大会と合宿
サマー部重要会議。
議題は合宿について。
「おい今日中に決めるぞ! 」
張り切る部長。さすがサマー部の部長だけあり筋肉隆々。身長も高く声もでかい。
図体もでかいから態度も声もでかいと言う訳だ。
それは自信の表れでもある。だからと言って憧れるかと言えば首を振る。
だってそれにはもう少しだけでも頭が良くなくちゃ。
部長はクラスでは運動以外ダメなこちら側の人間。
もちろん陸のように非常識でクズと言う訳ではない。さすがに言い過ぎかな?
部長には人をまとめ上げるリーダーシップが。陸もいいところがあった気がする。
「部長。いつも通りでいいんじゃないんですか? 」
やる気のない陸が挑発する。
夏休みは電動自転車日本一周の旅が待っているので今はそのことで頭がいっぱい。
結局合宿参加拒否を言い出せずに大人しくしている。
これはもう前日に体調崩し行けなくなるパターン。強行ずる休みコース決定だな。
「お前な…… いつも通りって何だ? 」
身長も高く威圧的な部長に睨まれて固まる陸。
部長は他の者に意見を聞こうとするが誰も視線を合わせようとしない。
今日はいつにも増して気合が入ってると言うか恐ろしい。
近寄りがたい存在となっている。
「お前はどうだ? 親友だろ? 」
いつも奴の尻拭いをさせられている。まあこれくらいならまだかわいい方だ。
昨日みたいに罰として部室掃除をさせられるよりはな。
部長のうまいところは強制に見えないところ。
校庭十周か部室掃除かを選ばされる。
どう考えても清掃の方が楽。
しかもきれいになったら帰っていいんだから適当で済む。
「そうですね。また海の家でかき氷大会でも…… 」
「ううん? 」
あれおかしいな怒ってる? 去年はそれがメインだったような気がしたんだが。
「バカ野郎! それのどこが合宿だって言うんだ! 」
副部長がそれではいけないと説教を喰らう。
でも語彙力も知識もなく感情的に喚くだけ。心を無にし俯いてればその内終わる。
扱いには随分慣れてきた。暴走する陸に比べれば何てことはない。
「ほれ一応は却下だ。書いておけ」
書記も兼務してるのでホワイトボードに殴り書き。
読めた字ではないが誰もどうせ見てない。俺が分かればそれでいい。
ただ独特な字体なためか時々読めない場合がある。
そんな時は誰に相談したらいいのやら。やはり希ちゃんかな。
しっかりした希ちゃんならメモを取っているはずだ。
それくらい真面目でしっかりしている。
見た目に騙されてただの大人しい女の子だと侮っては行けない。
頭はこの中ではずば抜けている。部員が少ない上にスポーツ系だからな。
ここでもぶっちぎりの最下位は陸だ。部長は後ろから三番目を俺と争ってる。
さすがに比べてしまえば負けはしないだろう。
それにしても誰も読みもしないものを書き留めるのはむなしい限り。
やる気がなくなっていく。
今度は試しに部長の悪口でも書いておこうかな。
『海の家かき氷対決』 却下。
「いいかお前ら! 今日中に決めんと夏休みに持ち越すぞ。それでもいいのか?」
いいはずがないので皆一生懸命になる。
「うわ待ってくれ! 地元のサーフィン大会出場はどう? 」
「こら酒井! 適当抜かすな! お前はサーフィンできないだろうが」
「そうだぞ陸。お前は泳げもしないくせに! 」
明らかに適当な提案だと一斉に責める。
「おいおい冗談だろ? 俺を見損なうなよな。浮き輪してれば泳げるぜ」
どうやら陸は波打ち際でバチャバチャしていたいらしい。
俺だって疲れるのは御免だけどさ。でも合宿だろう? それくらい辛いのが当然。
これでビーチバレーやろうと言ったら怒るだろうな部長。
「部長! 砂浜でビーチバレーにしませんか? 」
常に無口で存在感がない希ちゃん。今日は部活に出て来た。
俺や陸が言うよりも彼女が言ってくれた方が部長も納得しやすい。
「うーんそうだな。結局それに落ち着くのかな」
部長は代わり映えのしない中身に不満を抱きながらも妥協する。
何だ。それで良かったのかよ。どうも当初のサマー部の印象と違うな。
大会だって全員参加を強いられるが結果は求められていない。
部長は参加することに意義があると。ただのぬるい大会でしかない。
練習だってそこまでしなくてもいい。
地獄の島トライアスロンだと言うから身構えたが違った。
スイムが一キロ、バイクが五キロ、ランが十キロ。
三種目のうちどれか一つを選び繋いでいく駅伝方式の大会。
陸は泳げないので自動的にバイクかラン。昨年はバイク。俺はスイム。
やっぱり夏の海で泳がないのは間違っているからな。
気合の入った部長は全部をやると見事に完走した。
陸は運動神経はないが体力はある。だから日本一周の旅に挑戦する。
それは素晴らしいことで応援したいが部活や学校や仲間に迷惑かけるので困る。
いや困るなんてレベルじゃない。九月に戻って来れるかも怪しい。
奴がもう少し計画的で頭が回るなら俺たちも苦労していない。
どちらかと言うと部長とタイプは被るかな。
「賛成する者は挙手せよ! 」
多数決により正式に決定する。
こうしてどうにか夏合宿の中身が決まった。
続く