旅立ち
旅立ちの朝。
汗を掻いてるらしい。
まったく嫌な夢を見る。どうやら俺は怖がってるらしい。
こんなにも近づいたのにここまで来て引き下がれるか!
「どうしたの海人? 大声出して! 」
様子を見に来た母さん。どうも怪我で入院してから敏感になったらしい。
大丈夫だと言うのに心配性なんだから。
「ああ母さん。おはよう。ふわあーあ! 」
どうも寝不足気味なのか大あくび三連発。
「ほらゆっくりしてないで急ぎなさい。あなたも今日からでしょう? 」
母さんと婆ちゃんを残して行くのは忍びない。
でも大丈夫。二人も午後には家を出るだろうから。
合宿での怪我もあり出発が延びに延びたせいで母さんたちと合わせる形になった。
問題は家を空けてる間のパンの世話だけだが……
留守の間知り合いのお家で預かってもらうことに。
さあ後のことは母さんたちに任せて俺は出掛けるとしよう。
うーん。何だか緊張するな。もう少しで会えると思うと気持ちが高まる。
あっちではもちろん父さんにも爺ちゃん婆ちゃんにも会う予定。
この緊張はただミライに会う不安からだけではなく父さんたちとのこともある。
五時半。朝から気温がグングンあがり爽やかな朝とはいかない。
最終確認を終え荷物を背に駅へ。
さあ一人旅の開始だ!
そう勢いづくが駅では陸たちが待っていた。
「遅いぞ! 置いて行っちまおうかと思っただろうが」
「何だやっぱり来てたのね…… 」
「おい。昨日約束しただろうが」
「いやそうだけどさ…… 」
「おい俺たちじゃ不満だって言うのか? 」
「まあま。お互い頑張ろうぜ」
「そう来なくっちゃ! 」
俺は帰省してミライと再会する。
奴は出没スポットで宇宙人または宇宙船を探す。
目的もジャンルも違うが方向が同じと言うだけで一緒について来た。
迷惑だけは掛けないでもらいたいな。
初めてではないが久しぶりの帰省。余計な心配ごとは増やさないで欲しい。
奴にいくら言っても無駄だろうが。
迷惑も考えずに騒ぎ出す陸。奴の世話もやっぱり俺がすることになるのか。
「希ちゃん久しぶり。奇遇だね」
「ふふふ…… 」
そうそう笑ってやってくれ。奴の張り切りようと言ったらない。
「さあ行こうか! 」
改めて出発する。もう時間だ。
「待ってくれよ! まだアイミちゃんがまだ…… 」
必死に止める陸。でも遅れたらシャレにならない。
だから遅れた者は容赦なく置いて行く。それが旅であり団体行動である。
陸だって合宿の時に嫌と言うほど味わったはずだ。
ルールや時間を守れない者を連れて行く必要はない。
俺のストーカーで新入部員のアイミ。
存在さえあやふやだからここはスパッと判断するのがいい。
もうどこだよ?
迷惑ばかりかけやがってアイミの奴め。どこにいる?
いくら探しても見当たらない。
「行くぞ! 遅れちまう! 」
非情な決断をする。これは仕方ないこと。
あくまで目的は帰省。なぜかついてくるらしいが遅れるなら仕方ないよね。
急いでホームに。出発が迫ってる。これ以上は待てない。
さあ行こう! ミライに向かって!
「ああ遅いよ皆! 早く! 」
無邪気なアイミが姿を見せる。
「何でお前がここに? 」
「いいでしょう? 人数が多いに越したことないでしょう」
いつもの手だ。告白して以来どうもつきまとわれて正直困っている。
確かに笑顔だって悪くない。スタイルだって抜群だ。
でもだからって勝手についてこられても……
せめて待ち合わせ場所にいろよな。探しただろうが。
何も言わずにホームで先に待たれても困る。
「何でもいいから行こうぜ」
陸が張り切る。こいつが張り切るとロクなことが起こらない。
ああどうしよう…… いきなり出鼻を挫かれたそんな気分。
列車は定刻から五分遅れて出発。
こうして四人は旅立った。
紅心中 紅(学園編) <完>
予告。
紅心中 心(捜索編) スタート!
改めて登場人物紹介。
<主人公>
海人 いつもは海と呼ばれている。
この物語の主人公で高校二年生の男の子。
サマー部では副部長兼書記を任されている。
両親の離婚により現在母と祖母の三人暮らし。
五年前に父の故郷で出会った女の子が忘れずに引きずっている。
タイムリミットの五年が近づきついに帰省することに。
陸 同じ高校に通うサマー部の仲間。
中学時代からの仲で親友と呼べる存在。
希ちゃんにご執心だが相手にされない。
勉強はできずに学年でぶっちぎりの最下位。三連覇を達成したほど。
突然暴走する癖があり手がつけられない。
行動派で現在電動自転車で国内一周を目論んでいる。
マニアックで宇宙人探しをしており特に宇宙船に目がない。
恐らく達成することはないだろうがとにかく情熱的。
桃太郎で言うところの賢くないサル。
希 サマー部の仲間でダブルヒロインの一人。
希ちゃんと呼ばれている。
かわいくて大人しいが暗く人を寄せつけないところがある。
それでも陸が気にせず突っ込んで行くので現在は仲良し三人組。
冬に告白するもまだ恋人には程遠い関係。
頼まれると断れない性格ゆえにトラブルメイカーの陸に振り回される。
桃太郎で言うところのキジ。
アイミ 本名はアイム。愛と夢でアイム。友達からはアイミと呼ばれている。
補習組の一人。頭は三人の中では一番いい。
補習の時に告白するも振られるがなぜか次の日に告白を受ける。
どうやらあまり頭がよくないようだ。
大会まで追いかける筋金入りのきれいなお姉さん。
桃太郎で言うところの犬。
準備が整ったようだ。さあ旅に出掛けよう。
集落のメンバー。
伊丹治 集落を支配する一族の者でチュウシンコウに興味を示す。
絶対的権力の持ち主で表向きは誰も逆らえない。
危険な存在で虎視眈々と狙っている。
ミコ 祭りで踊る巫女。
隣の家の女の子。
ミモリ 謎の男。
チュウシンコウの謎も例の少女の存在も知っていると思われる。
早く帰るように迫る。
鶴 ミモリの紹介で知り合った老女。
チュウシンコウにも詳しく話好き。
謎の少女 五年前に出会ったとされる女の子。
ミライ?
続く