混乱する世界
これまでのことはすべて推測。鶴さんやミモリが言うのが正しいとは限らない。
彼らには彼らなりの意志が働いている。
無闇に信じてはバカを見るだけ。もちろんすべてが嘘だとは思えないが。
今俺たちは岐路に立たされている。
たぶんこのまま別れるのが正解であり正しいのだろう。
ただいくら正しくても選ぶ必要まではない。
俺たちは俺たちの考えに基づいで動けばいい。自由だ。
ミライは完全に諦めてしまっているが俺は違うぞ。
万に一つでも可能性があるならそれに賭けるべき。
ミライは絶望による防衛本能からきれいに終わらせようとしているだけ。
だからこそ俺は絶対に諦めない! 最後まで諦めない!
「洞窟さえ発見できれば俺たちは出会える」
「それは…… 全然違う。それはまやかしよ! 」
ミライが断定する。何か知ってるのか?
「でも鶴さんたちの話には…… 」
「うん。それはたぶん正しいのきっと。言い伝えがあるから」
「言い伝えって? 」
「もう隠しておこうと思ったのに無理みたいね。でもこの話をすれば長くなる」
「急いで! 」
「もう海ったら…… 」
「確かにこちらにも洞窟はあります。
そこを通り抜ければあなたたちの土地に通じるでしょう。
でもそれには何千通りの分かれ道を正確に通らないとたどり着けない。
もし迷えば一生そこで暮らすことになる。地図もなしに入るのは自殺行為。
地図は遥か昔に消失してしまっている。だから決して近づくなと言われてるの」
ミライは知っていた。洞窟からでは不可能だと。ではどうすればいい?
「やっぱりこの崖を飛び越えるしかなさそうだな」
強行突破あるのみ。パラレルワールドだろうと無理やり渡ってしまえばいい。
それでミライに会えるなら。
俺たちは棲む世界が違うことで一旦は諦めていた。
でも方法があるなら何の問題もないじゃないか。
自分たちの常識に囚われてチャンスを逃して堪るか。
「やめて! そこは本当は繋がってない…… 」
ミライがおかしなことを言う。繋がってないだと? あり得るのか?
難攻不落の二つの山。飛び越えるにはジャンプでなくても代わりがあればいい。
それこそヘリコプターや風さえ捉えられればパラグライダーでも。
正確な場所と位置さえ分かればどうにか。大型ドローンもいいかもしれないな。
集落の協力を得て金と時間に余裕があればどうにでもなる。
ただ今から家に戻ってる暇はない。仮に延長できても祭りの前日が限界。
そこがタイムオーバーでありゲームオーバーだ。
集落の者に言ったところで笑われるだけ。父さんはその手のことには疎い。
この条件で頼れそうなのは異丹治。彼の財力と行動力があれば可能だろう。
奴らだってお宝が手に入れば安いはず。
今すぐにでも持ち掛ければきっと協力してくれる。いやもっとか。
ミライを連れ出してくれるかもしれない。
俺はミライと会うためにここに来た。試練があると言うなら立ち向かう。
不可能なことなど決してない。俺は僅かな可能性に賭けたい。
それがたとえミライの意志に反するとしても。
俺もすべてを捨てる覚悟なのだから。ミライだってすべてを捨てて二人で。
それが夢であり愛であり希望。俺たちは今ようやくここで……
「なあ俺に任せてくれよ。きっとうまく行く。俺たちは絶対に幸せになれる! 」
ミライは今迷っている。俺が強く押せばきっと賛成してくれる。
大丈夫。たとえ不安があっても出会えると最後まで信じているさ。
「もうそれくらいでお願い。あなただってもう気づいてるはず。
ミモリさんから聞いたでしょう? 」
どうやらミライは確証があるのだろう。僅かな望みさえも消えてしまう真実が。
それを追求すればもう俺たちは諦めざるを得ない。
細い細い糸がブチっと切れてあっと言う間に崩れ去ってしまう。
希望も未来も愛もすべて遥か彼方へと。
「何のことだよ? へへへ…… 今はミモリは無視だ」
どうにかおかしな方向に行かないようにするもミライは止まらない。
「よくない! ミモリさんとリンネさんとの悲しいお話。
リンネさんとは結ばれなかった。もし二人が本気ならその手を使うでしょう?
海が思いつくんだもんミモリさんが思いつかないはずがない」
痛いところ。そんな風に俺を馬鹿にしてるから真実が分からなくなるんだよ。
ミモリは思いついて実行しなかったのではなくリンネに拒絶されただけ。
結局二人の関係はミモリが思い描いたものよりも薄く単に捨てられただけ。
それが恥ずかしくて言えないからごまかした。
ミモリは何だかんだ言ってミライを狙っていた。
悲しい話を伝えて同情してもらいそこから愛情に持って行こうとした。
汚い奴だ。だからリンネにも見捨てられた。
これは二人の悲しい物語などではなくただミモリの情けない物語だった。
そしてミライを巻き込んだ。よく知らないミライなら騙せると確信したんだ。
神話好きな鶴さんも。馬鹿だと思われた俺さえも騙したんだ。
それがミモリの正体。どうしようもない人間だった。
そう考えればすべての説明がつく。
でもミライは俺よりもミモリの話を信じるらしい。
「彼女も知っていたんだと思う。この見えない境界線が壁がないって」
「ははは…… ないならいいじゃないか。境界線がなくなれば飛び越えて行ける」
どんなに強大であろうと壁が壊れれば一気に。
「もう最後まで私に言わせるなんて海はどうかしてる!
何で現実を受け入れられないの? もういい。真実を話すからきちんと聞いて!
もうぼやかすのはやめた。今日で最後だから。お願い真剣に聞いて! 」
ついに二人に別れの時。刻々とその瞬間が近づいている。
ミライが嫌がろうが俺が否定しようがどうすることもできない。
それが現実。受け入れがたい現実。
「ミライがそうしたいならいいよ。俺も覚悟を決めた」
最後の最後までひた隠しにしていた俺たちの真実。
もしかしたらと言う考えがなかった訳ではない。
確かにミモリの話を聞いた時に悟った気がした。
でもそれは一つの可能性であって確実な真実などではなかった。
真実とは確かめるまで。見て確かめるまでのこと。
ほぼ間違いなくても真実は違う顔を持つ。
だから仮にミライが何と言おうと断定しようと確かめるまでは信じない。
続く