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七夕の夜の奇跡 二人の行方

夏合宿三日目。

被写体を求めて朝からビーチを駆けずり回るサマー部の顧問のスケルトン。

「あれですか…… 」 

表情をゆがめる。

「ははは…… そう言うことだ」

まだサマー部に慣れてないから? いやそんなはずないよな。 

ただビーチで突撃するようなタイプではなく隠れてこっそりと。

我々の迷惑と恥にならなければ勝手にやってくれればいいと思う。

希ちゃんやアイミが撮られるよりはマシか。

当時問題になったスケルトンの趣味はどうやらまだ健在らしい。

あれがあってスケルトンは疑われたとの噂。当時の報道は過熱していたからな。


「いいかお前ら! 負けたら承知しないからな! 」

スケルトンを放置してさっそく試合。

たかが砂場でビーチバレーだと言うのにプレッシャーを掛けてどうする?

どちらかが勝つと言うことはどちらかが負けることを意味する。

もっと楽しくやればいいのに気負い過ぎだよ。あーあ。部長が情熱を燃やすから。

「ほらそこ! 怪我だけはするなよ。後が面倒だからな」

格好をつけるが言ってることが言ってることだけに情けない気も。


二チームに分かれて試合開始。

昨日と同じなのでついだらけてしまって皆やる気が感じられない。

「真面目にやれ! 」

喝を入れる部長。すっかり昨日の失踪で落ち込んでいるかと思ったが違うよう。


そう最初はただ闇雲にボールを追いかけていた。それが問題だった。

誰もがボールにばかり目が行くものだから。周りを見もせず体を投げ出す者まで。

勢いに乗ったそれらの行為は危険と隣り合わせ。

部長の熱意もあって逃れないところまで来た。

いつか誰かがその犠牲になる。

それが俺ではないと言う保証はない。


風が吹いて来た。生温い風がまとわりつき嫌な感じ。

これはきっと不吉なことが起こるぞ。

「おいボケっとするな! 集中しろ! 集中! 」

「はーい」


「危ない! 」

その声と共に砂浜にダイブ。

一瞬何が起きたのかまったく分からなかった。

でも後で聞いてようやく理解した。

どうやらぶつかったらしい。

お互いが真剣に取り組んだ結果だから仕方ない。

それはそれとしてもう少し運動神経があれば避けられていただけに悔やまれる。

調子に乗っていたとも取れる。

合宿と言う非日常とビーチの解放感からつい気が緩んでしまった。


「おい大丈夫か? おい! おい! 」

部長の必死の呼びかけにも反応しない。

一人が倒れ大騒ぎになる。誰だろう? 

俺は当事者と言うよりも見守る側にいるイメージだった。

そして夏の暑さもありクラっときていつの間にか意識を失った。

「おい! 大丈夫か? 」

 「早く! 早く…… 」


「大丈夫? 大丈夫? 」

「ごめんごめん。何だっけ? 」

「忘れちゃったの? 」

彼女はそう言うが何の話をしていたのかまったく覚えてない。

だから聞き出す必要がある。

「そうじゃないんだ。ただよく分からなくて…… 」

理解できないとかでは決してない。ただどうすることもできない。

こんな風に言えば彼女だって俺が真面目に考えてると納得するだろう。


「ごめんなさい…… 突然で驚いた? 」

俯いて無口になってしまった。ここは俺から言ってもらいたいんだろうな。

「ううん。俺は信じるよ。だからもう一度詳しく初めから話して」

大事な話だからあえてもう一度繰り返させる。全然不自然ではない。

何一つ聞いてない場合や集中してなかった時に有効。ただやり過ぎると嫌われる。


「仕方ないな。実は私…… 五年後に結婚することになったんだ」

笑いながらとんでもないことを言いだす。これは照れ笑い?

衝撃的過ぎて何も言えずに固まってしまう。

「だって…… ミライはまだ子供で…… 確か俺と同じぐらいだって…… 」

どうする? おめでとうとでも言えばいいのか? 

だって聞いてないよ。そんな話聞いてない。

もはや焦ってパクパク言うだけになってしまう。


「落ち着いて。まだ正式なものじゃないから。この地域の風習なの。

この祭りの期間中に全国を回る有力者により村の女性が選ばれる。

選ばれた者は五年後に嫁ぐ決まり。まさか私がその一人に選ばれるなんて…… 」

ミライはきちんと伝えてくれた。包み隠さずにすべてを話してくれた。

俺はそれに応えなければ。でも俺にはいまいちピンと来なかった。


今だってやっと。風習だの慣習だの掟だのと言った縛りを理解するには幼過ぎた。

なぜそんな風に村の者を縛るのか?

嫌がる女の子を嫁がせようとするのか?

他に方法はないのか? いや告白したからにはきっと何かある。


記憶の奥の奥に封印された五年前のミライとの出会い。

今すべてを思い出した。

あの頃はとにかく毎日が楽しくて。

父さんの実家に里帰りしたのだって俺の我がまま。

夏の帰省は母さんの実家に帰るのが定番で当たり前だった。

幼い頃はよく分からずだったからな。

記憶ではあの時が初めてだった気がする。

その前にも行っていただろうが幼過ぎてその頃の記憶は薄くないに等しい。


「ミライはそれでいいのか? 辛くないのか? 寂しくないのか? 」

「よくない! 辛いよ! 悲しくて寂しいよ! でも…… 」

それがこの村に生まれた者の定めだと諦めている。

俺にはどうすることもできないのか?

五年後…… ミライのいない未来など俺には考えられない。


                 続く

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