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散々な目

五年前のあの日俺はミライを見た。

そして彼女を認識した。彼女も俺を。

自己紹介もしたしお喋りもした。

だから二人は運命の赤い糸で結ばれてると勝手に思った。

でもそう簡単ではないらしい。

仮に結ばれなくても俺たちは出会えると信じていた。

でも俺と彼女の間には思っても見ないとてつもない距離が。


「俺は海人。皆からは海って呼ばれてる」

「ミライ…… 私はミライ」

「ミライか…… 変な名前だな。ははは! 明日のことか? 」

どうしても我慢できずについからかいたくなる。

「あなただってかなり変な名前でしょう? 自覚ないの? 

だから子供だって言われるのよ! 」

怒らせてしまったらしい。まああれだけ言えばね。気にしていたもんな。

でも俺の名前は普通だけどな。ただそう言われると自信がなくなる。

何となく彼女にはすべて見抜かれている気がする。


「おいおい! さっきはいい名前だって言っただろ? 」

つい悔しくて彼女を追い詰めてしまう。

そうすると彼女は嘘泣きを始める。

「はあ? ふざけるなっての! 」

「ふざけてないでしょう? バカなんだから! 」

そう言って怒って帰ってしまった。


おいおい俺の世話はどうするんだよ? 俺迷子なんだぜ?

なぜ放っておけるんだ? ああそうか。気づくはずないか。言ってないもんね。

「待ってくれ! 明日また…… 」

しかしもちろんもういない。

一瞬で姿を消したものだからもうキツネにつままれた気分。

何となくではあるが現実感がないんだよね。

まさか夢か? 白昼夢を見ていたなんてことはないよな?

だがその疑問を打ち砕くようにチュウシンコウの文字。

そうこれこそがすべて事実であったと。

こうして初めての出会いは散々なものに。


ついケンカに。挙句に暗くなって戻って来たから説教を喰らう羽目に。

せっかくの旅行気分が台無しだ。

これもすべてミライのせい。俺は悪くないぞ。俺は正しいことをしたんだ。

ミライか…… 自信無げに言うものだからつい……

多少反省はしてるがやっぱり俺は悪くない。

すべて勝手に怒り出した彼女が悪い。俺を何だと思ってるんだろう?


その日は寝るまで説教プラス正座で耳も足も痛い。

両親に爺さんまで加わって酷いものだった。

二度とこんなミスはするものか。

「まあまあ。海だって悪気があって言ってるんじゃないんだからさ」

婆ちゃんが俺の味方に回ってくれる。

「お袋は海人を甘やかし過ぎ。こいつは約束を守らずに出歩いたんだからな。

挙句に迷って暗くなって帰って来たんだ」

厳しいな。それに眠くてつらい。もう限界だ。そろそろ嘘泣きをする頃かな。

でもこれもタイミングが難しい。


「ごめんよ。ごめん…… 」

「ほら海もこんなに反省してるんだし」

「お袋! もう仕方ないな」

父さんは厳しいが面倒臭がりなので助かるんだけど。

その分後を引き継いだ爺さんがしつこい。

だから俺は悪くないって。悪いのはたぶんあのおかしな集団。

特にミライが全部悪い。


「ねえ父さん。俺おかしな踊りをしてるところを見たんだぜ」

「うるせい! 説教中だろうが! 」

ムスっとした父さんを無視して隣の爺さんに聞くことに。

「爺ちゃんは何か知ってる? 俺さ…… 」

「だから説教中だろうが? ゲンコツをお見舞いしてやろうか! 」

しつこかったかな? 脅かすことないだろう?

そんなにムキならないくてもいいのにな。


「済みません! 本当に反省してるから許してください! 」

まずい。これ以上は危険だ。

「分かればいいんだ。つまらないことは考えるな」

どうやら少なくても爺ちゃんは何か知ってのだろう。

こうして説教を終えると眠りにつく。


「助けて! お願い私を助けて! 」

「俺は今日来たばかりだから…… 」

「どうして助けてくれないの? 救ってくれないの? 」

「それは…… 」

はっとして目が覚める。

そう言えばこの時からだったよな。奇妙な夢を見るようになったのは。


早朝。遊ぼうと誘うも誰もつき合ってくれない。

放っておかれたら勝手に遠くにも行きたくもなるよな。それが人間だろう?

ははは…… 使ってみたかっただけ。よく父さんが困った時に使う。

格好いいから俺も使ってみたいんだよな。


「婆ちゃん遊びに行って来る! 」

「ちょと昨日の今日だろ? 」

「婆ちゃんも一緒に行こうよ? 」

「私は結構さ。祭りの準備で忙しんだから。でも気をつけるんだよ」

「はーい。お土産楽しみにしていてね」

一昨日から父さんの実家に来ている。

今日も遊び相手がいないので一人寂しく駆け回る。

絶対に近づくなと言われてるのが川と沢と崖。

見れば分かるので誰が近づくかっての? 

旅行中に怖い思いはしたくない。ここは俺の地元じゃない。

だから変なことをする気はない。そのことはきちんと伝えたし。


話し合いって何だろう?

俺を心配させないようにと黙ってるみたいだけど漏れ聞こえるんだよね。

ううん気になる。でもどうせ誰も教えてはくれない。きっとそうだよ。

無駄なことはしない。


おっと…… この辺で合ってたよな?

まずは橋を渡り目印の落石注意の看板を超える。

ここからが難しい。ひたすら鬱蒼とした緑を抜けてようやく秘密基地。

昨日作った秘密基地。誰にも見つからないように雑草で隠す。

いつの間にか自分でも分かんなくなってしまいそう。

秘密基地を彷徨っているといつの間にか迷って。

もう方角も何も分からなくなってたどり着いたのがこの草原みたいなところ。

よしもう覚えたぞ。仮にどうなろうとすぐに見つけられる。


ははは! さあこれで目的は達成した。

急いで次のミッションに移ろう。


                続く

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