妄想と現実
車内では重苦しい空気が漂う。
気分を変えるためにも陸の妄想話に付き合うことに。
俺からしてもいい暇つぶしになるし追及をかわせるかと。
テーブルをきれいにしてから宇宙人と宇宙船に関する資料を並べる。
ぐちゃぐちゃでまとまりもなくところどころ抜けていたりする。
奴が今までに集めた調査資料。
興味がないのでどれだけの意味と価値があるのか見当もつかない。
「それで調子はどうだ? 」
軽い気持ちで聞いたが意外にも黙り込んでしまう。
「陸? おい陸ってば! 」
「ああ…… 二人には言ってなかったが俺さ宇宙について研究してるんだ」
オーバーでかつ普段見せない真剣な表情を浮かべるものだから拍手が巻き起こる。
「そうそう。何か新発見があったんだろ? 」
昨日行くと言った時は正直驚いた。止めなければと焦りもした。
でも奴のことだから次の日にはどうせもう忘れてるだろうと楽観視していた。
「最新の目撃談によるとお前の帰省先付近で複数見られたらしい」
「おいおい本当かよ? 冗談じゃなかったのか? 」
疑いたくはないが何と言っても研究内容が研究内容だけに。
「へえそうなんだ」
興味なさげなアイミがチョコをつまんで適当に頷く。
困ったな…… こう言ういい加減な返しされるのが一番迷惑なんだよな。
いるはずがないときちんと否定しないと奴を調子づかせることに。
「そうなんだよアイミちゃん。実は…… 」
こうなると止まらない。どんどん話が長くなってしまう。
それが陸の悪い癖。改善されることはないだろう。
俺たちはもうガキじゃない。そんな妄想に付き合ってるほど暇じゃない。
いい加減目を覚ませと言いたくなる。まあ俺も人のこと言えないが。
「へへへ…… 希ちゃんも興味あるでしょう? 」
まったくいい加減なことばかり。常識で考えればいないと分かりそうなもの。
「ごめんなさい。何一つ興味がないの」
はっきりしっかりと。そうこれがアイミにも期待していた返し。
「そんな希ちゃん。未知との遭遇も宇宙船発見も男のロマンだよ」
理解してくれるものと信じ迫る困った奴。誰もそこまで興味はないって。
いつもふんふんと聞いてやっていた。
今回だって暇つぶしと追及逃れにはちょうどいいと。
「分かったって! そんなに興奮するなよ! 」
希ちゃんに相手されないので代わりに俺が宥める。
陸はすぐに熱して暴走してしまう。そして自分の世界に入ってしまう。
どんなに呼びかけても満足するまで戻って来ない。
「いいか俺たち調査団は見つかるまでどこまでも追い続けるぞ。
手掛かりを見つけるまでは帰れないからそのつもりでいろ! 」
格好つけて専門家を気取り命令するも何て言っても宇宙人探しだからな。
「ウソ! そんな話聞いてない! 」
慌てて反対するアイミ。興味なさげに大きなため息を吐く。
「海君が元気なくて心配だって言うからついて来ただけで。
宇宙人もその手の話にもまったく興味ない」
希ちゃんも優しくない。陸がその手の話をすればするほどしらけていく。
「本気? 何なのこの人? 」
アイミも心底呆れている。
「身長百センチにも満たない小さな宇宙人だ! 俺は見たんだよ! 」
夢のお告げがあったのだとか。
奴の言うことだから当てにはならない。話半分に聞き流すぐらいがちょうどいい。
「それで捕獲に向かうつもりだが…… 」
興奮状態だがそれは危険では?
「ウソでしょう? 嬉しくない。成功しても何一つ楽しくないじゃない! 」
必死に訴えるも却下される哀れな男。
徐々に雲行きが怪しくなっている。ここは切り替えよう。
「まあいいや。話は変わるがそれでどこに泊まる気なんだ? 」
「それが…… まだ具体的なことは何一つ。
調べが着いてから宇宙人探しを始めようと思う」
呆れたな。宿さえ決めず突っ走るとは。予想してたがここまでとは思わなかった。
一人じゃないんだぞ? 女の子二人も連れてまさか野宿する気か?
「ウソ? 全部任せろって言うからついて来たのに…… 信じられない! 」
絶望感が漂う。アイミはどうやらものにでも釣られたのだろう。
「私も…… 海君が可哀想で心配でついて行きたいって言うから……
協力したのに宇宙人とUFO? 冗談はよそでお願いします! 」
アイミはいつものおふざけだろうが希ちゃんは相当怒ってるぞ。
一体どんな風に誘ったんだよ? まさか俺にすべて押しつけないよな?
「頼むよお前。何とかしてくれよ」
うわ…… 初めからその気間満々。どうしてこうなった?
いきなり思いついて即実行する陸を見直したのに。
ただの無計画で無謀な旅だったとは。
俺に一切の責任はないが奴だって俺を心配したのは嘘じゃないだろう。
どうしよう? 困ったぞ。
頭をフル回転しても何も思い浮かばない。
仕方ない。ここは予定通りアイミを取り込むか。
「なあアイミは俺と一緒に行ってくれるよな? 」
元ストーカーで俺を慕って入部した新入りだ。
さすがにこれだけ条件が揃えば嫌だとは言わないだろう。
まさか陸の尻拭いをさせられるとは。このままではどのみち重い空気のまま。
俺が何とかするしかない。
「もしかして私に初恋の相手を探す手伝いをしろっての? 冗談でしょう? 」
まずい。下手を打った。これでは二人は次の停車駅でとんぼ返りすることになる。
それはほぼ俺には関係ないことだが泣きつかれた友のため。
何とかしてやるのが本当の親友だろう?
いつも迷惑と混乱とトラブルを起こす奴。
俺が何とかしないともうどうにもならない。
そんなこと分かってるんだけど頭が回らないんだよな。
「ねえ海君。私は手伝ってあげてもいいよ」
おお…… さすがは物分かりのいい希ちゃん。優しいんだよな。
「そうか。だったらここで二チームに分かれようか」
一気に畳みかける。
俺と希ちゃんの人探しチーム。
陸とアイミの宇宙人探しチーム。
きれいに二組に分かれれば効率的だろう。
俺だって一人で探し出すのには無理があるのではと思っていたところ。
仲間がいるに越したことはない。しかもこの中では一番賢そうで使える。
「よろしく海君」
何と行きの電車でもう見つかるとはラッキー!
「本当にいいの希ちゃん? 」
「うん。そのために来たようなものだから」
やった! これできっとうまく行く。
嬉しさのあまり声が出そうに。大声は出せないので拳を突き上げ喜びを表現する。
他の乗客の迷惑にならないようにマナーを守るのが俺のやり方さ。
続く