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旅の目的

『紅心中 心(捜索編) 』



列車は定刻から五分遅れで出発。

五分ぐらいであれば問題ないがこれ以上遅れれば予定に響く。

電車の性質上五分遅れると乗り換えまでには十分以上遅延することになる。

ただその辺も含めて余裕を持ってのプラン。

とは言えトラブルメイカーの二人を抱えての旅だからな。

先が見通せない。


ふうようやく落ち着いた。

「皆俺のために…… 」

大げさに感謝の言葉を述べる。それにさっそくアイミが反応。

「足を怪我したり不運続きだったから一人では心配でしょう。

私がお世話しないとダメになると思って」

アイミは本当に優しいな。でもそれは思い込みだろう?

ストーカー気質の彼女には恐怖の念が禁じ得ない。


「ありがとう。でも二人とも予定があったんじゃないの?

今からでも遅くない。見送りだけで充分だよ」

どうせ陸の奴が誘ったんだろう。昨日話をしていたからな。

「馬鹿にしないで! あなたのために行くんだから! 」

アイミは必死。希ちゃんはと言うと……

「私は…… 」

そこで止まる。どうやら陸に無理やり誘われたんだろうな。

優しく押しに弱いから。俺がいるから来たなら嬉しいが。

でもそんな二人の気持ちを裏切る真似を今からしようとしてる訳で……

何だか悪い気がする。

まあいいか。どうせ行きだけだからな。


俺は父さんの田舎に帰省ついでにミライ探し。

陸たちは出没の噂のあるスポットに行き宇宙人と宇宙船探し。


目的がまったく違う。

俺はずっとこの機会を待ち望んでいた。

これを逃せばもう二度とミライには会えないだろう。

それはミライも言っていたこと。祭りがある五年以内に迎えに来て欲しいと。


それに対して陸は一昨日思いついた。信じられないが事実だ。

計画などなくその時の感覚で動いている。

そこに希ちゃんたちを巻き込むから困ってしまう。


それにしても今日は人が多いな。

早朝とは言え暑くて動きが鈍いはずなのにそれでもこんなに大勢の人が。

やはり皆同じように帰省だろうか?


「そろそろ弁当にしようぜ」

マイペースな陸は我慢できずに騒ぎ出す。

まさか今回も奴のお守をする羽目になるのか。それは嫌だな。

旅でも奴の世話などまっぴらごめん。また尻拭いさせられるかと思うと頭が痛い。

「だから言ってるだろう? 弁当はもう少し待ってくれって! 」

ずっと飯を早くしろとうるさい。

別に俺たちは駅弁を食べに来たのでない。

目的がある。きちんとした目的のために意を決して行動したはずなのに。

どうも緊張感がない。


「なあお前たちは別の目的があって来たんだろ? 」

本気で心配だからってここまで来る訳ない。

もういい加減本当のことを教えてくれてもいいのに。

「だから俺たちは宇宙船探しに来たんだって! 聞いてなかったのか? 」

真顔でそう問われと納得するしかないがどうもしっくりこない。

「昨日聞いた。まさか本気だと普通思わないだろう? だから別に用が…… 」

「はあ? これ以上ないくらいに本気だっての! 」

うん? やはりただの宇宙人探し? あまりにも荒唐無稽なので疑ってしまう。

まだ疑わしいがそれならそれでいいか。


気分を変えて外の景色を見る。

うん穏やかな天気だ。

いつか希ちゃんと二人っきりで旅行ができたら。へへへ……

妄想がより具体的になってきた。

あれ? 俺は一体何を考えてるんだ?


うわ…… 重そう。

陸のバックパックが目に入る。パンパンでいつ破れてもおかしくない。

目的達成には荷物は多い方に越したことはないが一体何を入れて来たのやら。

「おかしな音がしないか? 」

どうも奴の方から聞こえる。カチカチと時計の針が動くような音。

しかし揺れ動く車内でこれほど音がするものか? 気になって仕方がない。


「どれどれ…… 」

「やめろって! 」

どうせ暇だから確認しようとするが意外にも拒絶する陸。

らしくない。どうしたのだろう?

それは希ちゃんもアイミにも言えること。

さっきから話し込んでいる希ちゃん。

相手は陸だからもうよく分からない。

一人だけ仲間外れにされた気分。


「ああ俺もそう思うよ」

陸は余裕をかます。

無口で寡黙で控えめな希ちゃんが笑顔でスキンシップ。

部活でも学校でもこれほど積極的な希ちゃんは珍しい。いや見たことがない。

逆にアイミがさっきから無口でぼうっとしてる。

まるで二人が入れ替わったか? それはないので性格が入れ替わったか?


どんどん

どんどん

振動でリュックが揺れる。そこから音が漏れている。

「なあいい加減荷物の中身ぐらい教えてもいいだろう? 」

「つまらないことに興味があるんだな」

陸は必死に抵抗する。


「何だそれ? 」

「うるさい! 俺には超貴重なんだよ」

どうやら宇宙船の地図か宇宙人発見器か何かだろう。

まあいいさ。ここは静かに。無理はさせない。


宇宙船か? あるのかな?

あったら凄いよな。大発見だしそれこそ一躍有名になる。

取材が殺到して天才高校生として持てはやされるだろう。

俺は親友としてインタビューを受け間違って奴の正体をばらしてしまう。

これくらいは大したことじゃない。


へへへ…… おかしな妄想をする。

あり得ないことだがその可能性がゼロじゃない以上応援してやるのが親友だろう。

でも奴には恐らくそこまでの力と運はないだろうな。


「なあ発見したらどうするつもりだ? 」

「そうだな…… うーん俺は…… 」

陸の奴考えてなかったな? それとも照れくさくて言えないのか?

そんなタイプではないからほぼ間違いなく考えてない。それが今の状況。

引き延ばして引き延ばしてどうにか考えてるがダメらしい。

そもそも考えられるならここまで重症なはずない。


「はいストップ! 」

アイミに止められる。もう時間がないから後にしろと口うるさい。

「そうだね。落ち着かないよね」

希ちゃんも優しく諭す。

「そうだぜ。俺も落ち着いてからゆっくり発表しようと思うぜ」

逃げやがった。どうせ何も考えてないくせに。


ガタンと音がすると最初の乗り換え駅に到着。



                続く

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