ミライの本音
頑ななミライ。俺が五年間追い求めていた大切な大切なミライ。
もうこれ以上焦らされたくもないし失いたくもない。
「どうしてそんな酷いことを言うんだ? 会いたくないのか? 」
思い切って強く言う。そうしないと伝わらない。
もう夕暮れも近い。ミモリたちの話が本当なら俺たちはもう会えない。
声は聞こえても会えない。どう頑張ったって会えない。
「聞いてるのかミライ! 」
「会いたい…… ううん。会ってはいけない。そうじゃない。会えない。
知ってるから。会えないって知ってるから…… 」
弱気だ。もうただ語り掛ければいいだけなのに。それで十分なのになぜか頑なだ。
もう俺の決意は揺るぎない。対してなぜかミライの方が拒絶する。
そんな馬鹿なことがある? どう言うつもりなんだ?
信じていたのにまったく信じられなくなっている。
俺を裏切るつもりか? どうもはっきりしない態度のミライが気に喰わない。
「俺の心に話しかけたのはそっちだろう?
このままただの妄想としてたところに君が心に話しかけて来た。
それは紛れもない事実。そのまま俺を帰らせてもよかった。それをさせなかった。
だからもうそんな迷わすようなことを言わないでくれよ! お願いだよ! 」
泣き落としはプライドが許さないが会えるならプライドなど捨てて構わない。
「泣いてるの? ごめんなさい…… 」
「俺が? 泣いてるのはそっちじゃないか。辛いんだろう? 」
「ううん。私は大丈夫」
「嘘だ! 」
「そっちこそ! 」
お互いに引かない。強い想いがあるからこそ。
「五年待った。凄く長かった。それを今会わずに戻るなどできない」
もうミライの考えてることが分からない。今更怖気づいたのか?
それはなぜ? 迎えに来てと言ったのはミライの方じゃないか。
俺だって何となくだけど気づいてるんだ。
でもそれでもミライが求めるならとここまで来た。
「夢にまで現れたくせに今更何を言う? 何を言うってんだ? 」
ここまで火がついたのは五年前だけではない。
夢の中で何度も何度。確かにそれは俺の妄想が幻覚かもしれない。
でも少なくてもこの集落での夢はミライが見せたもの。
「ごめんなさい。自分でもよく分からないの。
ただ会いたい。あなたに会いたい。でも会えない…… 」
そう言ってしくしくと泣くかわいらしいミライ。
これはどう言うことだ? 会いたくないんじゃなくて会えない?
こうしてる間も日は陰っていく。ここで不毛な言い合いをしてどうする?
もう現実を受け止めよう。そして受け入れよう。
今会わずに時間切れだけは避けなければならない。
真実だろうと勘違いだろうとここで逃げては今までのことが無駄になる。
「なあミライ。もう俺のこと嫌いか? 嫌になったか? 正直に答えてくれ! 」
ミライの本音が知りたい。
「そんなはずない! 私は海が好き…… 」
大人しくなった。恥ずかしがってるのか? ははは…… ミライはかわいいな。
そんなかわいい顔を見せてもらえたらな。
「かわいい声を出して情けないぞ」
からかってみる。
「かわいいって言わないで! 絶対に馬鹿にしてるでしょう? 」
照れて本来のミライにちょっとだけ戻る。
「そんなことないよ。昔のままで何一つ変わっていないミライを褒めてるんだ」
「成長してない? 大人になってない? 嘘でしょう?
もう私は立派な大人の女性。もう誰にも頼らず生きて行く! 」
決意は固いらしい。まあそんなことはどうだっていい。
頑ななミライをほぐして元のミライに戻す。
結局ミライは五年前と本質的は変わらない。子供の頃のミライだ。
自分のどうしようもない運命に逆らえずにただ俺に縋った。
俺が戻って来るのを待ち続けたんだ。
そして五年が経った今再びどうにかしてもらおうとしている。
「俺が救ってやる! お前の運命を変えてやる! その為にここまでやって来た。
さあもういいだろう? 何があっても構わない。
俺たちは五年待ったんだ。待ち続けたんだ。
もうこれ以上余計なことを考えるのはよそう。
もう俺にはお前しかいないんだよミライ! ミライ! ミライ! ミライ! 」
拒み続けるミライには勢いで迫るしかない。そうしないとまた諦めようとする。
悪い癖だ。俺を求めたくせに今更諦めてどうする?
たとえ運命が俺たちを分けたとしても最後の最後まで抵抗すべきだろう。
それが俺でありミライだと思う。もう本当に迷う必要はない。
「迷うなミライ! 俺の前に姿を現してくれ。どうかこのとおり! 」
もうこれ以上説得は無理。これが限界だ。後はミライの返事次第。
「すべてを犠牲にしても? 私に会えなくてもそれでも会いたい? 」
矛盾したことを言っているミライ。まるで鶴さんみたいだ。
それでも会いたいか? どう答えるのが正解なんだ?
「うん! すべてを犠牲にしても! 会えなくてもいいから会いたい。
姿を見せて欲しい。お願いだよ。俺を導いてくれ。招待してくれ! 」
もう会えるならどんな理不尽だろうと矛盾していても構わない。
俺にはミライしかいない。
今ここで再び誓う。たとえ迷惑だとしても。
ただもう心での会話は限界。そろそろ姿を見せてくれないかな。
「俺には仲間も恋人もストーカーもいた。
それはサマー部って言う限られた中で俺たちは関係を築いて来た。
楽しかったよ実際。ここ数か月は特に楽しかった。思い出も一杯。
ここにたどり着くまでは実際いろいろあったしね。充実した毎日だった。
それらを含めてすべてに満足してるんだと思う」
一旦切る。
「でもねミライ。ここで会わなかったらただのひと夏の思い出になってしまう。
ひと夏の思い出は響きはいいけどただの諦めを美化してるに過ぎない。
正直何度も諦めたよ。ミライに会えないんじゃないかとかもう充分。
これでやり遂げたとかね。ある意味弱気だったんだろうな。
でも集落に着き君がもう目の前となれば諦めるなどあり得ない。
大人しく帰ってられない。だって手を伸ばせば掴めるかもしれないんだよ。
イマジナリーフレンドだと思った時はさすがに絶望したな」
「うん。うん。分かってる」
「だから言う訳じゃない。ここにたどり着いたから言うんじゃない。
俺の覚悟を誓いを聞いて欲しい! 」
「海…… 」
「俺は愛も夢も希望も友さえも捨ててただ君の為だけに生きたい!
それが俺の気持ち。ミライへの想いだ! 」
「海…… 嬉しい。でもそれでも応えられない。私はどうなってもいい。
でもきっと海は耐えられない。真実を知ればあなたはきっと苦しむ。
そしていつの時代にもあった悲劇を再び繰り返すことになる。
そうなる前にあなたはここから立ち去るべきなの! 」
ミライはもう真実を隠そうとしない。鶴さんもミモリもひた隠しにしていた真実。
だがその真実がどうだろうと言うんだ?
耐えられない真実とは? もうイマジナリーフレンドの可能性もなくなった。
俺は…… 俺たちはただ未来に突き進むしかない。
続く