イマジナリーフレンド
五年前のミライとの出会いがどうにも現実感がない。
どうしてなのか? 何かが…… どこかが間違っている気がする。
それがどこで俺なのかミモリなのかミライなのか?
これだから五年前の真実に中々たどり着けずに苦悩することになる。
もう五年も前だから当然細かいことは覚えていない。
でも重要なところで俺もミモリも間違っている。そんな気がする。
こんな風に考えるのは後ろ向きだろうか?
でも真実がどこにあるのか知りたい。いや知らなければダメだ。
もしこのままミライに会っても中途半端な気持ちになり素直に喜べない。
現在。
そう。思い出したぞ。
あの日秘密基地を作ろうと誘ったのはやっぱりミモリだった。
でもなぜ彼がトケエモンなのか? まったく理解できない。つまらない冗談?
集落の者が都会から来た者をふざけてか蔑んでか都会者と呼んでいたのが変化。
婆ちゃんが呼んだのを真似したんだろうな。誰に聞いても覚えてないんだろう。
ミモリも散々言われたんだから指摘してもいいのに。
すぐに思い出せたかもしれないのに。嫌だったんだろうなとは思うけど。
まあトケエモンの話で思い出せていたかは微妙だが。
さあ急ごう。もうすぐ約束の場所。もうそんなに遠くない。
一人になり永遠の孤独を感じたこともあった。
それをミモリが救ってくれた。五年前と同様に。
やっぱりミモリは今も昔も救世主だ。それは俺にとってだけではない。
ミライにとっても心のよりどころだったんだろうな。
でもそれならなぜミモリは俺たちをあれほど頑なに引き離そうとしたんだ?
あえて近づかせようとしなかった。その意図が何なのかいまいち掴めない。
だって俺はバカだし。国語だって地理だってできない情けない人間さ。
こんな俺ではミライを幸せにはできない。そんな風に思うことも。
ミモリの気持ちも鶴さんの考えも真正面からは捉えられなかった。
ただ二人とも考え過ぎてる面がある。鶴さんは覚悟がどうとか。
ただ惑わすためのものではないだろうか? 違うにせよどこか不親切だ。
もっとはっきり教えてくれてもよかったのに。
ようやく見えて来た。あの丘が俺たちの出会いの場所。
でも声が聞こえない。俺を呼ぶ者がいない。
もう時間切れなのか? ミライ? どこだ? ミライどこにいる?
どうしたミライ? 俺はここにいるぞ! 名前を呼んでくれミライ!
だが全く反応がない。ここではないのか? 違うのか?
でも地図もあるし緯度も経度も正しいはず。ずれても僅かの差。
ここで間違いない。異能の爺さんが嘘を教えてない限り。
それはまずあり得ない。彼だって高名な地図学者で専門家。
プライドに賭けても嘘を教えるはずない。間違ってるはずもない。
だからここで合ってるんだ。ここにミライが見えるはずなんだ。
きっと声だって聞こえるはず。違うのかミライ? ここじゃないのかミライ?
ミライを空に思い描くが肝心の彼女はまったくどこにも。
ミライは夢だったのか? 幻覚だったのか?
俺の作り上げた虚像なのか? でもそれはおかしい。
ミモリが見てる。ミモリが話してるじゃないか。その事実をどう捉えればいい?
俺の代わりにミモリが彼女と。だからきっといる。いるに決まっているんだ!
疑う余地などあるはずがない! 疑う余地など……
「なあ俺たちだけだとつまらないから仲間を増やそうぜ」
ふと五年前のトケエモンの声が蘇る。
「ええ難しそう。どうやるの? 」
「ははは…… 簡単だって。こうやるんだよ」
さすがはトケエモン。いろいろ面白いことを知ってる。
「うわ凄い! 天才だよ! トケエモンは天才だよ! 」
初めてのことでつい大げさに褒めてしまう。
「そうかへへへ…… もこれは俺たちだけの秘密だからな」
褒められて調子にのるトケエモン。
「分かった」
トケエモンはいい人だ。でも集落の者からは厄介者扱いされてると。
だから常に孤独なんだそう。
ただ俺には厄介者とか孤独とかがよく分かってない。
でも今の俺と似てるんだろうな。
どう言う訳か父さんも母さんも遊びに行かずに部屋で話し合ってる。
祭りのことなのかお前には早いとか何とか。だから一人で遊びに出掛けた。
当然一人では危ないので林蔵さんがそれでも無理なら集落の誰かが。
寂しそうにしている俺を見かねてトケエモンが遊びにつき合ってくれた。
だからいい人だ。とてもいい人だ。でも皆はトケエモンを毛嫌いしているそう。
「こんなことお前に言うことじゃないけど…… 」
でもまさか本当かな? 爺ちゃんが婆ちゃんが? 嘘だよきっと。
そのトケエモンこそがその証拠だそう。
俺はまだ恐れられているし受け入れてもくれないと。
だからずっと一人だそう。何だか可哀想。
今回の件もトケエモンに任せればいいと押し付けたような話。
ふんふんと分かったふりして応えるが適当だ。
「孤独で堪らない時にこんな風に想像上のお友だちを作って話をする」
今の俺にはいまいちピンとこないがやってみることにした。
そうして秘密基地を三人で作りながら楽しむんだそう。
これはまだ難しいかもなとトケエモンは言う。
その三人目こそが理想の女の子。
確かにこの子はかわいくてそれでいて頭がいい。
怒りもしなければ泣きもしない。それが彼女だ。
イマジナリーフレンドって言ってた。
トケエモンは寂しくなるとすぐに作ってしまうそう。
作り方を教えてもらおうと思ったけど難しいらしい。
もっと経験を積まないと作れない。そんな甘くないぞと厳しい。
でもいいんだ。俺は今嫌な思いをしてるが帰れば友だちだっている。
孤独で寂しいのは今だけ。今さえどうにかすればいい。
ただ俺自身があまり頭よくないからな。それだと馬鹿にされる毎日。
こうして俺はトケエモンと楽しく過ごした。
そのトケエモンが今思い返せばやっぱりミモリだったんだろうな。
本人がそうだと言わない限り断定できないが。
何だか小さな子供をおかしな遊びに誘うちょっと変わった兄ちゃん。
都会者と集落の連中から後ろ指をさされ毎日寂しい思いをして来たんだろう。
そんなトケエモンが見つけた癒し。孤独と寂しさを埋めるもの。
それがイマジナリーフレンド。
それこそがミライなのだろう。だからミモリはミライを知っていた。
誰よりもよく知っていて当然俺なんかより詳しい。
ミモリと俺との出会いがあってようやく生まれたのがミライと言う存在。
今一つの疑問が。
もしかしたらミライは…… ミライは……
続く