参加表明 観測理論
陸が戻って来る。やはり嘘がバレたらしい。
でも準備完了したから少しは相手してやるかな。
「嘘つきやがって! 」
「大体考えれば分かるだろう? ガキじゃないんだから絵日記はあり得ない」
俺が悪いんじゃない。気づかないのが悪いと強引に奴のせいにする。
「ふざけんな! 信じてたのによ! 」
陸がキレて大声を上げる。もう勘弁してくれよな。
無理矢理誘って困らせたのはそっちじゃないか。
「どうしたの陸君? 」
陸の大声に血相を変えて飛んでくる。
「何でもないよ母さん。明日のことで話が…… 」
「そうなんだよ。俺つい興奮して…… 」
「ああお土産ね。ちゃんと買って来るから心配しないで」
そう言うと出て行った。
陸さえも気を使って嘘を吐く。何だか悪い気もする。
「悪かったって陸。この通り」
頭を下げる。
ふざけ過ぎたと反省。
「だったら俺たちもお前について行くからな」
あれ? ここは普通俺も悪かったと謝るところだろう?
なぜ自分の意見を通そうとする? 確かにそう言う奴ではあるが。
機嫌が直ったならまあいいか。
「聞いてるのか? 俺たちもついて行く」
「ああ別に邪魔しなければ構わないよ。でも今から? 」
「それなら大丈夫。もう手配済みだ」
「お前? どこに行く気だよ? 」
「だから親父さんの故郷近くだって。あそこでたまたま目撃情報があったから」
「ウソだろ? 宇宙船が? 宇宙人が? 」
「両方。しかも複数。だから俺も運命だと思って行こうかと」
とんでもないことを言いだす陸。もはや頭がどうかなったのは確定だろう。
これは行動的とかポジティブとかでは説明できない。
「分かった。止めないって。でもさっき俺たちって言ってなかったか? 」
「ああ言った言った」
「それってまさか…… 」
「希ちゃん。それからアイミちゃんも」
ははは…… そうだろうな。いつものパターンで驚きもしない。
でも断るにはちょうどいい理由ができた。
「おい冗談だろ? どうしてそうなる? 俺は降りるぜ」
「頼むよ。お前が行くから二人ともついて行くんだからさ」
うわ…… 恐ろしい展開が待っている。どうしよう?
「じゃあまた明日! 」
言うだけ言って帰って行きやがった。
ついに明日すべてが分かる。実際は明後日以降だろうけど。
俺寝れるかな?
まずは第一関門の父さんの実家。
連絡済みだから歓迎してくれるとは思うけれど。
ワクワクと同時に嫌な予感がする。直感では長引くのではと思ってる。
五年前が最後だったよな。
まだ元気なら婆ちゃんと爺ちゃんがいるはずだ。後はよく分からない。
現在午後十時前。いつもはこれからが本番の時間帯だが今日は違う。
明日は五時に起きなければならない。六時には駅に着いてる計算。
そのためには十時ではギリギリ。
九時には寝る必要があるが寝ようとしても目が冴えて仕方がない。
どうしよう? 眠れなくなったら最悪だ。
暑くて痒くて寝れない。
ああどうしよう? これじゃ明日起きれないよ。
やっぱり普通には寝れないか。緊張して眠気がどこかへ。
もう一度確認。明日は五時起き。飯は食べずに駅へ。落ち着いてから弁当でも。
一人ですべて計画していたがどうも呑気な一人旅にはなりそうにない。
十一時。
急に眠気が…… ダメだ。もう限界。
おやすみなさい。
いい夢見られるかな?
「ねえどこに住んでるの? 」
霧が掛かってるのかちっとも顔が見えない。
「お前は誰だ? 俺が見えるのか? どこだ? どこにいる? 」
「私は…… まだ誰でもない」
「はあ? 何を言ってるんだ? 訳が分からないぞ」
「観測されてないから私はまだ誰でもないの」
「観測? 」
「そう観測…… 」
観測理論? 量子力学かよ。
難しい用語が出たがそれでも俺は頭はよくない。
量子力学の専門家ではない。ただの高校生だ。
前に見た青春系のアニメの影響だ。
確かウサギさんを追いかけたらブタにされるちょっと独特の世界観。
そんな夢みたいなお話。夢? これは夢なのか?
「ねえあなたは誰? 」
どうやら俺をからかってるらしい。よくやるぜ。
「人間だと思う」
「当たり前! それよりどこに住んでるの? どこから来たの? 」
どうも怪しい。なぜそんなどうでもいいことを聞くんだ?
「そんなことよりここはどこだ? いい加減答えろ! 」
一番重要なことを聞きそびれていた。
「ええ? あなたの夢の中でしょう? 」
声は聞こえるのに見えない。何だかもどかしい。
「俺の夢の中? だったら好きにしていいんだな? 」
「それは困る…… 」
声から判断すると本当に困ってるらしいがどうだか?
もう夢だと認識してるのになぜか夢は覚めようとしない。
これは脳が何かを感じ取って指令を送ってるのだろうか?
だとすればこの夢は昔の記憶。過去の思い出。
それでも納得しない部分がある。
最近頻繁に見るようになったあの頃の記憶が蘇る。
「なあそっちに行っていいか? 」
ここで押し問答しても仕方がない。行動あるのみ。
「来ないで! 来てはダメなの! 」
霧で顔が隠れてよく見えないがたぶん彼女のはず。
「どうしてそっちに行ってはダメなんだ? 」
「だって…… 」
「はっきりしてくれよ! 」
「お願い! これ以上来ないで! あなたが苦しむことになる! 」
ついに牙を剥く夢の中の彼女らしき人物。
もう知らねえ! 誰が言うことを聞いてやるものか!
強引に声のする方へ歩きだす。
「ダメ! それ以上近づくな! 近づくな! 」
ガードは堅そうだ。せっかくお近づきになれると思ったのに……
「出ていけ! 二度と近づくな! 」
うわ…… 待ってくれ。うわああ!
旅立ちの朝に最悪の目覚め。
じっとり汗を掻いてる。これは着替えないと。
まったくなんて目覚めの悪い夢を見るんだ? どうやら俺は恐れてるらしいな。
だがここまで来て引き下がれる訳がない。
続く