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アイミ理論

いつの間にか俺を巡っての激しい言い争いが勃発。

「私の! 」

「いや絶対に私の! 」

おいおい冗談だよね? それは確かに男として大変光栄なことだけど。

でもこれは興奮して互いが引けなくなっているだけ。

女の争いとかではまったくなく一時の感情のみ。

真に受けて鼻の下を伸ばし余裕をこいていたらあっという間に嫌われる。

激しければ激しいほど熱が冷めるのも早い。

うんうん。俺はバカじゃない。悟ってるのさ。


「希ちゃん。ほら落ち着いて。アイミだっけ。お前も静かに。

ここには俺たちだけじゃなく大勢の参加者がいるんだからさ」

「正論は聞きたくない。私の! 」

「そうそう。私が先だって! 」

奪い合いが激化する。もうこうなっては俺の手には負えない。

だって引っ張られるから。まずはこの状況から脱しなければ。

うわ…… まずい。どうしたらいい?


「まあまあ二人とも落ち着いて! 希ちゃんも気持ちは分かるけどさ…… 」

「ねえこの女の気持ちはどうでもいいでしょう? 私の気持ちを考えなさいよ!」

希ちゃんに割り込む形でアイミが。

どちらか一方を応援したり気遣えば傷つけてしまい逆効果。

ここは大人しくなるまでじっとしているのが正しい対処法。

でもそれも限界がある。


どうしよう? どんどん人が集まって来てしまった。

ただ騒いでるならまだ平静を保てるが俺を争ってだからな。

知らぬ振りもできない。逃亡も不可能だろう。

これは収拾がつかなくなる前にどうにかしなければ。

うーん…… どうする? どうしたらいい?

だが希ちゃんならまだしもアイミは俺では抑えきれない。


目の前には円を描くように人の群れが。どんどん集結してきている。

「何だ何だ? 痴話喧嘩か? へへへ! 」

誰もが静観を決め込んでいるところに遠慮のない者が前へ。


ビーチにいる酔っ払いが絡んでくる。

まだ昼間っからお酒を呷りいい気分になっているおじさん。

間違いない。彼こそが騒ぎを大きくしようとしている。

その方が盛り上がるだろうからな。他人事だと思って大喜び。

突き詰めれば所詮は責任など感じない他人事でしかないのだけど。


「おい見てみろよ。すごいぞ。これは特等席で見物だな」

どんどん人が集まっていき競技関係者にまで。

ついにはサマー部の目に留まる。

もう恥ずかしいを通り越して何も感じなくなってきた。

ははは…… 

なぜか笑う。笑い続けてないともう耐えられない。


「おい! お前何をしてる! 不気味に笑いやがって」

部長の鋭い視線が刺さる。

「いや俺はただの被害者で…… 」

両腕を取られとてもじゃないが逃げ切れない状況。

今すぐにでもランがしたい。でもスイムでもう体力を使い果たした。

うーんどうしよう? 途方に暮れる。


最悪なのはバイクを終えた陸が戻ってくること。

奴が加われば余計にこんがらがって収拾がつかなくなる。

その前にどうにか解決せねば。

でも実際それができないから苦労してるんだよな。


「部長…… その自分でもよく分からなくて。

ただ希ちゃんと一緒にいたらこうなりました」

下手な言い訳をせずにそのままありのままを伝える。

後は部長の捉え方次第。日頃の俺がどれほど信用され評価されてるかが分かる。

部長はきっと俺の味方さ。俺たちの味方に違いない。


「それで両腕を取られてると? お前は部活を舐めてるのか? 

大会を馬鹿にしやがって! 」

感情的になる部長。

恐らく俺と同様スイムで二キロ泳いだものだから疲れたのだろう。

そのせいで感情がコントロールできないのだ。

俺だって似たようなもの。ただ俺は相手が女の子だからそんな手荒な真似しない。

代わりにいいようにされてしまっている。

何とも情けない姿を晒してしまった。どうしようこの後。

合宿だって控えてるんだぜ。今日一日我慢したらどうにかなるものではない。


「済まないがそいつを放してやってくれないか? 」

怒ってると思っていたが意外にも冷静。それとももう呆れ果てているのか?

縁を切られた? それだけは困る。見捨てないで欲しい。

これは俺のせいではない。誰のせいでもない。

もし罪に問えるとしたら陸だ。恐らく奴がアイミに。

奴がアイミに教えさえしなければこんなことにはならなかった。

そう勝手に決めつけているがほぼ間違いないだろう。


「はい…… もう放しなさいよ! 」

アイミは冷静さを取り戻し恥ずかしそうに突き放す。

それはいくらなんでも酷過ぎる。いきなりの方向転換に呆れる。

「ちょっと…… 大丈夫希ちゃん? 」

アイミが急に放すものだから希ちゃんが転んでしまう。

頭を打ったり擦りむいたりしても大変だからな。

「うんありがとう」

「ちょっと! 少しはこっちも心配しなさいよ! 」

怒り狂うアイミ。いやお前が突き飛ばしたんだろうが。

それで怪我していたら苦労ないよ。


「お前は何でここに? 一体誰から聞いたんだ? 」

サマー部でもないアイミがどうやって大会を知ったのか?

仮に知っても追いかけはしないがそれは彼女の問題。常識ないからな。

「ストーカー呼ばわりしないで! あんたが告白したから応援に来たんでしょう」

アイミは訳の分からないことを繰り返す。もはや意味不明過ぎて付いて行けない。

ストーカー理論ではそれが正常らしい。

俺はとんでもない女に告白してしまったらしい。


このままどこまで行くのやら。

いざこざが収まる気配はない。


                 続く

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