二人を邪魔する者
朝。誰にも構ってもらえずに一人で遊ぶことに。
いいんだ。俺は自由に一人で走り回るのが好きなんだから。
さあ行くかな。今日もミライがいるといいんだけど。
草花の生い茂る草原地帯を抜け丘を登ると見えてきました。
チュウシンコウ。
今日も彼女が一人で舞っている。
「おーい! おーい! 」
もう気にすることもなく突っ込む。
彼女が嫌がろうがどうしようが関係ない。
俺がやりたいようにやればそれでいい。
自分勝手だとは思うがそれが俺だから。
「おーい! 会いに来たぞ! ミライ! ミライ! 」
叫びながら走っていく。
「ははは…… 来てやったぞ! 俺が来たんだ! 」
昨日のことも忘れてなぜか会いに行く無神経さ。
彼女だって俺に会いたいだろうと勝手に。
しかしそこには邪魔者が。
二人の再会を邪魔する者が現れた。
「おいそこのお前! 娘に近づくんじゃない! 」
てっきり一人だと思ったのに違った。
よく確かめもせずに突っ込んでいったのが誤解されたらしい。
「いやでも…… 」
「いいか? これ以上少しでも近づいてみろ? ただでは済まさんからな! 」
怒り狂うミライの父さんらしき人。
「ああん? 分かったのか? きちんと答えんか! 」
まだ怒りは収まらない。子供相手に大人げないなあ。俺泣いちゃうよ?
「はい。これ以上近づきません。約束は絶対に守る男です」
昨夜もそうだけど勇気がなくてどうしても怯んでしまう。
いや分かってるんだよね。自分が悪くないといくら言っても聞きはしない。
大人ってのはそう言う生き物だって。思い込んだら最後。反論は無理。
すればただ余計に叱られるだけ。だから黙って言うことを聞く。
情けないけど仕方がない。大体俺が悪くないこともない訳で。
約束したので近づくのは諦めた。
「昨日はごめんなさい。恥ずかしくて。それに今日も何だかごめん…… 」
下を向く。さすがにこれはやり過ぎだと思ってるらしい。
おいおいなぜ余計な者を連れて来たんだ?
せっかく俺とミライだけの特別な空間だったのに。
これでは雰囲気がぶち壊しだ。
「いや…… 俺の方こそ昨日はついからかって。ミライはいい名前だよたぶん」
「お前! たぶんは余計だろうが! 」
うわまだいたのね? いい加減どこかに行ってくれたらな。
これでは全然楽しくお喋りできないじゃないか。
「おいお前! 俺は離れるが絶対に近づくなよ! 分かったな! 」
おっとタイミングよくいなくなってくれるらしい。感謝しょう。
これで一歩を踏み出せる。ミライと楽しく……
「いいかお前? くれぐれも言いつけは守れよ! 」
もう信用ないなあ。そんな風に脅されたら怖くて守るしかないじゃないか。
「はい。これ以上はどんなことがあっても近づきません」
「それでいい。何だ物分かりがいいいじゃないか。よし行って来る! 」
くそ…… 動きを封じられた。
仕方がないから大人しく演舞を鑑賞することに。
そう言えばこの踊りの演目が『チュウシンコウ』だっけ?
ミライに聞いたけど未だに意味はよく分かってないらしい。
別にそこまで拘ることもないんだけど聞いたこともないおかしなタイトルだから。
では大人しくしていよう。
それにしても軽やかに踊るな。
前に行ったと思ったら後ろに向き回転。徐々にスピードが上がっていく。
それからそれから…… もう無理だ。激しい動きでとても覚えきれないや。
これを祭りに人前で披露するなんて考えただけでも緊張して失敗しそう。
まあそれは俺であってミライは問題ないんだろうが。
確かに村の祭りだろうから何も気にせず踊れるのだろうけど俺は遠慮する。
どうやら終わったらしい。
挨拶をし笑顔を見せる。今まで真剣だったミライの表情が明るくなる。
立ち上がってぱちぱちと手を叩き素晴らしかったと伝える。
少しは成長したかな? 昨日までの俺だったら恥ずかしくてただ下を向いていた。
でも今は違う。ただ演舞に圧倒されたことを伝えたくて手を叩く。
「今のどうだった? 」
感想を求められる。自分の目では分かり辛いもんな。
ああ今すぐにでも手を取り喜び合いたい。
でもいつどこにあの怖い人がいるとも限らない。あいつミライのパパだよな?
ここは手を取り抱き合いたい気持ちをグッと堪えて最高だと言ってあげる。
「そう嬉しい。でもまだまだ。もっと頑張んなくちゃ」
俺にはちっとも踊りの評価ができないので彼女の言ってることが理解できない。
「そんなことないって! もう充分だろう? 」
つい余計なことを言ってしまう。俺がやる気を削いでどうする?
「ごめんなさい。自分ではまだまだだって自覚があるから。でもありがとう」
褒めてくれたことを素直に喜ぶが本気にはしない。クールだ。
自信がありそうに見えるが実はないんだろうな。そう言う性格なのかもな。
クラスの子にもそんなのが。でもそいつは男子でかわいいと言うより情けないと。
昨日の印象では随分大人っぽいなと感じた。でもそれ以上。
俺なんかよりずっと大人なのかもな。自分のことがよく分かってるみたいだし。
俺だったらこれだけ踊れたら自慢する。
もしかしてあの怖そうなパパのせいか?
ママだって見えないけど声だけでもきつそうだったもんな。
昨日は一人だったのに今日は両親が来ている。
ちょくちょく舞台の陰から女の人の声が聞こえた。
褒めて元気づけてると言うよりしっかりやりなさいと口うるさい感じ。
「祭りはいつなんだ? 」
「今月。八月末に村の祭りがあるの。それで私も踊り子の一人に選ばれたんだ」
その話なら昨日聞いたな。
自慢するミライはすごくうれしそう。でもそれも最初だけ。
続く