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夢の中の少女

スイムも終盤戦。

波は高くなく比較的穏やかではあるものの手も足も疲れて来た。

無理せずにゆっくりしたいが大会の規定で泳いでないとみなされれば即失格に。

厳しいかもしれないがこればかりは安全面を考慮してのこと。

急に体調が悪化することも当然ある。障害物に当たったとも。溺れることも。

さすがにサメが来ることはないだろうが。

年々海水温が上がってるので決してないとは言えない。


怖いのは脱水症状と熱中症。

あり得ないように思いがちだが夏本番で外は三十度を超えてる。

気をつけるに越したことはない。

ただランやバイクと違いペットボトルの水を飲むことができない。

まさか海水を飲む訳にも行かないしな。

まずい上にしょっぱく不衛生だ。

もうガキじゃないからそんな恐ろしいことはできない。

飲んだところで渇きが解消されるものでもないしな。

逆に海水を飲み過ぎれば幻覚が見えるとも言われている。

幻聴もあるかもしれない。


おかしな症状が現れ出したのはもう間もなくゴールと言うところ。

余裕ではないがあっけなく終わりそうになりつい隙が生まれる。


「ねえ泳げるの? 」

いきなり蘇る過去の記憶。

何だこれ? 俺はこんな時に何を考えてるんだろう?

疲れて来たからかな? それとも飽きたか?

もう残り僅か。完走が目標なら特に急ぐ必要はない。

ただ最後くらい格好つけたいかなと変な欲が出る。


「海の中は楽しいんだろうな? 」

どこからともなく聞こえて来た少女の声。まだ聞こえる。

これは夢か幻か? 何てね。またいつものあれだ。

彼女はいつも遠くを見てるようで寂しそう。

自由が何かよく分からずに憧れていた。


「自由っていいよね」

いつの間にか少女の姿がはっきりと。

「それは俺だって好きに過ごしたいよ。遊び足りないぜ。

もっと楽しく自由に。この大空を飛んでみたい」

何だかよく分からないことをほざいてしまう痛いガキ。

それが俺の正体。


小学生の頃の俺とやっぱり小学生ぐらいの女の子。

どうやら過去の記憶のよう そうすると今認識してるのは誰になるんだ?

俺を見てるはずなのに遠くを見ている感じがしてとても気持ち悪い。

どうして俺を真正面からきちんと見てくれない?

俺はここにいる。俺はここだ! ここにいるんだ!


これは夢なんかじゃない。奇跡なんかでもない。

俺はお前に会いたくて今日もここに来たんじゃないか。

どうして行こうとする? 行ってはいけない。そんなところに戻ってはいけない。

行ってはすべてが終わってしまう。俺がまだ幼いからってバカにするな。

俺はすべて知ってるんだぞ。どうしてこうなったのか。

その涙は? なぜお前が泣いてるのか…… 悲しいから泣いてるんだろう?

もう会えないから泣いてるんだろう? どうしてそんなに悲しい顔をするんだ。


もう会えない? ははは…… そんなこと言うなよ。

俺は絶対にお前を覚えてる。忘れずに迎えに行くさ。それくらい当然じゃないか。

だからお前だって俺を忘れるな!

今年が無理なら来年。お前が会いたいって言うならいつでも。俺だって会いたい。

会いたくない訳がないじゃないか! どうしてそんな風に悪く捉える?

お前のことが…… 嫌いになるじゃないか。

そういくら訴えても少女は笑わない。ただ静かに泣くだけ。


「来年が無理なら再来年。それが無理なら三年後だって絶対に会いに行くよ」

涙を拭い晴れ渡った空のような少女の笑顔。

日差しのせいか眩しくてよく見えない。

もう目の前にいると言うのにまるですごく遠くに感じる。

それほど彼女ば透明な存在。透き通った肌に熱を帯びたかのような頬。

かわいいと思う。でも笑顔の彼女は稀で。今にも涙が溢れるかのよう。

こんなにも泣き虫な女の子を見たことがない。

寂しくて苦しくて堪らないと言った表情。どうしてこんなにも泣くのだろう?

俺だって別れるのは寂しいし辛いよ。でも仕方ないじゃないか。

俺は都会からこんなクソ田舎に遊びに来ているんだから。

それくらい分かってるくせに。我慢できないんだろうな。


俺たちって出会ったって言えるのかな?

いつも来てはいけない。それ以上は近づいてはダメだって。

だから大声上げなければならない。泣けば泣き声は響くが笑い声は搔き消される。


一緒に踊ろうと言っても首を振るのみ。

どうしてこんなにも嫌がるのだろう。

「だって踊れないから…… 」

どうやら彼女は踊れなくて悩んでいたらしい。

「でも何だか一緒に踊りたいんだ」

別にこれと言って楽しい踊りでもないからどうでもいい。

でもそれほど難しい訳でもない。ならば一緒に踊らない手はない。

どうしても嫌だと首を振る。その振り方はとてもかわいくてかわいくて。

ついからかいたくなるけど。真似をしようものなら苛立ちを見せる。

足をドンドンと踏み鳴らす。それは恐怖でしかない。


「ねえこの踊りは何て言うの? 」

「ごめんんさい。私にもよく分からない」

「分からないで踊ってるの? 」

「これは伝統の踊りだから。いつの間にかできるようになっていた」

「そうか。あれ? そこに何か書いてあるよ」

「それはね…… 

何か言おうとするがそこで止まってしまう。


「教えてよ」

「知ってどうするの? 」

「それは…… 」

あの頃は俺の方が年上だと思っていた。

でもたぶん同い年か彼女が一個上だったんだろうな。

とは言え言葉で負けることはない。


                 続く

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