暗い
サマー部合宿一日目。初日から遅刻トラブルで大慌て。
運よく待ち合わせ時刻に着くことができた。うん。予定通り。
それに未だに気づかずと言うか何が起きたのかイマイチ分かってない陸。
無事発車し皆それぞれ寛ぐ中一人奴だけ暗い。
「済まない皆。俺のせいで遅れたぜ」
一応責任を感じてるらしい。
楽しい合宿が陸のせいでお通夜のように。
あれほど気にするなと伝えたのに案の定だからな。
これはいけない。早いところ元の奴に戻ってもらわないと困る。
大体世話をするのは俺で他の人は見て見ぬふり。
「おいおいもう止そうよ。ねえ部長」
そうですよと一年も続く。
「悪いな。お前には予定の十分前の時刻を言ったんだ。だからこれで問題ない」
これはすべて部長の発案。俺たちが遅れそうだからと先手を打った。
でもよく考えれば今乗ってる電車は三十分に一本だから。
おかしいと思って部長に昨夜確認したら早めにしたと言っていた。
だから俺は余裕があった。陸と俺にはその違いがある。
「本当ですか部長? 」
奴が懇願する。ここで甘やかすとまた問題を起こすだろうな。
でもこのまま暗く沈まれてもな…… この部のムードメイカーだからな。
「ああお前が遅刻すると読んで。ははは! 功を奏しただろう? 」
「やった! 助かったぜ! 」
大喜びの陸。喜び過ぎて車内ではしゃがなければいいが。
そうなったら置いて行くしかないな。
団体客だけあってもう目をつけられてるだろうし。
復活の陸はただ手を挙げるだけに留まる。
もしかしてまだ完全復活してない? それとも少しは大人になったか?
陸はまだ俺のことを許してくれないらしい。
あれだけ大丈夫と言って励まし一緒に走ったのに。
「おいどうしたんだよ? 」
大量のお菓子とジュースやコーヒーで釣ってみるが奴は反応しない。
これは不貞腐れてるな。俺が部長と手を組んで酷いことしたと考えてるんだろう。
実際そうだから責められると弱い。でもこれはほぼ不可抗力。
そもそも奴が予定の時刻に遅れさえしなければこんな事態にはならなかった。
俺だって奴に黙っていたのは大差がないと思ったから。
ゆっくり焦らずに行こうと何度も呼びかけていた。
それでも奴は俺が裏切ったと決めつけるから世話が焼ける。
いい加減そろそろ機嫌を直せよな。
部長からすべて聞いた時はそれほどでもなかったくせに。
今更急に機嫌を悪くされても困るんですけど。
合宿初日の朝にこんな事態になるとは思いもしなかった。
「なあ許してくれよ。これ好きだろ? お前集めていたじゃないか」
某メイカーのスナックとチョコ。
スナックには有名なスポーツ選手のカードが一枚。
ゴールドに輝いてるからつい俺も集めたくなるんだよな。
でもそのうち飽きて買わなくなってしまう。
チョコはウエハースでこれがまたうまい。でも少々お値段が張る。
これも一枚カードが挿入されている。
この二つが奴のお気に入りだったはず。
はずと言うのは中学時代の話で今はよく分からない。
でも奴もそこまで味覚が変わるとも思えないしな。
「おい聞いてるのか? せめて顔を上げてくれよ! 」
ずっと俯いて冴えない表情。
いつもの明るさがないのは仕方ないがこのままでは合宿が失敗に終わるぞ。
「おいまだダメなのか? 」
心配した部長も差仕入れを寄越す。
それなりに責任を感じてるんだろうな。
「おいどうしたんだよ陸? 」
「もう飽きた」
どうやらスナックもチョコも飽きたらしい。
「だったら何か食べようぜ」
「放っておいてくれ! 俺は今ダイエット中なんだ」
完全な嘘を吐く。数日前に出掛けた時だって昼を食ってその上たこ焼きも。
俺なんかよりよっぽど食ってた。それなのにダイエット中とは聞いて呆れる。
ただそれほど落ち込んでるとも取れる。
「おいそれくらいにしておけ」
部長は放っておくように提案。
俺だってそうしたいのは山々だがこのままだと本気で後味最悪となってしまう。
そうなる前に対策する。打てる手は打っておくに限る。
しかしいくら中学時代からの親友でもここまでしなければならないのか……
何だか無性にバカらしくなっていく。
皆がいなければここは叱りつけて元に戻すんだろうけどな。
ここは奥の手で行くか。
席を代わってもらうことに。
「あの…… 」
「何だよ! ああ希ちゃん? 」
希ちゃんは昨日髪を切ったとかで感じが変わっている。
髪を切りショートカットに。これはベリーショートってところかな。
似合ってるかと言ったら疑問だがその心意気を評価すべきだろう。
うんやっぱり地味だけどかわいいんだよな。
ショートになった分ボーイッシュになったかな。
元々ガーリーだからその変わりようと言ったら目を見張るものがある。
「あれ希ちゃんどうしてここに? 」
一気に笑顔になる現金な奴。
初めからこうすればよかったんだけどちょっと悪い気がして。
もちろん希ちゃんにだけどね。
こうしてどうにかこうにか怒りを収めてくれた。
ただ巻き込まれた俺がこれほど気を遣うことになるなんて部長を恨むぜ。
そう言えば部長って眼鏡かけていたっけ?
そんな風にぼうっとどうでもいいことを考えていたから気づかなかった。
「なぜお前がここに? 」
平和を乱す悪魔の使者が現れる。
ちょっと大げさだったかな?
続く