残酷な真実
ミライに誘われてついに約束の場所へと到着。
雲を超えるとミライが。五年間待ちに待ったミライの姿。
これで目標のほとんどを達成したことになる。
後は時間の許す限り抱き合えばいい。愛し合えばいいのだ。
「ミライ! 」
「海! 」
まずはお互いを呼び合って気持ちを高め再会の喜びを分かち合う。
ようやくこれで再会できたんだよな?
ただ俺たちの間にはどうしようもないほどの隔たりがある。
まだ解決すべき問題も残っている。
それが分かっているのでどうしても心からは喜べない。
「ミライ…… 」
「ねえそこで大人しくしててね。本当はこの話はしたくなかった」
再会の熱も冷めないうちに迷いがちに話し始めるミライ。
もう少し余韻に浸りたいがミライは真面目だから。
「ミモリさんから聞いた話。最初は何のことを言ってるのか分からなかった。
分からなかったというより分かりたくなかった。でも分かるしかなかった。
ミモリさんもそのことですごく悩んでいた。それこそ絶望していたと思う。
本人はそうは言ってないけれど。でも話してた時の声が物語っている。
今にも泣きそうな彼の声が忘れられない」
この土壇場でもまだもったいぶるミライ。俺たちの間にはもう何もないはず。
それなのに急に崖が立ちはだかった。
子供なら当然のこと興奮した大人でも突っ込んでもおかしくない。
俺は冷静だから話も聞くし禁止事項にだって従う。
頑固でもなくどちらかと言うと従うタイプ。
今のこの状況が苦でもないのが情けない。でもそれが俺だから。
「またミモリかよ。奴がどうしたんだ? もうどうでもいいじゃないかあんな奴?
いい加減焦らすのはやめてくれ! 俺も疲れてるんだ。それに本当に時間がない。
こんなことしてられない。分かるだろう? 少しは俺の気持ちも考えてくれ! 」
感情的になり怒りをぶつけてしまう。ミライが何もなくこんなこと言うはずない。
それが分かっているのにどうしても許せない。
もうミモリはいいだろう? たくさんだ。
ミモリさんあんたミライをどうするつもりだよ?
「彼はこう言った。シーとミートの違いは何だと?
暇つぶしの話かと思ったけれど無意味にこんなこと言う人じゃない」
ミライはついに核心に触れる。
ずっと目を背けて来たもの。だから何を言いたいのか大体分かっていた。
そうであって欲しくないと願っていた。だからあえて考えないようにしていた。
でもミライは強いから受け入れた。そして今俺に語る。
もう俺たちには未来はないと。絶望的な未来が待っていると。
「シー? ミート? ははは…… 英語なら得意だよ。顧問が英語教師だから。
確か中学の頃に習った気がする。参考書にも動詞のページを見ればすぐにでも。
当然辞書を引けば出て来るだろう。類語だからな。それが? 」
顧問のスケルトンが暇な時に永遠にレクチャーしてくれた。
意外にも面白んだけど授業じゃないんだからと適当に聞き流していた。
「難しくない。日本語で考えてもいい」
今から英語のレッスン? 冗談でしょう? それにそちらの世界では英語あるの?
国王に嫁ぐような昔っぽい世界観だぞ。
ミライはどうしてしまったんだろう? ミモリの話など真に受ける必要はない。
きっと気を引こうとホラ話をしたに違いない。
真剣に聞くようなものではない。ミモリとはそう言う存在。
確かに俺たちの救世主で頼りになる人だけど人間性までを保証された訳じゃない。
いい加減なミモリを当てにしてどうする?
「見ると…… 会う…… 」
「それがどうした? 大した違いはないだろう? 」
愛を語り合いたいのになぜ英語の話をしないといけないんだ。
俺たちは出会ったばかりの男女か? 今は愛を語り合う時じゃないのか?
つまらないことに気を取られてはいけない。ミモリは混乱させようとしてるだけ。
余計なことに気を取られていては本質を見誤る。
「見るとは即ちただ見ればいいの。会わずに見ることもできるよね」
うーん。いまいちミライの言ってることが理解できない。
「そして会うとは一人では無理。二人がいてようやく成立する行為」
何だか言ってることが変だ。それがどうしたんだ?
だから会いに来たんじゃないか。ミライに会いに……
涙が溢れる。ダメだもう自分を偽れない。
決して無視はできない。とんでもない現実。
どんなに否定してもミモリを無視しても現実は変わらない。
それが分かっているからこそ強く否定する。
もし否定し続けねば見ないようにしなければ真実が確定し現実として襲って来る。
だから最後まで否定する。抵抗できるだけ抵抗した。
もう無理だって分かっていてもそれでも。
なぜならそれは俺たちの関係を否定するものになるから。
現実を見ない。逃避することで逃げて来た。
今それを直視しようとする試みは立派だが危険と犠牲が伴う。
もう止められないのか? 夢と幻想の世界が崩壊する。
俺たちは! 俺たちは! 会う! それでも会うんだ!
制止を無視して駆けだそうとする。
でも体がそれを拒絶する。
なぜだ? もう目の前だと言うのになぜ? 自分でも少しだけ覚えがある。
五年前のあの夏俺たちは確かに姿を見せた。
だが正確には一度も会っていない。手に取っていない。
ミライを声と動きだけでしか捉えていなかった。
それは事実。紛れもない事実。
「ごめんなさい…… 海はもう気づいてるんでしょう? 」
「ははは…… 分からないよ。俺はバカだからさ」
「またそんなことを言って。ミモリさんは決してそんなことは言わない」
ミライはミモリを持ち出してまで宥めようとする。俺だって抑えたいと思う。
でも認めたくない! 認めたくないんだ!
そんな事実は認めたくない。真実は常に残酷で決して安易に覗いてはいけない。
でもそれは一般論だろう? 俺たちには関係ない話のはず。
続く