荒んだ中学時代
水着選びを楽しんでる女子二人。
それを隣の店からこっそり覗く情けない俺たち。
ああ何て眩しいのだろう?
俺もあの華やかな色とりどりの世界に行ってみたい。
でも俺たちの距離は遠い。近くに見えて物凄く遠い。そんな気がする。
ジャンプすれば簡単に行ける距離なのに何だか凄く遠くに感じるのはなぜか?
視覚の問題と言うよりも精神的な問題だろうな。
チュウシンコウ。
「なあお前さ『チュウシンコウ』って何か知ってるか? 」
「はあそれが水着に関係あるのか? へへへ…… 邪魔するなよ」
陸は話を聞こうともせずただ覗いている。
「いやふと浮かんだんだよ。何だかよく分からないんだけどさ。聞いてるか? 」
俺は自分で言っていて意味不明。こいつに聞いたところで……
「さあなあ。まさか夢で見たとか言うなよ? 」
同じような夢を見ている。しかも毎年この時期になると何かを訴えるかのように。
特に去年からそれが顕著に。
今年に入り夏が近づくとますます酷くなりもはやどうにもならない状況。
まさか俺の心の叫びとでも言うのか?
フロイトか? 心理学か? 夢と現実のリンク?
「とにかく教えてくれ! 」
「俺が知ってると思うか? 普通の奴は知っていても俺は知らん」
奴にも奴なりの美学があるらしい。これも無知の知?
「そこを何とか! 」
「お前が苦しんでるのは知ってるよ。夢だか過去だかな。
どうせ親父さんのことだろ? 」
そう。奴とは中学から一緒。あの時の俺は荒んでいたからな。
毎日のように暴力を振るっていた。それは町であろうと学校であろうと。
どのような場面でもシチュエーションでもだ。
それは画面越しではあるのだが。止められなかった。
奴がやめようよと何度も言うから改心して今がある。
そう言う意味では奴には感謝しなくちゃな。
だからってシミュレーションゲームはないよな。せめてスポーツがいい。
いくら飽きたからってもっとマシなのあるだろう?
そうそう学校から帰ると毎日のようにゲームをしてたっけ。懐かしいな。
格闘ゲームはこうして卒業した。
近所だからな隠し通すことも難しかった。
俺が無言を貫いても奴は婆ちゃん辺りから仕入れてきてしまう。
父さんか…… 今どうしてるのかな?
会いたいような会いたくないようなそんな気分。
お買い物終了!
「へへへ…… 買っちゃった」
アイミは大喜び。嬉しさが顔に。
元々頭もよくなく俺たちと変わらないおバカさんなだけに単純だ。
それにしてもいつの間にこんなにかわいくなったのか?
おっと見た目に騙されてはいけない。
希ちゃんにしろアイミにしろ異空間に取り込まれて舞い上がってる。
「さあ行こうか」
「ねえ興味ない訳? 」
頬を膨らまし怒る真似。
これがまだ希ちゃんならいいと思う。でもアイミだしな。
「希ちゃんはどうする? 」
これからの予定を聞く。
「私はもうこれで」
帰ろうとする付き合いの悪い女の子。
まだ四時前。あと一時間と言わずに二時間、三時間と楽しまなくてどうする?
夏休みは始まったばかりなのだから。
とは思いつつ俺も賛成に回る。
帰りに夕飯のおかずを調達しなければならない。
奴を誘うのも悪いし一人でいいかな。
「おいお前もかよ? もう少しつき合えよ」
「そうそう。あなたがいないと帰ることになるでしょう? 」
どうやら残り二人で何かするつもりはないらしい。
「分かったよ。希ちゃんもいい? 悪いね。つき合わせちゃって」
頷くも嫌そうな顔を見せる。これはまずかったかな。
こうして二時間ほどカラオケして帰ることに。
「お前何で歌わないんだよ! 俺にばかり歌わせやがって! 」
二人とは駅で別れて奴と夕日を背に坂道を上り商店街へ。
「いや…… お前がマイクを放さないからさ…… どうしろってんだよ? 」
実は歌は大の苦手。聞くのはいいんだが歌うのはどうしても恥ずかしくて。
特に女の子の前では無理。
無防備な自分の間抜けな顔がどうも笑われるのではと気が気じゃない。
それなのに奴が強引に誘うものだから仕方なく。
前から伝えておいたはずだが。なぜ覚えてない?
「それはそうだけどよ! 」
まだ納得してない様子。
「一曲歌っただろ? 」
「一曲だけだろ? しかも最後に皆で歌ったから仕方なくじゃないか」
不満を漏らすがそれはどうかな? 奴が歌いまくって目立ったのは確か。
もし二人にアピールしたいのならこれは絶好のチャンスだった。
だからこれは奴に気を遣ってる面もある。ものにするかしないかはその人次第。
アイミと意気投合していたしこれはもう大成功と言っていい。
「まあまあ。楽しかったなカラオケ」
どうにか追及をかわそうと必死にごまかすが奴はまだしつこく何か言って来る。
「それに何で俺までつき合ってるんだよ? 」
「だって帰るのが遅くなったからさ…… 」
奴には夕飯の買い出しを手伝ってもらっている。
本当は一人で済ますはずが少し予定より遅れたから手伝ってもらうことに。
「どうしてそれで俺が? 」
「夕飯一緒に食っていくか? 」
「遠慮させてもらう。さあ早く買って帰ろうぜ」
こうして突然の出会いから絆が深まった。
アイミも希ちゃんもいい買い物ができたんじゃないかと。
次はどこに行こうかなとか思っている自分が情けなくて恥ずかしく仕方ない。
相当浮かれてるな俺? ここは引き締めないと足元を掬われそうだ。
さあ夏合宿まではのんびりしてるとしましょうか。
続く