邂逅
合宿一日目。
ボックス席でアイミと二人っきり。
陸を宥めるために仕方なく希ちゃんと入れ替わった。
長いトンネルに入りついウトウト。
アイミと手を繋ぎ眠る。彼女もきっと寝るんだろうな。
こんなことをしてくれるのはアイミだから。
うっとうしいと思いつつもつい優しさに甘えてしまう。
でも残念ながら俺はアイミの夢を見ることはない。
これは言い過ぎだろうな。彼女を傷つけるつもりはまったくない。
でも彼女の横で違う女の子の夢を見る自信がある。
その女の子は…… 希ちゃん? それこそ最低だ。本格的に傷つけることになる。
そう違う。その女の子は…… 分からない。誰なのか思い出せない。
でもアイミでもなければ希ちゃんでもない。
あれはいつだったんだろう?
いつも同じ夢を見てばかり。あの頃の思い出が印象的だったんだろうな。
心に残ると言うか頭から離れない。だから何度も何度も見てしまう。
それなのにその子の顔がしっかり思い出せない。
思い出そうとすればするほどぼやけて行く。
まるで深い深い霧の中にいるように。
しかも霧が晴れた途端に声だけに。
まるで霧が彼女をどこかに連れ去ったかのように。
何だか不思議な夢であり過去。
「ねえここにどれくらいいるの? 」
どこかたどたどしい部分がある。聞き取りやすい声のはずなのに変。
何かが変なんだよね。違和感がある。
「そうだな…… 明日には帰るよ。だから明日帰る前に会おう」
聞こえたんだか聞こえないんだかすごく遠くに感じる彼女。不安を覚える。
「ごめんなさい。明日はたぶん会えないと思うの…… 」
遅れて反応があった。
会えないか…… それも仕方ないよな。我がままを言えば彼女を困らせる。
この時俺は会うと言う言葉をいまいち理解できてなかった。
そんな難しい言葉ではないんだが。
どうも俺たちはまだ会ってない。そんな気がしてたんだよな。
なぜか物凄い遠くに感じる彼女。
「だったらまた来年会おうぜ」
どうにか格好をつける。
来年が無理なら再来年でもいい。
来年のことは分からないがとにかく彼女を落ち着かせ引き留めたい。
たぶんそれほどかわいくてきれいな魅力的な女の子だったんだろうな。
よく覚えてないんだけど。ぼんやりしていて今でもその顔がはっきりしない。
これが彼女との最後の会話。
彼女の予想通り会えずにその場を去ったことを今でも後悔してる。
今なだけで実際その当時は後悔したかまでは覚えてないが。
恐らく当時は未練たらしく引きずったりしてなかったんだろうな。
どうせ来年会えるんだからと簡単に考えていた。
あの時の俺に今から言い聞かせてもっと大切にしろと言ってやりたい。
でもそんな願望は都合のいいものでしかない。
戻るはずもない過去を嘆いてるただのガキでしかない。
彼女とはたぶん二日会っただけなんだ。たった二日だ。
それでも運命を感じてしまうんだから俺はとんでもない初心と言うことなる。
小学生のガキなどそんなものだろうがそれでも何だか切なくなる。
会えると信じていた。来年になったらきっと会えるって信じていた。
それが叶わない夢だとはその時はまったく思わなかった。
この奇跡の出会いがどこだったのかいつだったのか。
その辺が徐々に抜け落ちてしまう。大切な思い出なのに。
確かその時は両親もいたはずだ。なぜ俺たちが二人きりだったのかな?
これは離婚前の幸せな時間を思い出し勝手に足したただの幻ではと思うことも。
違うとは誰も言えない。言えないよ。彼女と会うまでは判断がつかない。
当然彼女と会ったらその記憶も存在も確定する訳だが。
俺はどうしたらいい? このまま本気で探しに行くのか?
彼女はもう待っていないかもしれない。会えないかもしれない。
このまま幼い頃の素敵な思い出として残しておく方がどれだけいいか。
それが俺自身のためだと分かってるのにその選択ができない。
会いたくて会いたくて仕方ない。おかしな感情が支配する。
どうすることもできない彼女への思い。断ち切れやしない。
こんな風に夢と過去と回想が入り混じったら目覚めの合図。
ホラどこからか声が聞こえる。天使の囁きとはいかないまでも悪くない音色だ。
「起きて。ふふふ…… ホラ起きて」
どうやら三十分ほど寝ていたらしい。
次の駅で乗り換えるそう。急ごう。
「悪いな。つい気持ちよくてさ」
日差しは強いが車内はクーラーで寒いぐらい。
丁度アイミの陰になって直接あたることはない。
ずっと手を繋いでいたんだった。
「ううん。急ごう! 」
アイミは照れた様子。まさか俺が寝てる間中寄り添っていてくれていたのか?
それとも俺の夢でも見たのか? ははは…… まさかあり得ないか。
何だかいい夢が見れた気がする。
急いで荷物を背中に。中身は大体着替えが入ってる。
後はタオルとかお風呂セットとか。そうそう懐中電灯も忍ばせてある。
酔い止めも忘れない。でも電車ではまず酔うことはない。
今はどちらかと言うと体が冷えてトイレに行きたいかな。
バックパックを背負ってビニール袋を掴むとそのままホームへ。
続く