消えた部長
合宿二日目の夜。待ちに待った肝試し。
恐怖の夜を希ちゃんと二人っきり。
一歩一歩を踏みしめる。そして今ある幸せを嚙みしめる。
ははは…… 俺は何て浮気性なのだろう?
これではいつかバチが当たるな。婆ちゃんも言ってたよな。
「海よ! たとえ幼子であれおなごを雑に扱ってはならん!
きちんと真剣に向き合わんか! 」
小学一年生の頃の記憶。ただの勘違いなのに叱られてしまう。
俺が悪いんじゃない。俺が……
希ちゃんとの関係がいまいちはっきりしない。
告白はされたけどきちんと返事しないまま。
逆にアイミには告白して告白し返される珍現象が起きた。
ただアイミに関してはどうとでもなる。いわゆるキープって奴だ。
おっと…… このままでは恨みを買いかねないな。そして最後はアイミに……
そして夢にまで見た五年前の少女。もはや現実か幻想かもはっきりしない。
それがまたいいと考えるどうしようもない自分がいる。
希ちゃんにアイミに五年前の少女。
ああこのままどうなってしまうのか不安で仕方がない。
一番目立つ大きな墓の前までやって来た。
なぜかこの一帯だけが光輝いて見える。これは部長による演出?
現在は多種多様なお墓があり故人や家族の個性が爆発している。
味気ないぐらいの一昔前のお墓が懐かしい。
特にここのお墓は個性的なのが多い。
去年の合宿で目をつけていたお墓地帯。
俺の計画では近くにある廃墟も含めて肝試しをするつもりだった。
うんうん。貝はここに置けばいいんだよな?
おっとその前にお参り……
「待って! 知らない人のお墓に無闇に参らない方がいいよ」
希ちゃんが止める。
「へえそんなもの? お参りしない方が失礼に当たらないかな? 」
「失礼には当たる。でも憑いたりはしないでしょう」
そう言って震えた声で諭す。
どっちとも言えるな。要するに諸説あり。でもここは希ちゃんの顔を立てるか。
「急ごう! 災いが起きる前に」
ははは…… どうも希ちゃんは信心深いんだよな。
憑かれたり呪われたりするはずがない。まして災いが降りかかるなどあり得ない。
貝を置いて急いで二人分の記念品のハンドタオルを持っていく。
あれおかしいな? なぜ部長ペアの貝が置いてあるんだ?
脅かす準備があってとても貝を置いてる余裕はないはず。
それともあらかじめ置いてあったか? または役割分担でもしたか?
これも一番手になれば分かったこと。疑問が残る。実際はどうでもいいが。
うーん。何だかすごくおかしな展開。嫌な予感がする。
帰りは同じ道だから楽。その分希ちゃんも恐怖が薄れているから残念。
ただこの後その恐怖が再燃されるとは思いもしなかったが。
「ぎゃあ! 」
つい三番手のアイミと陸ペアにぶつかるところだった。
かわそうとするがアイミが止まれずに俺の胸に飛び込む。
まあこれは不可抗力だから仕方ないよな? お互い様だし。
「おいお前何をやってるんだ! 」
陸の奴が怒り出した。どうやらアイミのことを本気で狙ってるらしい。
アイミも人気者だな。一年からも狙われて陸からもじゃ大変だろう。
うんうん。もう俺がいなくてもアイミなら充分やって行けるな。
「そろそろ離れてくれよ! 」
俺は希ちゃんとペアなんだからアイミは陸とでも楽しんでればいい。
「いや…… このままがいい! 」
我がままなアイミ。もう少し物分かりがよかったと思ったが違ったらしい。
「ホラ行くぞ! 」
陸の奴が呼ぶと嫌々離れる。そんな顔をするなよな。俺が悪いみたいじゃないか。
来た道を逆走する。これだといつぶつかるか分かったものではない。
「もう近づかないで! 」
「でも俺たちチームだろう? 」
陸とアイミの奴が激しくやり合っている。
ははは…… 元気でいいけれど騒ぎ過ぎだぞ。まだ本番は先なんだからな。
こうして皿屋敷ゾーンへ入った陸とアイミペアから悲鳴が。
その大半が陸だから情けない状況。
俺たちは記念品を片手にスタートゾーンへ。
即ちゴール。怖かったがどうにか完走できた。
続けて一年生ペアがスタートする。
なぜか俺たちが十五分近く待たされたのに陸たちは十分で一年に至っては五分。
一体何のために最初に十五分も空けた? それは当然部長たちの企みによるもの。
「部長はまだ帰ってきてないんですか? 」
民宿の親父は夜遅くまで肝試しにつき合わされる。
迷惑でしかないのによくやるよ。これだと来年は協力してもらえなそう。
「ああ二人ともどこに行ったんだろうね? 」
白々しい嘘を吐く。これはもう確定だな。宿の親父もグルで騙そうとしてるな。
部長たちが幽霊になって盛り上げてくれた。これは感謝すべきことだろうな。
部長ペア以外全員が戻ってきた。
まったく何をやってるんだろう部長たちは? 皆を待たせて。
もう時刻も時刻。部長たちを待たずに帰ることにする。
「どうします? 」
「もう遅いし皆さんは寝てください。こちらが責任をもって連れて帰りますので」
民宿の親父にまで迷惑を掛けてどう言うつもりなんだろうか?
これも予定通り? ただ少し違和感がある。
「部長を待たずに各自部屋に戻ってくれ。お疲れ様」
部長の代わりに俺が終わらせる。果たしてこれでよかったのか?
今でも悔やまれる展開。どうしてあの時きちんと調べなかったのか?
トラブルが発生してると思わずに疲れと眠気で判断を誤ったらしい。
まあ民宿の親父に任せたんだからこれが俺たちのやれる最大限のこと。
夜遅くにライト一本で探しに行っても逆に危険なだけ。
仕方ないんだ。仕方ないことだったんだ。そう自分に言い聞かせる。
こうして二名の行方不明者を出し無事? に肝試しは終わった。
続く