表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/149

触れ合えない関係

演舞の練習を終えたミライと楽しくお喋り。

「どうしたんだ? 辛いのか? 」

「ううん。そうじゃないの。ただ気に入られたから…… 」

祭りに踊り子として出場するのは選ばれた一流の証。大喜びしてもおかしくない。

それなのになぜか浮かない顔。それとも別の意味があるのか?

ミライははっきりとしない。ただ首を振って何でもないと繰り返す。

だったら俺は別に構わないが。本当に何でもないのだろうか? 心配になる。

彼女の笑顔が何だか悲しそう。こんな俺に隠しごとしなくてもいいのに。

すべて話してくれても…… でも無理に聞くのも違うよな。さあどうしようかな?


「気にするなよミライ! お前なら大丈夫だって! どうにかなるさ」

何も分からないので仕方なく元気づけることに。

俺はいつの間にこんなに夢中に?

つい出会ったばかりの彼女。会ったのは昨日。

ただこの状態を出会ったと言えるかは微妙だけど。


一生懸命舞う姿を見てつい応援したくもなるし何だか圧倒されるんだよな。

俺には分からないはずなのにその演舞が物凄いものだと思えてくる。

皆そんなものか? ミライはとにかく真面目で一生懸命だから応援したくなる。

これだけ練習したんだから本番でもきっとうまく行くさ。


そんな風に俺は呑気に考えていた。

だからミライの本当の気持ちに気づいてやれなかった。

それは仕方ないこと。まだミライからは何も知らされてないのだから。

この頃はまだただの踊り子と観客でしかない。

この後だったよな。ミライの置かれた現実を理解したのは。


「ねえそのタイトルってどういう意味? 」

『チュウシンコウ』がこの演舞のタイトルだろう。

聞いたことないからたぶん昔から受け継がれた歌か踊りか物語なのだろう。

「ごめんなさい。私にも本当によく分からないの…… 」

「そうか。ならいいや」

どうしてつまらない嘘を吐くんだろう? 自分で演じて知らないはずがない。

すべて聞かされてるはずなのに下手な嘘を吐く。

俺には言えない。言いたくない何かがあるのかな?

それは別にどちらでもいいが何だか信用されてないみたいで嫌だな。


「一緒に飯でも食おうぜ! 」

弁当を持って来なかったから昼は抜くしかない。

だからできるなら用意してくれないかな。

「ごめんなさい。言いつけを守らないと怒られる」

「いや気にしなくていいよ。でも厳しんだなお前んとこのパパ」

「あなたには悪いけど…… よそ者と親しくするなって言われてるの」

ミライは言い辛そうに下を向く。

「ははは! 何だそれ? 」

笑ってみるがまるで俺がばい菌みたいな扱い。

「気にするなよ。俺はどう思われようと構わないぜ」

格好をつける。実際そうだけどそう思ってるのと人に言われるのでは全然違う。

どうやら厳しい村の掟の下で厳しく両親に育てられたんだろうな。

こんな小さい時から面白くもない踊りを無理やりやらされてるんだからさ。


「ごめんなさい。村以外の人との交流するの久しぶりでほとんど出会わないから」

田舎にいればそんなものか。納得は行かないけど仕方ないよな。

「それにしても凄いな。俺なんか踊りはもちろん人前で何かしたことないぜ」

一人でと言う意味。皆で歌ったり踊ったりは多少ある。

それは周りの者から誘われて仕方なく。

でも歌うのも踊るのも恥ずかしいから苦手。ただ楽しいのは分かる。


ミライの演舞は見ていて何だか知らないうちに拍手が出てしまう。

ただうまいとも凄いとも思うんだけど楽しそうとはどうしても思えない。

常に真面目に踊っている。何だか嫌々踊らされているように見える。

一人で無理やり踊らされたらそれは辛いだろうさ。

俺だったら耐えられそうにない。


「やっぱりすごいよミライは」

「そんなことない。あなただって練習すればこれくらい」

ミライは優しい。第一印象よりもずっと大人で優しく気が利く。

それに比べて俺はいい加減で適当で何かしてる訳でもないからな。

うわ…… どんどん自信がなくなっていく。

そんな俺だから一生懸命なミライは憧れの対象。

いつの間にかどんどん惹かれている。

こんな子は初めて。

クラスにも優しくて大人しくて何考えてるか分からない子がいる。

でもその子も真面目と言うよりは先生の言うことをただ聞くだけ。

自分から何かをしてる訳じゃない。

それは俺も同じだからミライが輝いて見える。思っている以上に凄いと。


「俺には無理だ。一つのことに集中できない。どうしても他のことを考えちゃう」

あれ…… 褒めたつもりなのにそうは受け取ってくれてない。

「普通のことだよ。やれば誰にでもできること」

ミライはどんなことがあっても自分を低く見る癖がある。

それがミライの個性なら仕方ないけど否定し続けるとよくない感じに映る。


「ねえそっちに行っていい? 」

チュウシンコウを目の前で見たい。味わいたい。

それには近づく必要がある。

一歩二歩と詰め寄って様子を見る。

どうやらミライも来て欲しがってる。

でもどうやって行けばいいだろうか?

まだ監視されてるかもしれない。

正面から突っ込もうとするのはいくら何でも無謀過ぎる。


ぐうう……

お腹がなる。すごく恥ずかしい。

「もうこれあげようか? 」

ミライはパパの言いつけを守らずに俺なんかと交流を深める。

悪い子だな。まあ俺も人のこと言えないけどね。

では一つ。


                   続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ