おぼん
冗談だろ? 宇宙船探し? 一体陸は何を考えているんだ?
誘いをどうにか断ろうとするが食い下がって一向に帰ってくれない。
もう明日なんだぞ。邪魔しないでくれないかな。
「俺たちは行く運命なんだよ! 」
情熱的な陸がしつこく誘いをかける。大げさに運命とまで。
それは奴の運命であって俺の運命ではない。
「いい加減にしろ! しつこいぞ! 」
「いいからいいから。一人よりも二人の方がお得だぞ」
まったく動じない。自分のことばかりで少しも俺のことを考えない。
どうやら本気で俺を誘ってるらしい。
さっきから俺たち俺たちと。まさかすでに俺もメンバーに入ってるのか?
できるなら早く帰ってもらってこちらとしては準備に取り掛かりたい。
どうしたら大人しく帰ってくれるんだ?
「正直に言うと電動自転車が壊れたんだ」
「あれが壊れた? まあ酷使したからな。当然だろう? 」
「高かったんだぞ! 」
「ははは…… それで転んで足を怪我した? 」
「いやそれはお前だろ? 俺はそんな間抜けじゃない! でもよ…… 」
陸はついにすべてを語る。日本一周再開後すぐに不具合があり昨日戻って来たと。
だから正直暇で何かないかと考えたらしい。そして今回の考えに至ったのだとか。
要するに思いつき。無計画の行き当たりばったり。
たとえそうでも俺を巻き込むことないだろう? 迷惑を考えろよな。
とんでもない奴だ。
「大人しく実家に帰ればいいじゃないか? せっかくのお盆なんだからよ」
奴が実家がここだって知ってるのに意地悪を言う。
奴には帰る田舎も故郷もない。ここで生まれたから当然ここが故郷だ。
故郷がある奴がうらやましいぜと言ってたがどうやら冗談でもなさそう。
ここも首都ではないが少なくてもベッドタウンではある。
多くの者は田舎を持っている。どこから来てどこかへ。
陸たちは三世代前からここに住んでいるそう。
だから元々どこだったとかそう言うのは祖父に聞けば分かるが興味ないそう。
そう言う奴も珍しいが最近では意外にも少なくないらしい。
だって俺だってこの土地に引っ越してきたのは住みやすいからだし。
もしここにひ孫の代までいれば同じことになる。
と言うかこれ以上どこに越すと言うのだろう?
成功して首都に住むにしても大して変わらないだろうし。
住みずらいだけ。だったらずっとここにいる方がいい。
あるとすれば町おこしプロジェクトとかで田舎に越すぐらいだろう。
海外に住むなんてこともあるかかもしれないが。
意外にも月や別の惑星に引っ越してることだって。
地球脱出も視野に入れる必要があるな。
国家や一大プロジェクトなどではなく民間のロケットが飛んでる時代だからな。
民間による宇宙旅行もごく短いものとは言え成功している。
おかしな金持ちが大金を叩いて宇宙旅行の夢を叶えたりもした。
だから何世代かすれば当然のように宇宙旅行が安全で当たり前になる。
実際はそんなことにはならないだろうが。宇宙旅行を安全にはただの夢物語。
とは言えかなり安全性が向上するのは間違いない。
このまま順調に進めばの話ではあるが。
見えない欠陥でもなければ百年はかからない。
その頃には宇宙人もUFOも当たり前に発見されるんだろうな。
題して『三千年宇宙の旅』
もし宇宙旅行するとして地球はどう見えるのかな?
おっと…… これではまるで陸の妄想の世界になってしまう。
まずいまずい。自分の世界を取り戻さなければな。
コンコン
コンコン
母さんがお茶菓子を持ってやって来る。
「陸君は暇なの? どう私たちと一緒に来る? 海人がいなくてさあ…… 」
冗談だとよく分かる。でも陸にはそう言うのは通じない。
「おばさん。いいんですか? 」
「陸君がいいなら。もちろんあちらの方にも話を通しますから」
どうやら母さんは本気らしい。俺が行かない当てつけか?
「ははは…… 大丈夫。間に合ってますから」
随分失礼な態度の奴。こう言うところがダメなんだよな。
一体何を考えてるんだろう? まあ母さんも母さんだけどね。
「ではごゆっくり」
そう言うと出て行った。
再びトラブルメイカーの陸と対決だ。
ゆっくりしたくないしされたくない。
今は忙しい。陸の相手してやる暇はない。
「それで宇宙船探しを俺にも行けと? 父さんのところに行くから無理。
悪いが他を当たってくれ」
ちょっと言い過ぎかな? でも奴にはこれくらい言わないと効果がないからな。
たぶん明日にはもう忘れてる。どうせはっきり言ったって堪えないだろう。
「その話はお前から何度か聞いてるぜ。だから俺が付き合うって言ってるんだ」
「言ってない。お前は宇宙船とついでに宇宙人を探す旅に出ると言ったろ? 」
どうしてこいつはこうも無計画に旅に出ようとするのだろう?
明日だぞ? 研究し予測して情報収集してようやく探しに出掛けられる。
当然情報を得たからって見つかるはずがない。無理なものは無理。
そもそもNASAだって宇宙人の存在を否定したはずだ。
科学雑誌だってまともに取り扱うはずもなくオカルト雑誌ぐらいだろう。
もう廃刊になっただろうが。大体嘘だし。
これを信じてるのはサンタクロースに会えると思ってるガキぐらいなものさ。
いや仮に宇宙人がいようと宇宙船が飛んでようとそれは宇宙全体の話であって。
都合よく地球にあるはずがない。
ブラックホールがないのと同じぐらいあり得ないこと。
あれ待てよ。最近の研究でブラックホールは解明されたんだっけ。
日本を飛び出し海外に旅立つならいざ知らず留まってては見つかるはずない。
でもあったらいいなと思わないこともない不思議な感覚。
「お前どこに行く気だ? パスポート取ってないだろう? 」
「そんなものなくても宇宙人は自由に飛び回れるさ。だから問題ない! 」
陸は感情的になる。
「いやだからお前が探しに行けないって言ってるんだよ」
「だから情報を掴んだんだって。海外にもあるだろうがたぶん日本にだってある。
俺は信じるぜ! 自分の直感を信じるぜ! 」
ダメだ。また自分に都合のいいことを言いだしてるぞ。
この近所にあるはずもなく付き合ってる暇もない。
ここは仕方ないから説得の仕方を変えよう。
たぶん奴ならこの手に引っ掛かって大人しく引き上げて行くに違いない。
続く