永遠の孤独
ミライはもう真実を隠そうとしない。鶴さんにミモリがひた隠しにしていた真実。
だがその真実がどうだと言うんだ?
耐えられない真実とは? もうイマジナリーフレンドの可能性は消え去った。
恐れる必要はまったくない。
「あなたの為なの。今すぐここから立ち去って! 」
「嫌だ! ミライに会うんだ! 立ち去って堪るか! 」
もう誰を信じていいのか分からない。
鶴さんもミモリも当てにならずに不安にさせる。その上ミライまで。
ミライの拒絶は相当なもの。
だったらもっと前に来るなと言ってくれたらいいじゃないか。
来るなって…… ずっと迎えに来てと言っていたくせに。
あまりにも自分勝手でいい加減。俺を何だと思ってるんだ?
どんどん気持ちが醒めて行く。
きちんとミライと会って本当の気持ちを確かめたい。
それは確かにミライはとても大事な人。でもだからってそれはない。
「なあ…… 俺が嫌いになったのか? 」
あまり問いたくない。うんと言われたら最後だから。
現実逃避としてのミライなんかじゃない。俺にはミライだけなんだ。
ミライだって本気で俺を求めていたはずだ。違うとは言わせない。
「ううん。でもこのままだと確実にあなたが不幸になってしまう。私だって。
それが分ってるから…… お願い。言うことを聞いて! 」
「嫌だ! 断る! 絶対にそんなの嫌だ! 」
断り続ける。そうすればあちらが折れるはず。もはや消耗戦。我慢比べ。
俺はミライに会いに来たのであってそれ以外は受け入れるものか。
抵抗してやる。会うまで粘り続けるんだ。
不幸になろうが後悔しようがこの際どうだっていい。
ミライに会えればそれでいい。これ以上を望まない。
だから会わせて欲しいし会いたい。
「馬鹿! 永遠の孤独に苛まれるのよ? それでもいいの? 」
ミライも引かない。永遠の孤独とは?
とても耐えられそうにないがそれでもきっと何とかなるさ。
「それは…… でも…… 二人で何とか」
「もう海は強情なんだから。だったらミモリさんの話をするね」
そう言うと深呼吸したのか聞こえなくなる。急に声がせずに不安に。
「ミライ? ミライ? どうしたんだ? 」
「もううるさい! 静かにして! 」
怒りのミライ。どうしてしまったんだろう? あれほど求め合ったのに。
会う寸前で態度を翻す。酷いじゃないか俺が何をしたって言うんだ?
まさかただの気まぐれ? それとも幸せになるのが怖くなったのか?
ぼんやりした不安が心を満たしたとでも?
今まで散々苦労してようやくここまで来た。
そうなるのも無理ないか。でも何か変だ。
ミライは強い決意で臨んだはずだ。俺に会えなければ国王の元に嫁ぐと。
迎えに来ると賭けていたはずだ。その賭けに勝ち自由を勝ち取った。
それを手放そうとする。それがどれだけ愚かしいことか分かってない。
この際ミモリなどどうでもいい。
悪い人ではなくいい人。俺たちの救世主に違いない。
でもだからってミライの口から出るのは許せない。
「私が助けを求めた時に反応をしたのはミモリさんだった。
でも最初は自分を隠していた。いつの間にか私の話相手になってくれた。
それからあなたに会ったの。それが五年前の夏の日だった。
きっと迎えに来ると約束して別れた。覚えてる? 忘れちゃった?
それ以来あなたは私の前に現れはしなかった。
その間必ず迎えに来ると励ましてくれたのがミモリさん。
ずっと一人寂しくて辛かった私を支えてくれた。
ミモリさんは恩人。彼がいなければあなたを待ち続けられなかった。
きっと二年もしないで考えを改めて国王様の元へ嫁いだでしょう」
「覚えてるさ。だからこうして迎えに来たんだろう?
要するにミモリに惚れたと。乗り換えたと。だから俺は不要になった。
そう言いたいんだろう? もういいよ! 好きにしてくれ! 」
あーあ。五年間愛し続けた女が他の男に行くなんてよ。信じられない。
一気に醒めそう。ミモリもミモリだよな。散々格好つけて手を出すんだからよ。
もう誰も信じられない。俺は何の為にここまで来たんだ?
まるっきりバカみたいじゃないか。
ミライはただ他の男との関係を自慢したいだけ。一体何を考えてるんだ?
最低だよ。俺がいながらミモリに走るなんてあり得ない。信じていたのに。
「違う! そうじゃない! そうじゃ…… 」
「信じろと言われてもどう信じればいい? 違いはしないじゃないか! 」
ついに二人には決定的な亀裂が入る。
「もういい! 海なんか嫌い! 」
聞きたくなかった一言。これはもうどうしようもない。取り戻せない。
でもそれならなぜここまで俺を呼ぶ? 期限が迫って一応?
そこまで律儀かな? どうもおかしい。
「ごめんミライ。俺が悪いんだ。俺がお前を忘れていたのが……
でもミモリと仲良くするのはどうしても我慢できないんだ」
急いで謝る。とりあえずこれでミライを失わずに済む。
「違うの…… ミモリさんとは一度も会ってない…… 話しただけ。
だって元から会えないから。不可能だから。
そのことに気がついたのは随分経って。
海にも伝えなければと思ってた。でもそれは私たちの永遠の別れを意味する」
ミライ…… どうして俺を不安にするようなことを言うんだ?
俺を本気で嫌いになったんじゃないだろう? お願いだミライ! 応えてくれ!
不安。ミライと会うのが不安だ。どうしようもなく嫌な気分にさせられる。
ここまで来て最低最悪な状況。
五年前の僅かな時間だったからな。見誤ったか?
もう夕暮れ。俺たちに残された時間は残り僅か。
もう嫌でも不安でも次のステップに進まなくてはならない。
「もういいよ! 分かった。すべてを受け入れるよ。
だから姿を見せてくれないか? 導いてくれないか?
どうであろうとすべてを受け入れる覚悟。もう迷わない! だから頼むよ…… 」
懇願する。きっと大丈夫。俺たちはきっとどんな困難だろうと立ち向かえるさ。
「分かった。そこまで言うなら耳を澄まして。今あなたを呼ぶ」
言われた通り耳を澄ます。どこからミライの声が聞こえる。
ミライの声を聞き逃しはしない。
「こっち。こっちに来て海! 私はここにいる! 私はここよ! 」
ついに呼ばれた。導かれた。どれだけの犠牲を払いここまでたどり着いたのか?
もう二人の気持ちは離れたように思えたがそれでも募る思い。
ああ感動だ。涙が自然と溢れる。これは悲しみの涙じゃない。喜びの涙だ。
「来て! ここまで早く! 」
必死なミライ。彼女もやっぱり俺を求めていた。
俺だってそう。すべてを犠牲にしてここまでやって来たんだ。
愛も夢も希望も友さえも捨てて約束の場所へ。
アイミに希ちゃんに陸。
きびだんごを餌に犬とキジとサルを連れてここまでやって来た。
そしてお供を失い一人孤独に耐えながらここまで。
一歩ずつ一歩ずつ踏みしめるように嚙みしめるように。
そしてついに目的地。最終目的地へとたどり着いた。
長かったようで短いそんな日々だった。
でももうここまできた。再会を邪魔する者はもういない。
白い雲の向こうにはミライが…… 思い人が待っている。
恥ずかしいのか近づこうとはしない。
ならばこっちから会いに行こう。
続く