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告白

クラスでは目立たなくてもクラブでは人気のある希ちゃん。

地味で物静かで優しい彼女なら思いに応えてくれるかもしれない。

でもそれは俺にであって陸は無理だろうな。

相手との距離を測れない陸では希ちゃんが振り向くはずがない。

どうすればいいんだ俺は? 告白するのか? しない方がいいのか?

うーん。悩みがまた一つ増えてしまった。ああ何でこうなるんだろう?


帰り道に親友にアドバイス。

すべては昼飯の件をごまかすために。

「そうだ。いっそのこと告白したらどうだ? 」

「自信ないよ俺…… 」

らしくないことを言う。もっとポジティブに。

「付き合うよ。俺が告白すれば彼女だってきっとお前を受け入れてくれるさ」

適当な考え。思い悩む奴を元気づけようといい加減なことをつい言ってしまう。

「そうだな。お前凄いぜ! よしその作戦で行こう! 」

単純な奴。これで本当に良かったのかな?

恐らく玉砕するだろうな。きっと俺は責任を取らない。


翌日。補習二日目。

この学校では期末試験が悪いと休みに補習する恐ろしい習慣がある。

ほとんどの場合はきちんと勉強していれば答えられるものばかり。

選択問題なので空欄にしなければまったく分からなくても運が良ければ何点かは。

夏休みを潰されたくなけれしっかり勉強しろと。うまい仕組みを考えたもの。

その効果が表れて学年では俺たち三人以外はクリア。

これはいいと冬休みと春休み案も検討されてるがたぶん不採用だろうな。

ただでさえ教師の数が少なく困ってるところをおバカさんに使うのは間違ってる。

もし休みごとに補習されたら俺たち生徒よりも教師の方が音を上げる。


先生はもちろん担任でもなければ学科の先生でもない。

非常勤の先生が受け持つ。

普段から接触する機会がなくほぼ初対面。

恐らく全校集会や登下校には存在していたような。

だから当然教える方もただマニュアル通りにやるだけ。

こっちもこっちで何となく理解してるだけ。

そんな不毛なことを繰り広げて何になるのだろうか?

無駄だとは思わないのか? だからって補習を受けない選択肢はない。

三日間の苦行をどうにか耐えるしかない。


ああ…… せっかくの夏休みがこんなことで潰れて行く。どれだけ空しいことか?

ただ運動部を見れば分かる通り毎日練習に来ている。

それに比べれば涼しい室内。真夏のグランドは地獄でしかない。

お肌にだって悪いだろう。俺には関係ないんだけどね。


「よしそれまで。明日もきちんと登校するように」

教師一人に対して生徒三人。これが丁度いいのかもしれないな。

贅沢と言えなくもないが俺たちにとっては無意味なものでしかない。

補習二日目とあって慣れてはきた。

相変わらず内容が頭に入ることはなくそのまま抜けていく。

これが大変苦しいとかきついならそれも頷ける。

しかしいくら難しいと言っても勉強だからな。

もう少し何とかならない?


「よし予定通り実行だ! 」

自信満々の陸。奴のどこにそんな根性があるのだろう?

俺だって恥ずかしくて仕方ないのにその落ち着き。嫉妬するほど。

「おい待て! 話が違ってると言うかおかしな方向に行ってるぞ? 」

奴が暴走するのを止めるのはクラスでも部活でも俺の仕事。この夏季補習でも。

俺の想像を超える何かをしようとしている。

「いいから。付き合えって! 」

有無を言わせない。一体何を企んでいる?


二人で不毛なやり取りをしているとターゲットの女の子が立ち上がる。

もう帰りの時間。

「おい本気でやるのか? 今日? 」

最終確認。何なら思い留まって欲しい。そう願うばかり。

「いいからお前も付き合えっての! 」

何も考えられずにただ告白する。

ただ今日は例の希ちゃんがいない。

その代わりになってもらうのは補習仲間のお隣のクラスの女の子。


「ちょっと待ってくれ! 」

帰ろうとしてるところを無理やり引き留める。

「はい? 」

俺たちと一緒で頭は良くないと勝手に思っている。

本当にいいのかな? これは馬鹿だからで済まない気もするが。

「実は話があるんだ」

意外にもあっさり。もう少し恥ずかしがってもいいのに。

やはり奴は希ちゃんしか見てないんだろうな。


先生がいなくなり三人のみ。

さあ条件は整った。後は思いを伝えるだけ。

この二日でため込んだ思いを吐き出すのだ。

「あの急いでるの…… では」

補習仲間だと勝手に思っていたが彼女は俺たちをただの冴えない男。

存在感はあるものの空気か何かと考えてるのだろう。

迷惑だとばかりに立ち去ろうとする。


「待てよ…… いや待ってくれ! 」

逃げ出すように歩き出す彼女の肩を掴み格好をつける陸。

いい雰囲気だけど。これはあくまで予行練習なんだよな?

物凄い失礼だけど彼女はいい踏み台になってるって訳だ。

「もういい加減にしてよ! 何なの? 」

そう言うと振り返って掴んだ手を払う。


「あの…… 俺と付き合って欲しい! 」

直球で突っ込んで行きやがった。さすがだ。尊敬する。

とても俺にはできない芸当だ。尊敬はするけど俺は遠慮したいな。

「はあ? 何を言ってる訳? 」

呆れる彼女。それは俺も百も承知。ただ奴はそうでもないらしい。

「ウソじゃないんだ! 昨日から…… いや春から気になっていたんだ」

そう言ってモジモジする。以外にも本気らしい。

一体どうしたんだ? これは予行練習であり実験。

希ちゃんがどう反応するかを近くの女の子で試したに過ぎないのに。

それはそれで本当に酷いことではあるんだけど。

本気になってどうするんだよ?


自分がどんどん酷い人間になっているような気がする。

それで告白は成功したのかな? 


                続く

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