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本当の名前

もうダメなのか? 俺たちはここまでなのか?

今まで気づかないように気づかないようにどうにか自分をごまかしてきた。

その努力を無にしようとするミライ。現実と向き合って容赦がない。


俺とミライは一見近そうに感じるが実際には途轍もない距離がある。

近くに感じたのは単なる錯覚でしかなかった。

残念ながらもはや疑いようもない事実。

俺とミライとでは元々棲む世界が違った。比喩ではなく本当にまったく別の世界。

ただ洞窟を攻略すれば互いの世界に行けるのは間違いない。

だからまったく別の世界とは言え地球であることは疑いようのない事実。


俺たちは同じ月を見ているし沈みかけた太陽は変わらない。

地球のどこかにミライの棲む世界がある。

それだけが唯一の救い。

これをパラレルワールドと言うのだろうな。

決して交わらない世界。平行線だ。

恐らくそれが俺とミライの真実なのだろう。


だからってそんな事実は認めたくない。認めてはお終いだから。

真実は常に残酷で決して真正面から見つめてはならない。

でもそれは一般論。俺たちには関係ない。


「泣かないで海! これが真実で運命だから」

現実をそのまま受け入れるミライと現実をどうにか逃避しようとする俺。

見苦しいのは分かっている。でも嫌なんだ。事実が確定するのが嫌なんだ。

やめてくれ! そんな世界は嫌だ! お前のいない世界なんて嫌だ! 

心で叫ぶが当然のことミライに伝わってしまう。

何と言っても俺たちの心は繋がっているからな。


「海…… でもこれは受け入れないといけないことなの」

ミライは前提を受け入れて次に進もうとする。何てタフな精神の持ち主だろう。

受け入れたら終わりのはずなのにそれでも躊躇わない。

表情一つ変えない。俺がおかしいのか? ミライがおかしいのか?

俺を失えばもう誰も助けてやる奴はいないんだぞ?

自らそのチャンスを放棄するつもりか?

一体何の為に五年待ったんだ?

受け入れられない! 絶対に受け入れられない!

自分のすべてを懸けても受け入れてやるものか!


「だから俺は頭が悪いと言ってるだろう? 理解する力はもう残ってない」

「そう…… でももう時間がないの。日暮れまでもうすぐ。

そうなったら私の声はあなたに届かなくなる。明日からは声だけに。

会話はもうできない。意思の疎通はできなくなるの」

それでもいいかと迫るがいいはずがない。

確かに打つ手はないように思える。でも諦めてどうする? 

この僅かな間に閃くかもしれないじゃないか。そのチャンスを捨てるのか? 


「そんな…… 残酷だよ。後どれくらい? 」

「十分あるかないか。さあ今は我がままを言わずにきちんと話し合いましょう」

大人だな。ミライは凄く大人だ。

俺と会えないと理解しながら懸命に事実を伝えようとしてくれている。

でも俺はどうすればいい? 諦めろと言うのか?


五年前に出会った初恋の相手。ずっと思い続けた最愛の人。

それを失うのがどれだけ辛いか。辛過ぎるよ。耐えられない。

でも彼女はじっと見つめ考えを改めるように無言の圧力をかける。


彼女はもう覚悟を決めたようだ。

俺は彼女に促されて考えを変えざるを得ない。

これでいいのか? いくら考えても答えはでない。

「分かったよミライ。君の話を聞くよ」

ついにすべてを受け入れる覚悟を決めた。


これがミモリと鶴さんがずっと指摘してきたこと。

ミライと仮に会えなくても約束の場所へ向かうかと?

何度も口を酸っぱく言っていた。

俺はミライに会えるならいいと言った。

だがそれは違う。会えなくてもいいのかだった。

この意味が分かっていれば俺は会おうとしなかった…… そんなことないか。

異丹治による妨害などではなくてこのような悲惨な状況に陥るとは。


俺たちにはとんでもない試練が…… 乗り越えられるはずのない試練。

出会えることのできない真実。それはあまりにも残酷で残酷で。

もはや耐えられそうにない。


ついに二人は再会するも手を取り合えないし抱き合うことも叶わない。

でも姿と声を近くで見て聞くことは可能。会話だって問題ない。

ただそれ以外ができない。

抱きしめることも臭いを嗅ぐこともキスをすることも。

涙を拭くこともビンタされることも。


演舞の派手な衣装でほほ笑むミライ。

俺は無理にでも笑顔を作る。

「まずはありがとう。私を信じて迎えに来てくれてありがとう」

お礼を言われても空しいだけ。

俺はミライにお礼を言われる為にこんな山奥の集落まで来たんじゃない。

「ミライ…… きれいだよ。その衣装は本当にきれいで…… 」

「照れなくてもいいのに。きれいなのは私でしょう? 」

そうやって笑顔を見せる自信過剰気味のミライ。今すぐにでも抱きしめたい。

それができるなら…… こんな特殊な関係じゃなかったらな。


「そうだ。海にはまだ私の本当の名前を教えてなかったね」

恥ずかしそうに俯く。何てかわいいんだ。らしくない。

まだこう言うかわいいところが残ってたんだな。そのギャップが堪らない。

おっと…… 呑気に浸ってる時じゃないな。


「名前って…… ミライじゃないの? 」

自分でもミライと。確か他の者からもミライって呼ばれていたような気がする。

「あれはあだ名。ミライは本当の名前じゃないの」

どうでもいい。ミライの本名など今更どうでもいい。

俺にとってミライはミライ。だから本名を聞かされても。


「ミライ…… ミライカンデって言うの。これが私の本当の名前。

海には覚えておいて欲しいの」

まるで永遠の別れのような雰囲気。でも違う。俺たちはもう出会ったんだ。

誰が何と言おうと俺たちは結ばれる。それが運命。もし結ばれないと言うなら……


               続く

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