エイリアンタウン
「私怖かった! 」
思いっきり嘘を吐いて胸に飛び込んでくるアイミ。
あれだけキレていたのにすぐに猫を被る。
その切り替えの早さに驚くばかり。
まさか俺が騙されると思うのか? ああダメだ。つい抱きしめてしまう。
分かっていても逃れられない自分がいる。
危ない奴め。アイミは陸にお似合いさ。俺は希ちゃんだけでいい。
そう言ってもこれでは説得力ないだろうな。
「それでどうするつもりなんだ? 」
陸は冷静と言うか早く離れるように仕向ける。
「ほらアイミ。陸が…… 」
「もう邪魔しないで! 」
陸を睨みつけるアイミ。何と言う迫力だろうか。
「アイミちゃん俺…… 」
「よしいか? 二チームに分ける。俺たちはこのまま父さんの田舎へ。
陸たちは怪しげな宇宙人探し」
「うん。そうだな…… お前が行く村の近くには多数の目撃情報がある。
その名もエイリアンタウン」
勝手に命名する陸。センス自体は悪くない。
「ねえそれって地図に載ってるの? 」
アイミはあまり頭が良い方ではない。地理も苦手。
「いや…… とにかく今向かっている近くの村を集中的に探そうと思う」
陸はアイミの質問をスルーする。
「あの…… 小さな宇宙人は危険では? 」
希ちゃんが表情を曇らせる。
「だから小さいかどうかもよく分かってない。安全か危険かなら危険だろう」
「やめた方がいいよ陸君…… ほら海君もやめさせて…… 」
心配性の希ちゃん。まさか本気で宇宙人が存在するとでも?
別に俺はどっちでも構わないが宇宙人などいるはずがない。
ただここで指摘するのも大人げない。
何も楽しみにしてる奴の邪魔をすることもないよな。
「注目! 宇宙人捕獲用の網を作ってみたんだ。どうだ格好いいだろ? 」
陸はこの日のために事前に訳の分からないアイテムを用意したらしい。
どおりでバックパックがパンパンな訳だ。
どうやら今年の自由研究を完成させたらしい。
せっかくだから俺が評価してやることに。
「よくできました。来年も頑張ってくださいね」
「先生…… 褒めてくれるんすか? 凄い嬉しいっす」
褒められ慣れてない陸はつい感動のあまり涙を流す。
「うんうん。それでいいんですよ」
「先生! 」
「陸君…… 」
「ちょっとどこまでふざける気? 恥ずかしいでしょう? 」
冷たい視線が刺さる。せっかくの即興劇。陸さえ騙せたのにアイミは冷静だ。
「ほらお母さんも喜んでおられる」
「ええ…… 私? まだ結婚してないのに」
困惑する希ちゃん。問題児の陸を子供に持つと何かと大変だ。
「お母さん。陸君を褒めてやってくださいね」
「はい…… ちょっと…… 」
うん暇つぶしにはなったかな。当然高校では自由研究ないけどね。
「お前どう思う。感想を聞かせてくれ」
「格好いいかは別としてそんな小さいので本当に捕まえられるのかよ? 」
「ははは! これは小さな宇宙人用だ。電気が流れる仕組みになってる」
「普通サイズはどうするんだ? 俺たちよりでかい場合だって当然あるぞ」
そう指摘すると笑いだす。
「その時は別の秘密兵器を用意している。だから捕獲作戦は問題ない。
宇宙人は任せろ! 」
余裕の陸。この暑さにやられたのかおかしな妄言を繰り返す。
「いい加減にしろよ! 捕獲するのはいいが肝心の宇宙人をどう見つける?
絶対にやめた方がいい! 」
はっきり言ってしまえば捕獲は犯罪行為な気がするし野蛮でしかない。
奴ならやりかねないから念のために釘を刺すことに。
万に一つもないとしてもシミュレーションしておくべきだろう。
「まあ見つけたら記念撮影でもすればいいさ。
それよりどう見つけるか。探し方はどうする? 」
肝心なところが抜けている。まさかこの程度で探索する気じゃないだろうな?
万全な対策を取ってようやく探しに出掛けられる。
陸のそれは滅茶苦茶でいい加減でしかない。
迷惑を被るのは周りでたぶん俺たち。アイミが一番の犠牲者になりかねない。
それはそれで楽しければまだいいが。この真夏にやることじゃない。
そんなごっこ遊びは小学生がすることだと思うんだが。
「捕獲することしか考えてなかった。いなければいないでいいんじゃない? 」
ダメだこいつは。何も考えてないじゃないか。ある意味無欲とも言えるけれど。
こう言う奴が意外に発見するんだろうな。でもそれもいればの話だが。
宇宙人が仮に存在するとしてその宇宙人がたまたま地球に来ててたまたま日本へ。
そしてたまたま運よく見つかる。一体どれだけの確率だと言うのだろう?
俺は頭がよくないので希ちゃんに聞くのがいいかな。
「よし分かった。見つけたら一番最初に知らせてくれ。
それ以外は報告しなくていいから」
「おお…… 何だかやる気が出て来たぞ! よし探すぞ! 」
いきなりスイッチが入った陸。興奮している。
これはやる気スイッチが入ったのではなく暴走スイッチが入っただけ。
「ははは…… バカだなお前って奴は! 」
「何だと俺を侮辱する気かこの野郎! 」
ちょっと本当のことを言うとエキサイト。これでは先が思いやられるぜ。
「いや宇宙バカって言ったんだよ。要するにお前はその手の専門家って意味だよ。
だからこれは貶したんじゃなくて褒めたんだよ。なあアイミ? 」
「ちょっとこっちに振らないでよ…… そうそう立派なバカだから」
「そうかな? 希ちゃんもそう思う? 」
「フフフ…… 私には三人ともバカに見える」
褒めたつもりだろうがただ貶してるようにしか思えない。
「そうだろ! うんうん。俺たちバカだもんな」
「うん。皆揃ってバカ」
陸とアイミが満足そうに繰り返す。
やっぱりこいつらはバカだな。
続く