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チュウシンコウ

合宿前日。

「なあ歩こうぜ」

陸はそう言うけれど俺は御免だ。

こんな真夏のクソ熱い昼間に歩く馬鹿がどこにいるんだ?

暑さでどうにかなったのか?

「いや…… 涼しいところにいよう」

そう言って歩くがさすがに汗と熱でちょっとそこまでが永遠に思える。

熱中症になる前に逃げ込む。

「おいどこに行くんだよ? 」

手を掴んで強引に図書館へ。


学生の憩いの場。夏休みとあって机は埋まっている。

もちろん俺たちは調べものする訳でもなければ宿題をしようと言う魂胆でもない。

ただ話がしたくて図書館に。

できるなら座っていたいが立ちながらでもできないこともない。

ただこれなら図書館の前のベンチに座った方がよかったかな。

でも調べたいこともあるし。


さあ図書館でお喋り。

これは物凄い矛盾だ。図書館は飲食禁止。

それくらいは分かるがお喋りだって当然いけない。

他のお客に迷惑になるからな。

たぶん注意されるだけで追い出されまではしないが。

何度も繰り返せば居づらくなるのは間違いない。

ここではもうパントマイムかテレパシーで伝えるしかないかもしれない。


議題は『チュウシンコウ』について。

これは昔幼い頃に彼女が踊っていた演目の一種だと思う。

今のところそれぐらいなもの。

手掛かりは俺のあやふやな記憶のみ。


幼い頃とは五年前のこと。あれは俺が六年生の頃。

あの時は凄く楽しかったことは覚えている。

それから両親が離婚して俺は今の家に。父さんが田舎に帰った。

今思い出せば何だかおかしかった。雰囲気がよくないと言うか。

でもまだガキの俺にはどうすることもできなかった。


「おいどうしろって言うんだよ? 」

陸の奴が珍しく熱心だ。

小声のつもりだろうが大きく響き渡り結局白い目で見られあえなく退散。

静かでいられない性格なのは分かり切っていたのにな。

図書館で静かに会話など陸が一番苦手とするもの。


「何か思い出したか? 」

「それが…… 」

どうもこの読み方ではないな。

読めずに諦めかけてるのは図書館でも同じ。


「まあいいや。それよりも明日の合宿の買い物だけどさ…… 」

奴はもう切り替えてやがる。

「準備終えたんだろ? 」

「ああバッチリだ。心の準備を終えた。いつでも旅立てる」

「そう言うことね。今から? そんな奴はいないと思うぞ」

普通はもう準備を完了してあるからな。後は当日に買い足すものがあるかぐらい。

それは主に昼やおやつ用の飲み物とお菓子。

これは最悪なくても何とかなる。

奴はどうやら俺とは正反対らしい。確かに準備万端な奴は陸じゃない気もする。

だからって今から買いに行く奴があるか? 

まあ当日よりは全然ありだけどさ。それでもあり得ないこと。

まったくいい加減なんだから。


「そう言えばどこだったけかな? 」

呑気な陸。行き先を知らないと豪語する。それはいくら何でも大問題。

「おい部長が言ってただろ? 大体話し合いの時にだって聞いてただろう? 」

「いや…… 俺は常に希ちゃんを見ている」

ふざけたことを抜かす。

「だから去年と同じ。同じ海岸でビーチバレーして同じ宿で肝試しをする」

最後のは俺が勝手に付け加えた願望。

とは言え提案はしようかなと思う。

近くにいい廃墟化した建物があるんだよね。それにお墓も近いし。


去年辺りを彷徨ったからな。記憶に残っている。

夏休みと言ったらやっぱり肝試しでしょう。

施設のアトラクションではなく大自然でのクラシックなお遊びの肝試し。

サプライズの方がより盛り上がるか? いやどうかな?

突然だといきなり腹痛を起こしたり足を怪我する奴が出るからな。

俺だって決して霊に強い訳ではない。夏の思い出にはちょうどいいかなと。

盛り上がるといいんだけどな。

どうせ部長は提案に乗っかるだろうし。好きだったよね。

これが意外にも苦手なのが陸だ。


「なああっちの方は進んでるのか? 」

図書館で調べ物は難しいので駅前のファストフード店へ入る。

「俺コーヒーだけでいいよ」

「ははは! 情けない奴だな。お前金欠なのか? 」

貧相な格好してるお前に言われたくない。

「いやほら…… 明日から合宿だろ? 余計なものを食いたくないんだ」

合宿で食うのは定番のカレーだろうが楽しみにしてない訳ではない。

とにかく前日に余計なものを食べて体を壊したくない。

辛いもの生ものは遠慮する。臭いが強烈なのも違う意味で避けたい。


いつも格好つけて飲んでるブラックコーヒーならいいだろう。

どうもそれだけだと胃に悪いので奴のポテトを奪う。

「ひでえな! 俺が楽しみにしてたポテト」

そう言いながらがっつり食べる。

ポテトぐらいいいだろうがと勝手に考えるのはいけないこと?

「それでお前の方はどうだ? 」

「何度聞いても同じだって。これは一年やそこらでは進展ないっての」


奴は何を隠そう宇宙船を探す壮大な目標がある。

それは中学から言ってる妄言みたいなものだがからかうと怒るから真面目に聞く。

でも宇宙船ネタはそう簡単に落ちてない。特に日本では見かけることはない。

最近の研究では宇宙には少なくても宇宙生命体はいるのではと。

有名な科学雑誌でも特集されるぐらいに盛り上がってるところ。

奴がその手のことに興味があるので俺も多少詳しくなった。

どこに飛来するとか何時ごろに来るとか具体的な話が出ている。


                続く

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