お見舞い
ベッドで目覚める。
目の前には母さんの姿があった。
ビーチバレー中に意識を失い病院に担ぎ込まれたらしい。
どうやら今は昼のよう。そうすると意識を失ってから一日以上経ったことになる。
「大人しくしててね海人。先生に意識を取り戻したと伝えてくるから」
「ちょっと…… 」
ダメだ。まったく話を聞かず嬉しそうに駆けて行ってしまった。
でもここはどこなんだ? 病院だと言うのは分かるが……
一人になると急に罪悪感が。
ふう…… またやってしまった。俺のせいでまた母さんに迷惑を掛けてしまった。
昨日連絡を受けてからずっとつきっきりだったらしい。
母さんだけじゃない。サマー部の皆にも思いっきり迷惑を掛けた。
せっかくの合宿が台無しじゃないか。俺は何てことをしたんだろう?
どうしよう…… 皆に会わせる顔がない。
母さんが行ってしまいやることもないので再び寝ることに。
周りの患者に今までの言動を聞いて回るのもおかしな話か。
まさか病院でも迷惑を掛けてないよな?
正気を失って歩き回っていたって……
俺の願望が無意識下の無防備な時に解放されたか?
どうしてこうなった?
コンコン
コンコン
母さんが戻ってきたのかと思ったら違った。
陸と希ちゃんの姿があった。
お見舞いは極力避けるようにとのお達しがあるのに二人は気にする様子はない。
個室ではない。周りから白い目で見られないように静かに話すことに。
「驚いたぜ! 」
第一声から病室には不適当なハイテンションで騒ぎまくる陸。
そうだった。こいつはそう言う奴だった。
できないとか苦手とかそう言うレベルではない。連れてきてはいけない人間。
もちろん俺が招いたのではないが来てはならない存在。
笑い上戸に葬式に行かせるようなものだ。
おっと…… 縁起でもないことをつい……
静かな場面ほど緊張して騒いでしまう。それが陸。困った奴だ。
まずい。睨まれるか? 叱られる?
構えるが病室内は気にする様子も見られない。
隣りのおじさんはさっきからテレビを見て面白くもないのに笑ってる。
元気に見えるがどこが悪いのだろう? 俺も人のこと言えないけどね。
その隣はラジオを聞いている爺さん。音漏れ中。
漏れた内容からして競馬か競輪かボートレースのどれかだろう。
向かいは…… 離れているからここからではよく見えないし聞こえない。
カーテンで仕切られていて様子が分かり辛いのだ。
だから陸の大声もかき消されてる模様。
だがこれ以上迷惑を掛ける訳には行かない。
点滴が取れないので勝手に出歩くのもまずいしな。
五分ほど話して帰ってもらうことにした。
「お大事に。また来るからな」
陸と希ちゃんのセットが仲良く去っていく。
あれ? これって俺がお膳立てしたみたいな形?
まあいいかどうでも。俺にはアイミだっているしな。それにミライが……
二人が入れ替わるように母さんと先生らしき人物が。
担当医師だとは思うんだけど記憶にないので。
六十過ぎのおじいちゃんのイメージだけど医者だけあって見た目より若いのかも。
眼鏡がより老けて見えるんだろうな。
「ああ目が覚めたって。よかったね。ではさっそく検査するとしようか」
「ええ今から? まだ眠いよ」
「何を言ってるの海人? 早く済ませなさい! 」
ちょっと我がままを言うと母さんは恥ずかしいのかヒステリックに叱りつける。
俺はまだ病人なんだけどな。
一日がかりでどうにか検査を終える。
脳波やMRIで脳に異常がないかの検査。
明日以降は怪我の有無と体調の確認を行うそう。
すべてクリアしてようやく明後日の朝に帰れるかだ。
翌日。
気にするな。俺たち親友じゃないかと随分と浮かれている陸。
二日続けてお見舞いに来てくれた。
どうやら希ちゃんと一緒なのが相当嬉しかったんだろうな。
「そうだアイミは…… アイミはどうした? 」
当然のごとく心配して来てるものだとばかり思ったが姿を見せないから気になる。
あの能天気に笑ってるところを見ると何だから落ち着くんだよな。
「気になるか? お前のことが相当ショックだったみたいで…… 」
どうやら俺がどうにかなったと思って心配してくれたらしい。
嬉しいんだけど。確かにアイミは俺のストーカーみたいなものだしな。
どう感想を述べればいいのか難しい。
「アイミには感謝してね。一緒に救急車に乗ってお世話してあげたみたいだから」
「そうなの希ちゃん? でも陸お前言ってなかったよな? 」
「つまらないことは語らない主義なのさ」
「嘘を吐け! 」
「本当だって」
下手な言い訳を始める陸。どうやら俺が調子に乗ると思ったらしい。
そう言えばアイミの気配を感じたような気もする。
でもその頃は夢を見ていたからな。
個室じゃないものだから何かと騒がしい。
薬がどうだとかナースコールで用もないのに呼び出すとか。
見舞いは来ないのでほとんどが医者か看護師が訪れる。
たまによその患者がトイレの帰りなどに間違えてフラッと入ってきたりだとか。
トラブルが耐えない。ただ一番のトラブルは騒音トラブル。
隣がテレビの音量を上げるとその隣の爺さんが負けじとラジオのボリュームを。
うるさくて堪らないが多少は我慢しようと思う。
病院で動きが制限されていればやれることは限られる。
娯楽もなくただぼうっとしてるだけではさすがにもったいない。
差し入れにポケットサイズの文庫本を置いて行ってくれたのでそれを読む。
ただ音がうるさすぎてどうしても集中できない。
ならば勉強でもと思っても肝心の勉強道具がない。
そもそもが勉強は苦手。陸に自由研究手伝ってもらおうっと。
あれおかしいな? まだ頭が混乱してるらしい。
うーん。やっぱり我慢せずに俺もテレビを見るか。
後で母さんに聞いておこう。
続く