表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/149

アイミの体温

二年前の事件が影を落とす。

せっかくの合宿の雰囲気が最悪に。


頑なに放そうとしないアイミ。

「タピオカ! タピオカ! 」

「ああ大丈夫。落ちただけだから。ほら零れてない」

無理矢理笑顔を浮かべたアイミは必死にアピール。


「悪いな。嫌なことを思い出せて。

でもサマー部に入ったならこれは避けて通れないこと。

ただ今の俺たちには関係ない。だから心配するな」

「うん。それで私たちどこに向かってるの? 」

基本的なことが分かってない子。これは苦労するぞ。

「ああ合宿地に向かってるんだよ」

「それは知ってる。そこがどこか聞いてるんでしょう? 」

不安なのか何度も聞いてくるが俺だってよく知らない。

分かる範囲以内で教えることに。


もう震えも収まったようだし最悪の雰囲気も改善されたかな。

「そうだな。海かな…… 」

「具体的に聞いてるんですけど」

「部長の知り合いの民宿に安く泊まらせてもらう。

去年と同じところだね。これは秘密だけど夜に肝試しをやるかもね」

知ってることを伝える。これ以上は直接部長に聞けばいい。

「もういい。それより景色を楽しみましょう」

つまらない話は充分だそう。我がままだな。

俺も彼女もさほど頭がいい訳ではない。だから説明するにもされるにも難がある。


電車は突然トンネルへ入って行く。

「もう見えないじゃない! 」

文句を垂れるアイミ。俺のせいではないのになぜか責められている気分。

「少し寝ようぜ」

「ウソ? 今ここで? 皆がいるのに? 」

ふざけて慌てる素振りのアイミにはつき合ってられない。

さあひと眠りするかな。


「あの腕を…… 」

腕を放す気がないのかがっちりガードされている。仕方なく腕を強引に戻す。

「ダメ! 気分が出ないでしょう? 」

ごねるアイミ。気分なんて知らないよ。俺はただ眠いだけなんだから。

強引に離れようとするもしつこく続ける。


「分かったよ。だったら手だけでも繋ぐからそれでいいだろ? 」

腕は疲れるので手でどうにか。

「おやすみなさい」

トンネルに入ってすぐに眠気に誘われる。

あのゴオと言う音で中々集中できなそうに思えるが意外にも心地よい。

へへへ…… 眠いな。


あれここは? 例の場所だ。

女の子が踊っている。

最初は楽しそうに。次第に疲れて飽きたのか嫌そうな顔を見せる。

「どうしたの? 」

夢だと感じる。きっと過去の記憶なんだろうな。

首を振る。まるで俺に応えるように首を振るが実際は違う。

男の人が見える。彼が恐らく彼女の大切な人。

それ以上のことはこちらからでは分かり辛い。


「ねえ一緒に遊ぼう」

つい無邪気にはしゃいでしまう。

俺は初め彼女と遊びたくてここまで来たんだと思った。

でも違うらしい。たまたまここにいる。それはただの偶然でしかない。

「ごめんなさい…… 私にはやることが沢山」

まさか拒否されるなんて思わなかった。

「何で? こんなにもつながっているのに全然振り向いてくれないんだ。嫌だ!」


「海? 大丈夫? うなされてたよ」

まだ左手は彼女の体温を感じられる。

どうやら本格的に夢を見ていたらしい。

「大丈夫? 汗を掻いてるみたいだけど大丈夫? 」

俺を心配してくれるのはありがたいができれば放っておいて欲しい。

さあ汗を拭いてもうひと眠りだ。


よく考えれば贅沢なことだよな。女の子の腕の中で眠るんだから。

アイミの匂いを嗅ぎ体温を感じる。

何だかいい夢が見れそうな予感。


サッカーでもなければバスケットでもない。

体に触れてもファールでもなければペナルティーでもない。

彼女が許す限りにおいて俺たちは自由に触れ合える。

別に邪な気持ちがまったくないと言ったらウソになる。

ビーチで見た時はお相手してもらいたいと感じたぐらいきれいなお姉さんだった。

今更本人に言っても調子に乗るだけだろうな。


ううん…… 目を瞑りながらも彼女が分かる。彼女の存在が感じられる。

それって素晴らしいこと。素敵なこと。

俺は彼女を独り占めしてる。彼女が放つその匂いだか臭いだかを感じている。

感じるってとってもとっても感動的なことじゃないか?

いや何も俺は匂いフェチではないんだ。ただ思ったままを感じたままを素直に。

今俺は途轍もなく尊い体験をしている。大げさなどではなく本心だ。

アイミは俺への好意を隠さない。そこは見習うべきだろうな。

ただのストーカーだとしても。

この心地よさは誰も感じ得ない俺だけのもの。


さあ再びいい夢を見るとしよう。まだ目的地まで時間がある。

ウトウトしてきた。何だか心地よく眠れる予感。

前回と言ってもいつだったか覚えてないんだが……

何度も繰り返し夢を見て酷い経験をした気がする。

それさえも夢であったかのようにどうも不安定な夢? 物語?

まるでファンタジーのようなそれはおかしなおかしな夢だった。


アイミはきっと俺には自分との幸せな夢を見て欲しいしと思ってるんだろうな。

でも残念ながらそうはいかなそう。


女は彼氏の腕枕でも違う男の夢を見ると言うが本当かな?

仮に隣の男と手を繋いで寝たとしても別の男の夢が見られるらしいんだ。

男の方はそんな緊張した場面で夢など見てらないだろうからな。

下手に見てバレたら即お別れになるだろうしな。

その点女は横であろうと腕枕であろうと隣の男以外とのロマンスを夢見る。

それは過去のことだから仕方ないのかな?

意外にも過去を引きずっていてかわいい気もする。

俺も今どうなるか少しだけ楽しみ。


アイミはそれはスタイルもいい印象的な女の子。

だけど所詮はストーカーだからな。これは少し言い過ぎだろうか。

俺は彼女の横で違う女の子の夢を見る自信がある。


                続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ