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願いの先

五年後の夏の終わりに結婚する。

それがこの村に生まれた者の定めだと諦めている。

「まさか嬉しいのか? 」

思い切ってミライの本当の気持ちを聞いてみることに。

「馬鹿言わないで! どうして見たこともない人の元へ嫁がないといけない訳?」

どうやら本気で怒ってしまったらしい。


「ごめん。ただよく分からなくてさ…… 」

「私こそごめん。でも相談できるのはあなたしかいないの」

「お前の家族は? パパは何だって? 」

「よくやったと褒めてくれるの。すごく嬉しい」

「ダメだなそれは。ママは? 」

「あなたの好きにしなさいって」

まだ子供のミライに決めさせるのか。酷いな。


「それで俺はどうしたらいい? 」

「励ましてよ! 」

心の叫び。ミライはどうすることもできないと受け入れた様子。

それでも俺に何とかしてもらおうとしてるようだがやれることはほとんどない。

「頑張れミライ! お前の未来のためにも頑張れ! 」

俺にできることはこれくらい。やっぱり俺にはどうすることも……

大人たちが決めたことを俺がどう反対しろと言うんだ?

反対したところで聞いてくれるはずない。それくらい嫌と言うほど味わってきた。

「ありがとう嬉しい…… 」

無理矢理笑う寂しそうなミライ。ちっとも嬉しそうには見えない。

どんどん沈んでいく。どうしたらいい?


「よし分かった! 俺がそれまでに何とかしてやる! だからもう心配するな!」

どうしようもなくなって格好をつける。

でも何をどうしたらいいか分からない。はっきり言ってお手上げ。

ただ五年もあればどうにかなるでしょう? その間に状況が変わることだって。

間違いだった可能性さえある。ミライが選ばれるのはおかしいもんな。

それにミライが嫌がってるけど慣れれば悪くない生活。

そんな風に軽く考えていた。今はまだ大丈夫と。五年以内にどうにかすればいい。

一気には無理だろうが時間をかければきっといい案も浮かぶさ。


「海…… 無理しないで。私なら大丈夫だから」

「大丈夫だ。俺がお前の願いを叶えてやるからな。心配せずに待ってろ! 」

「うん分かった。信じるね」

「そうそう。そうやって笑ってればいいんだよ」

こうして二人は笑い合った。

願いの先にある現実はそんなに甘いものではない。その時は考えも及ばなかった。


「もうそろそろ帰った方がいいよ。お家の人が心配する」

ミライは自分のことで手一杯のはずなのに俺のことを何かと気にかけてくれる。

それが何だかとても心地いい。


「ミライ心配するな! 俺が何とかするから。それまで…… 」

「うん。私頑張る。だから海も…… 」

手を振って別れを惜しむ。


決して出会うことのない二人が運命によって巡り合ってしまう。

そして決して出会ってはいけない二人が引き寄せられるように出会った。

どうすることもできないとしても何とかするしかない。


「急いで帰ってね! 暗くなるよ! 」

「ああ! 俺が何とかしてやるからな。それまで待っててくれミライ! 

必ず迎えに行く! ミライを迎えに行く! それまで待っていてくれ! 」

「ありがとう海。きっとだよ! 」

こうして最後の挨拶を済ませる。本当にこれが最後だった。

今思い返せばもう少し詳しく聞いておけばよかった。

また来年会えると固く信じていたからな。


目が覚めると母さんの姿があった。

「ほら大丈夫? 」

なぜか母さんが目の前に。

うん? ここはどこだ? どこなんだ?

点滴? ここはまさか病院? 

母さんが病院にいる? そして俺がベッドの上?

ああ何だか気持ちいい。点滴ってこんなに気持ちいいものなんだ。

ただぼうっとはしてるから何だか非現実的。


「どうして母さんがここに? 」

まったく意味が分からない。

確か合宿中だったよな。家に帰った記憶がない。

どう言うことだ? なぜこんな事態に? まったく意味が分からない。

パニックを起こしてそうになる。


「ほら落ち着きなさい! あなたは昨日合宿中に頭を打ったの。覚えてないの?」

どうやら俺はさっきまで無意識に動いていたらしい。

まるで酒に酔って記憶がないと言ってる往生際の悪い奴みたいに。

「合宿中ってことはここは現実世界? 」

もう夢なのか現実なのかさえあやふやだ。


さっきまでミライと…… 確かあれが最後の記憶だったような気がする。

幼い頃のいい思い出だからな。ついその頃の思い出に固執してしまうんだろうな。

夢では思い出していた記憶があった。

初めから過去の思い出。補正された幼い頃の思い出。

そこでミライと心行くまで話したっけな。あーあ懐かしい。

おっと…… 今は思い出に浸ってる時じゃないか。

現実世界で何が起きたのか? 何が起ころうとしてるか? それを知るのが先決。


「どうして俺はこんなところに? 」

決してここは個室ではない。だから出入りもあるし他の患者に配慮しないと。

「詳しくは部長か陸君にでも聞きなさい」

どうやら部長経由で話が行ったのだろう。


母さんが言うには合宿中に誤ってぶつかってしまったらしい。

そこで頭を激しく打ち意識を失ったので救急車で近くの病院へ運ばれたそう。

まるっきり覚えてないが救急車の中で治療中に意識を取り戻したのだとか。

ただ大事を取って検査。数日は検査入院させられるらしい。

大体早くても明後日の朝。検査に問題なければそのまま帰っていいそう。

昨夜から昼時の今まで寝ていたようだ。

どう考えても信じられないがここで入院している以上事実なんだろうな。

納得するしかない。


               続く

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