両想い? アイミ登場
告白した女の子の名前さえ覚えてないと言うか知らないとは俺も酷い人間だ。
自覚してる部分はある。問い詰められれば謝ろうかとも思う。
だけどそれは学校内でのことだろう?
せめて電車か帰り道ならまだ分かる。
でもここは大会が行われてるビーチ。
偶然出会えるはずもなくまたこの辺りに住んでるはずもない。
要するに俺を追いかけてきたことになる。
真相を明らかにしてくれないと怖くて堪らない。
だってこれは常軌を逸した行為だ。
とりあえず無難に。
「君の名は? 」
少々失礼だったかな? でも本当に知らないから素直に聞く。
それが余計なトラブルに巻き込まれないコツ。
そうコツなんだけど…… でも充分巻き込まれてしまっていてはもう遅い。
たぶん俺は逃れられない深い沼に片足を突っ込んでしまったのだろう。
「はあ? アイムでしょう? 私はアイム。皆からはアイミって呼ばれてる」
彼女は当然俺が知っているものだとばかり。だが考えてみて欲しい。
俺にはただの隣の女の子でしかない。しかも女にはさほど興味がない。
なぜなら他にもやることがいっぱいあるからだ。
勉強にボランティアに部活に趣味。これ以上他のことには費やせない。
買い物だってあるしな。
もちろん勉強はできないよ。その代わりよく寝ている。
そう。ただ勉強ができないのではなく寝て体を休めている。
それってなかなかできないことだと思う。
ボランティアも土日にちょっとだけ。
ゴミ拾いとお手伝い。これが意外と癖になる。
奉仕活動は今後のためにもなるので。
部活は常に参加。それでも参加しない奴を無理やり引っ張ってくることもない。
やる気のない奴を促してどうにか足を運ばせるのが俺の役割だ。
何と言っても副部長だからな。責任がある。
サマー部などと言うおかしな部活に入った以上仕方ないこと。
趣味は…… 言えないよね? お披露目するような立派な趣味を持ってない。
ギリギリ発表できるのは妄想するおかしな癖かな。これは後で分かることさ。
陸のように自転車で日本一周の旅なんてできない。そんな壮大なこと俺には無理。
できるできないは別としてやろうとすることは立派で尊敬する。
ただ何と言っても電動自転車だからな。
恋愛はと言うとからっきしダメ。奴に付き合ってるに過ぎない。
主体性がないと言うかどうでもいいと思っている。ただそれは言い訳もあって……
モテる奴は放っておいてもモテる。モテない奴は徹底的に鍛えても悪化するだけ。
そんな持論がある。ただ非現実的だがモテ期があると巷では言われている。
俺にもそんな時が来るのかな? ううん? 今なのかな?
「アイムか…… いい名前だね」
一応は褒めておく。実際悪くないかわいらしい名前だしな。
「ありがとう…… 」
意表を突かれたのか本当に嬉しかったのか素直に礼を言う。
やっぱり女の子は褒めるのがいいんだろうな。
陸もそんなこと言っていたっけ。
でもそれで成功した試しがないのが奴のいいところでもあり憎めないところ。
成功してから語って欲しいな。
そう言えば奴はどうしてるだろうか? もうバイクもそろそろ終盤だよな。
ゴール地点で出迎えるのがせめてもの友情だろう。
「それでアイミちゃん。何で君はいるの? 」
もうただのサングラス女じゃない。アイムと言う立派な名前がある。
そして親しみを込めて俺もアイミと呼ぼう。
「それは…… 」
詰まってしまう。面倒臭いな。
「まあいいや。ゴール地点まで行こう。あと少しでゴールする頃だろうから」
そう言って希ちゃんを連れて走るがアイミも追いかけてくる。
ハアハア
ハアハア
息を切らして何か文句がありそう。
サングラスが怖いんですけど。でもそんなこと言えない。
「あんたを追いかけたんでしょう! 」
「いや違う。奴のゴール地点に向かってるところをついて来ただけに過ぎない」
一応は訂正する。
「だからそうじゃなくて! ここにはあんたを追いかけて来たの! 」
はっきりと目的をばらしてしまうところが単純でバカっぽい。
そこがかわいいところでもある。
「いや…… 」
ダメだ。何て返せばいいか。俺を追いかけた?
サマー部でもない彼女が俺を追いかけて……
「それってストーカーだよ…… 」
「うるさい! あんたが告白したからこうなったんでしょう? 」
さも俺が悪いみたいな言い方。でもあの時は奴だって告白した。
俺は二番手でついでだったし目立ってもいなかった。
それは確かに補習には三人しかいなかったから何とも言いづらいが。
「それで俺はどうすればいい? 」
「そんなの私に聞かないでよ? 一般的には付き合えばいいんじゃない?
両想いなんだからさ。何の問題もないでしょう? 」
勝手に両想いだと決めつけている。だが俺はそんなこと……
ああそうか。告白したんだっけ。それにOKしたんだからそう言うことになるか。
悔しいが認めるしかない。
「でもさ。あの時はノリって言うか…… 」
「言い訳は通用しない! さあ! 」
こうして左腕を取られてしまう。
「おいこれじゃあ動けないだろう? 」
「そうですよ! あなたさっきから何なんです?
参加者や部の関係者以外来ないでもらえますか? 」
黙って聞いていた希ちゃんが止めに入る。
「うるさい! 黙ってなさいよ! 大体あんた誰なのよ? 」
「あなたです! 」
「あんただって言ってんだろうが! 」
ダメだ。二人で無益なケンカを始めてしまう。俺は一体どうしたらいい?
もう競技どころじゃない。応援できる状況にない。
続く