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微妙な空気

二キロのスイムを終えてもうヘトヘト。

見学に回った希ちゃんと二人っきりに。

例の件もあって微妙だからどうにも居心地が悪い。

だからつい余計なことをペラペラと。

しかも俺の意思とは関係なくただ捲し立てる。

相手が不快かなどどうでもよい。

ただ思いついたことを順に話していく。


「そうだ希ちゃん。奴の応援に行こうぜ? 」

奴とはもちろん陸のこと。

だがなぜか首を振る希ちゃん。うわ困ったな…… 

いつもは素直で言うことを何でも聞いてくれる子なのに。


これはもういっそのこと謝ろうかな?

でも本当にただの義理だったらどうする?

俺は単なる間抜けで意識し過ぎの男になってしまう。

それはそれで笑われるだけでまだマシ。ただ耐えられるかと言うと何とも……

もちろん希ちゃんはそんなことしないが。


どうしよう? 希ちゃんとのことはできれば今日中にどうにか解決したい。

これ以上長引かせこじらせでもしたら大変だ。

俺からはっきり問い質すしかない。しかしどうやって?

半年近く前の話を蒸し返すのはあまりに不自然。

とりあえず無難な質問から攻めて行こう。

それこそ準備運動が大事。激しい運動をする前は特に準備運動が重要に。

まずはジャブから。


「希ちゃんはどんな男性がタイプ? ほら俳優で…… 変な意味じゃなくて」

うわ情けないな俺。何を言ってるんだ? これでは答えてくれるはずないだろう。

「特には…… 」

そう言って寄りかかって来る。あまりに自然だから受け入れるところだった。


待ってくれ。はっきりしない二人の関係。この場の雰囲気に流されそのまま……

いやいやそのまま最後まで行くことはないだろうが取り返しのつかないことに。

それこそ手を繋いだりキスをしたり……

ははは…… 俺は一体何を考えてるんだ? でも希ちゃんの大胆な行動もあるし。


「へえ…… そうなんだ。真面目なんだね」

「ごめんなさい。つまらなくて」

言動が不一致なんですけど? わざと? わざとなのか?

こんなところ見られたら誤解されるじゃないか。いや待てよ…… 誤解なのかな?

希ちゃんは熱っぽいと迫るが全然そんな風に見えず俺の方がどれだけ熱いか。


「奴は自転車で日本一周するんだって。しかもバカだから電動自転車でだとさ。

それはいくら何でもあり得ないだろ? それならいっそのことゲームでいいよね」

鉄板の面白ネタで盛り上がるはずが俺だけが笑って叫んでるだけ。

奴を犠牲にしてこれでは浮かばれない。

希ちゃんは興味なさそうに俯く。

いやここは大笑いしてくれないと困るんですけど……

済まん陸。でも事実だからいいよね? ただ恐らく希ちゃん奴を相手にしてない。

興味がなさそうにただ首を振るだけ。

こちらまで居たたまれなくなる。ああ希ちゃんはやっぱり俺のこと……

これで確信が持てたような余計に混乱したような。

複雑でも何でもないがとんでもない雰囲気になる。


「そろそろ行こうか? 」

まだシャワーも浴びてない。浴びようとしたところでばったりと。

いくら夏でも俺はきれい好きだから。

一緒に浴びようかなどとふざけるのはさすがにまずいよね?

希ちゃんは頑なに離れようとも離そうともしない。困ったな……

こんなところを見られたらどんな噂が立つことか。

誰にってことはないけどさ。


希ちゃんは大人しいけどよく見ればかわいいし人気もない訳ではない。

でもおしとやかで上品とはちょっと違う。

暗めで何を考えてるか分からない近寄りがたい存在。

第一印象はそんなところ。ここまで彼女と抵抗なく話せるのは陸のおかげ。

あの陸に上がって泳ぎを失った珍種の奴に随分助けられている。

奴が物怖じせずに話しかけるから俺もつられて話しかけるように。

だから友だち。サマー部の仲間だから楽しく毎日過ごすのが当たり前。

だったんだけど…… 例の品を貰ったばかりに俺が今になって意識する羽目に。

もう遅いがあの時しっかり気持ちを確認すべきだった。


「なあ陸の奴をどう思う? 変だろ? 」

首を振って心底どうでもいいと。それは俺だってたまにそう思う時はあるさ。

でもずっとはないだろう? 奴にだっていいところの一つや二つ。

俺としては二人がうまく行ってくれると助かるんだけどな。

おっと…… どうしても逃げ腰になってしまう。

今掴もうと思えば掴めるのにそれをしようとしない。


俺ではこの希ちゃんを幸せにできない。

そんな大げさな話ではなくて今は自分のことで精一杯だから。

いろいろと取り込み中。そこに希ちゃんのことまで加われば動きが取れなくなる。

すべては夏が終わって九月以降に決着をつける。

あの子の件もあるし…… 


名前何だったけ? 補習で告白してなぜか受け入れられてしまった。

ただの予行練習の上に俺は付き合いで。

その本番がこの希ちゃんだ。

何だか急に俺たち周りに女の子たちが集まりだした?

奴にも幼い頃から仲のいい女の子がいて振り回されてるとか。

ドンドン暑くなっていく予感がする今年の夏。


「へへへ…… あいつは馬鹿だからまだ宇宙人がいるって騒ぐんだぜ。

もうほとんどフェイクだって解明されたのにさ」

つまらない上に興味のない奴の話を永遠に。どうしたんだろう?

いつもとはまったく逆のことをしている気がする。奴の話はするけどさ。

安易に笑いを取ろう取ろうとして滑っている感じ。

どうも微妙で重苦しい雰囲気が漂っている。

もうこの際誰でもいいから来てくれ。気づいたんだよ。

俺では希ちゃんを幸せにも笑わせられもしないと。

どうしても前のように自然に話すことができない。なぜこうなったのだろう?

誰でもいいから早く!


願いは届いたのか彼女が反応。

人が近づけばさすがにくっ付いてる訳にも行かないしな。

ただ実際は違う。ここはビーチで男女がこんな風にしていても不自然ではない。

逆に俺たちは今すごく溶け込んで見える。


                 続く

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