肝試しスタート
夕日が沈み辺りは暗闇に包まれつつある。
「ねえ大丈夫? ミライって何? 」
アイミに心配をかけてしまう。でもまだミライについては伏せることに。
「何でもない。気にするな」
「そう。やっぱり私たちの未来を考えてくれたんだ」
ポジティブで能天気ななアイミ。
希ちゃんを真似てか腕に体重を預けるスタイルで絡んでくる。
「離れろ! 絡むな! 暑苦しいだろう! 」
つい怒りに任せて叱り飛ばす。もちろん本気じゃないが。
ただこんなところを部長に見られたらまた何を言われるか。
希ちゃんだっていい顔しない。ここは心を鬼にして。
「もう分かったって」
そう言ったと思ったら今度は反対側の腕に絡みつく。
せめてその格好はやめろ。なぜまだ水着なんだ?
胸が当たって痛い…… はずもないんだけど。
匂いだって強烈で…… 香るのでつい嗅ぎたくなる衝動に駆られる。
このまま行くと俺は変態道に一直線。
アイミがそんな危険な道に誘い込んだ。
「おいお前たちいつまで遊んでるんだ! 早く風呂に入ってこい!
三十分後に飯だから早くしろ! これ以上迷惑を掛けるな! 」
案の定部長からお叱りを受ける。
カリカリしている様子。どうやら俺たちが楽しそうに見えたんだろうな。
「そうだ部長。今晩ですよね? 」
副部長として大体のプランを共有している。そもそも発案者は俺。
詳細は幹事の部長にすべてお任せだから多少心配ではある。
「おいそこ黙ってろ! 」
慌てた様子を見るにまだ誰にも知らせてないな。
まったく秘密にする意味が分からない。
恐怖って言うのはゆっくり時間をかけて醸成されていくもの。
だからサプライズで肝試しやりますと言ってもはいはいとなるだけ。
風呂と食事を済ませそろそろお楽しみタイムに移るとしよう。
今どき肝試しは流行らないかもな。ただそんなことを言えば計画が破綻する。
こうして全員参加型の肝試しを開始。
昼間に集めた貝殻をペアごとに配る。
「ああ! だからこんなに貝殻を集めてたんだ? おかしいと思ったんだよな」
陸の奴がはしゃぐ。怖いのか怖くないのか?
確か奴は相当な怖がり。でも基本その手の都市伝説は好きだからな。
本格的なお化け屋敷でもない限り問題ないだろう。少々心配ではあるが大丈夫。
だからと言って油断してると痛い目に遭うんだけどな。
そもそも陸には突然暴走する癖があるからな。いつ発動するか分からない。
俺からすればこの奴の暴走の方がよっぽど恐ろしい。
肝試し。
詳細は知らされていないが大体のことは分かっている。
部長ともう一人。三年の小山内先輩。
二人で考えた恐怖の夜が今始まろうとしている。
復帰早々にお化け役ご苦労様。
ただどうやって部員の目を欺いてお化け役をやるかが気になるところ。
まさか民宿の親父にやらせようとしてないよな?
肝試しの基本は恐れないこと。
救われるには勇者であること。度胸があること。
今それが試されようとしている。
「ではまずチーム分けしますよ」
なぜか民宿の親父が駆り出されている。
子供たちと遊びたい年頃らしい。
くじでもいいがここはシンプルに仲のいい者同士。
奴は迷いもなく希ちゃんに突っ込むが玉砕。
アイミはすぐに囲まれた。要するに覚悟を決めて俺から引き離す作戦。
そうだよな。男同士では気分は乗らないよな。
俺は別に陸とでもいいけどね。ただ奴が嫌がるからな。
奴には希ちゃんしか見えない…… こともなくアイミもいいと思ってるよう。
「希ちゃん一緒に行こうか? 」
「うん…… でも私怖い」
さすがは女子。そう言うところはうまいな。男を手玉に取るのはお手のもの。
まさかの本性を現したか?
「本当に怖いの! 」
もちろんそんな器用なはずもなくただただ怖がってるし嫌がってる。
サプライズせずに事前に知らせておけば少しは覚悟ができただろうに。
今のところ突然の足の怪我や腹痛を発症する者はいない。
やっぱり恐怖よりもアトラクション的要素がありワクワクドキドキが勝る。
「大丈夫だって。怖くない方法があるからさ」
こうして俺は希ちゃんとペアを組むことになった。
「ちょっと! 何でそうなるの! 」
アイミが納得いかない様子。組み直しを要求する。
それはいくら何でもわがままが過ぎる。
「アイミさん」
どうやら今回の合宿でアイミの人気に火が付いたらしい。
うんうん。親友として鼻が高いぞ。頑張れアイミ。
こうしてアイミを泣く泣く諦めて希ちゃんと手を繋ぐことに。
これって実はたいしたことじゃない。だって前も繋いだから。
「もう! だったらあんたでいい! 」
アイミは諦めてくれたようで違う人とペアを組む。
その相手はなぜか陸だった。
「ええっ? アイミちゃんはまさか俺のことを…… 」
「そんな訳ないでしょう! さあ行くわよ! 」
こうして部長は三年同士。アイミ争奪戦に敗れた一年と。
きれいに分かれた。
「いいですか。ライトを持ってください。そして忘れてはいけないのがこの貝殻。
これを墓地の一番奥にある大きなお墓の左側に置いてください。
右側にはこの民宿の刺繍入りハンドタオルが袋に入ってます。
これは当宿による無料サービスです。本来ですとお帰りの際に貰えるグッズです。
どうぞ一人一枚ずつお持ちください」
民宿の親父が説明を終えると部長が後を継ぐ。
「いいか。これから順番を決めたいと思う。まず最初に行きたい奴? 」
沈黙が支配する。誰が最初に行くものかと様子見。でも……
そう言えばスケルトンはどうしたんだろう? まさかお化け要員?
まずは様子を見るのが正しい攻略法だ。少しでも怖さを和らげるため。
「おい情けない奴らだな。一年は? 」
全員が首を振る。
「仕方ないな。分かったよ。だったら俺たちが行くとしよう」
「待って部長! 俺たちが最初に! 」
裏を知ってる俺は当然一番に行く選択をする。
こうして最初にどちらのペアが行くのかを話し合うことに。
続く