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紅心中伝説再び

もう時間がない。日が完全に暮れるまで五分あるかないか。

それなのになぜかミライは光り輝いて見える。まるで女神様であるかのように。

恐らく俺も。何らかの影響で暗いはずの世界が明るく照らされる。

これは奇跡? 夢? 現実? 分からない。

とにかく急いでミライを説得し最後の賭けに出るとしよう。


「紅心中伝説って知ってるか? 」

ついに言葉にしてしまう。

チュウシンコウで濁そうかとも思ったがそれでは意味不明。

ここは思い切って聞く。

「知ってるも何も恐らくこちらの世界の神話。伝承。

交流があった頃に伝播したんでしょう?

ミモリさんもその話をよく。二人の関係が似てるからって…… まさか海…… 」

感づくか。さすがはミライだ。でも嫌そうだな。

そんな驚かなくたっていいじゃないか。俺たちはもう結ばれる運命さ。


「俺じゃ嫌か? もう時間がない。決めてくれないかミライ? 」

最後の最後までミライに決めさせる。俺の意志の弱さが表れている。

分かってるんだ。自分ではどうしようもないと。

当然心中な訳だから一人では無理だ。二人の想いが重なってこそ決断できる。

この土壇場で最後の賭けに出ようと思う。


「かつて多くの男女が不幸にも散った紅心中伝説。

それを再現しようと提案している。ミライにはぜひ真剣に考えて欲しい」

「でもそんなこと急に言われたって…… 」

「鶴さんは言った。伝説の男女は決して幸せではなかったと。

でも少なくても出会えた。一度は会えた。

だからこそ愛も芽生えたし育まれもした。

これは悲しい物語なんかじゃないとそう言ってくれた。

俺はバカだから適当に聞き流していたのでふんふんと答えた。

でもそれは俺たちに向かって言っていたんだ。

俺とミライが決して出会えないと知っていて。

悲劇の男女は決して悲劇などではなく思いを遂げたハッピーエンドだとまで。

それはいくら何でも言い過ぎだと俺は思う。

でもどうやら俺たちはこの伝説よりも悲惨らしい。

自覚は薄いがどうやらそうらしいんだ。

伝説や神話や伝承などいつの時代かも分からないってのに。

その時代よりも俺たちの方が悲劇的とは笑える」


へへへ…… どうしてこうなったんだろう? 

シーかミートに関わらずやはり俺たちは出会うべきじゃなかった。

おっと悲観する必要はまったくない。

歴代の紅心中は最後だけは再会できずに不安の中で散っていった。

でも俺たちは出会えはしないが見えている。声だって問題ない。

意思の疎通ができている。最後の最後までお喋りができる環境。

歴代の彼らはそうだと思い込み散るしかなかった。伝説によればだが。

さあ次は俺たちの番だ。


「まさか海! 海! 冗談はやめて! 正気なの海? 」

怖気づくミライ。焦りと恐怖は相当なもの。

結局ミライにとって俺はそれだけの価値しかなかったんだろうな。

俺たちは五年間お互いを思いやり求めてきたと思ったのに残念だよ。

でも今はそんなこと考えてる時じゃない。前に進むしかない。


「恐れるなミライ! 君だって頭の片隅にはあったんだろう? 」

俺たちが散る未来。ミライはその未来を見ていたはずだ。違うのかミライ? 」

少々強引に迫る。こうすればミライは動揺して迷うはずだ。

迷った上で優しいミライのことだからきっと俺の提案を受け入れてくれる。

「それは…… 分からない」

混乱するミライ。この混乱に乗じどうにかミライをコントロールすれば成就する。

さあこれで完全に主導権を奪ったぞ。後はミライの気持ち次第。

汚いやり口だがこれも俺たちが結ばれる為。手段は選んでいられない。

「ごめん。別に強要する気はないんだ。ただ選ぶ必要はあるよ。

このまま国王様の愛人の一人として暮らすのか俺と心中するかだ」

ついに心中の二文字を出してしまう。もう後には引けない。

このまま一気に畳みかけるしかない。

いくら俺が無茶苦茶言ってるとしても彼女を説得すればいい。


「紅心中伝説…… まさかそんなこと現代で?

一組の男女が同日ほぼ同時刻に同じ亡くなり方をすれば来世で結ばれると言う。

でも本気なの海? 私たちはまだ…… 」

「子供か? 高校生か? じゃあ何の為にここまで来たんだ? 

すべてを知っていながらどうして? 」

決断の時だ。もう残り三分を切った。完全に太陽が沈めばもう一生会えない。

ならばその選択肢だって間違ってない。今までの強い想いは何なのか?


「責めないで…… 」

ついにミライも泣き崩れた。俺だってもはや正常ではない。

「責めてないよ。ミライの本音が知りたいんだ」

ついに主導権を握った。さあ俺の思い通りに行ってくれよ。


どうすればいい? どうしたらいい?

今俺は何を迫っている? 

まさか俺は自分でも訳が分からずにミライに迫っている。

昨日まではそんなこと考えもしなかった。だって絶対に会えるって。

そう昨日までと形が変わってしまった。

タイムリミットまでに出会えなければと言う一種諦めがあった。

でも今は違う。会えなければ伝説のように二人で……


「やっぱり俺とじゃ嫌か? 」

本音を探る。もう間もなく日暮れ。俺たちの時間ももうお終い。

来年に会えない訳ではない。でもそれはミライが拒絶するだろう。

そこまでして何になると言うのか? 俺だって充分理解してるんだ。

もう俺たちは子供じゃない。

「そんなこと…… ずっと考えていた。

私たちが会えないかもと思った時からその考えが頭を支配した。

でも絶対ダメ! それは一時の感情。後悔することになる」

ミライはここに来て反対するらしい。


「そんなことぐらい分かってるよ。でもミライは諦めるんだね? 」

元々ミライが迎えに来てくれと言う話だった。

こうなって怖気づく意味が分からない。

「諦めたくない…… でも伝説の二人にもなりたくない! 」

素直な気持ちをさらけ出す。


「だったら俺一人でも」

「冗談はやめて! 一人では意味がない。何のために? 」

「俺は君に会うためにすべて捨てたんだ。愛も夢も希望も友さえも。

今更元の世界には戻れない。だからこのまま…… 」

ミライのためにすべてを捨てたのにミライは受け入れてくれない。


「なぜ受け入れてくれない? どうして? 」

「それはね。それは私たちにはまだ未来があるから! 」

だからそれがないからミライは悲しんでいたんだろうが? もう訳が分からない。


「もう一分もすれば見えなくなる。今のうちに何か言いたいことは? 」

俺の案を退けて戻るように促す。

でもそんなの嫌だ。なぜ一緒に散ってくれないんだ? 

俺たちは一緒に散れるんだぞ?

そして来世でまた結ばれたらいいじゃないか。


「俺と一緒に来てくれないか? 」

「それはダメ! あなたは今絶望して何も考えられないのよ。

ミモリさんも拒絶されたように私だってあなたを拒絶する!

そんな情けない海は大嫌い! もう私のことは放っておいて! 」

ミライはついに俺を捨てた。一体どうすればいいんだ?


                 続く

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