやその…… 俺じゃなくて希ちゃんが急に…… 」
情けないことに人のせいにする。これは幻滅されたかな?
でも何とか言い訳しないと陸だからな。怒りに任せて何をすることやら。
中学からの仲だから大体のことは分かってるし対処法だって。
「何してるんだお前! 」
怒りから悲しみに代わったら危険なサイン。泣きながら突っ込んでくる。
続く