トケエモン
ミライへと繋がる最後のキーマンの異能。
彼の協力によってついに約束の場所が判明。
地図とメモを頼りに走り出す。
別れてついに約束の場所へ。
大きな森を抜けて…… そう言えばこの辺りで秘密基地を作った記憶がある。
うんうん。確かにあの時の情けなそうな兄ちゃんがミモリだ。
あの時は近所のお兄さんって感じで呼び名はトケエモンだった。
婆ちゃんや村の者がそう呼ぶから俺もトケエモンと。
格好いい黒の時計をしていたからてっきり……
ようやく思い出したよミモリさん。俺たち本当に五年前に会っていたんだね。
そしてあの短い間だったけど仲良くしてもらった。うーん懐かしいな。
はしゃぐ俺の後ろを面倒臭そうに歩いていたっけ。
五年前。
「おい海! そんなにはしゃぐなよ。俺遅くまで起きてて寝不足なんだから。
聞いてるのか海? 海ってば! 急ぐなって危ないぞ! ホラ転んだ! 」
腕を掴んで起こしてもらう。
「ありがとうトケエモン。つい興奮して…… さあ秘密基地を作っちゃおうぜ」
当時は口が悪くてトケエモンだけでなく集落の者にも生意気な口を利いていた。
皆それでもよくしてくれた。
昨日から家族三人で里帰り。
父さんが一緒に秘密基地作りしてくれるって言ったのに全然だからな。
林蔵さんにも手伝ってもらってるけど暗いから続きは明日にしようと。
その林蔵さんも今日になって無理だって言うんだから困るよな。
何でもピョンピョンが熱を出したそう。
婆ちゃんでもいいって言ったんだけど皆忙しいそう。祭りが近いからな。
誰も相手してくれない。いいんだ別に俺なんか…… 一人で遊ぶから。
いじけてるとトケエモンが手を引っ張ってくれた。
秘密基地作りに没頭すること一時間。
「おいまだ完成じゃないの? もうつき合いきれないよ」
我がままだな。つき合うなら最後まで頼むよトケエモン。
どうもトケエモンがそわそわしてるんだよな。何度もトイレに行くし。
どうしたのか聞いても何でもないと言うだけ。寝不足のせいらしいけど本当かよ?
「もう少しだから。もう手伝うことはないからそこにいていい」
可哀想だから休憩を与える。
「そうか。だったら大人しくしてろよ。ちょっと出てくるからな」
そう言うと行ってしまった。
うーん。疲れたな。喉も乾いた。
「トケエモン! 」
呼ぶが反応がない。
どうしたんだろう? 急に寂しくなる。
うーん。やっぱり探すか。
ここで待ってろと言われたがそんな大人しく言うことを聞くはずないだろう?
疲れたけど水とお菓子ですぐ回復するさ。
おーい。おーい。
トケエモンの後姿が見えた。これで一安心。
あれ? でもなぜか誘われるようにフラフラ歩いて行く。
明らかにおかしい。どうしたんだろう? 俺に気づいてないや。
まあいいか。後を追いかけよう。迷われても迷っても困るので。
ねえトケエモン……
ダメだ。まったく気づかない。一体どこに行こうとしてるの?
トケエモンの様子がおかしい。誰かを呼んでいる。
俺ではない誰か。今は俺のトケエモンのはずなのにどうして?
誰もいないし声だって聞こえない。おかしい…… おかしいな。
まるで何者かに操られてるみたいだ。
相手は宇宙人? それとも幽霊?
想像しただけでちびりそう。へへへ…… もう考えるのはよそう。
まずいぞ。俺の一番弟子のトケエモンを奪われて堪るか。
大体爺ちゃん家にどう戻ればいいか分からないよ。
一人じゃ無理。トケエモンがいなきゃ帰れないよ。俺方向音痴なんだから。
父さん曰く筋金入りの方向音痴らしい。常に目標と反対に行く。
だからって思ったのと反対に行ってもたどり着かない。
考えただけで心細くて仕方がない。
もう涙が溢れそうだ。ここはどこ? 地図は? お化は出ないよね?
それが今一番の関心ごと。トケエモンを見失えない。
でも後を付けるのって難しい。後ろを振り返られたらお終いだから。
何をやってると叱られるに決まってる。だからなるべく距離を取る。
と言うかトケエモンが急ぎ足だから走らないと追いつかない。
すぐに見失ってしまう。
ハアハア
ハアハア
もう苦しくてダメ。完全に見失った。ここはどこなんだ?
当てもなく彷徨っていると突然声が聞こえて来た。
よかった。人の声だ。しかも呼びかけてる。
きっと俺を探しに来たんだ。そうに違いない。母さんかな? 婆ちゃん?
でももっと別の……
声のする方に走っていく。このまま迷子になって夜を過ごしたくない。
いくら俺が男らしくてもまだ子供。一人で野宿は早過ぎる。
ここにはどんな恐ろしいものが出るか分かったものじゃないからな。
冗談抜きで急いで助けを求めなくちゃ。
俺が帰って来なければ集落中で探し回るだろう。
それまで待つ手もあるがやはり暗くなる前に帰るのが一番。
それにはトケエモンと合流するしかない。
誰か? お願い! トケエモン!
近いぞ。でもまだ声は出さない。父さんに慎重になれと言われたからな。
「お願い誰か! 私はここにいる! 誰でもいいの返事して! 」
「おーい! おーい! 」
姿がようやく見えた。俺と同い年ぐらいの女の子。必死で呼んでいる。
だから応えてあげる。それが男ってものだろう。
これ父さんの受け売りだ。格好つけ過ぎたかな?
「あなたは誰? あの方は? 」
困った表情を浮かべる女の子。俺ではダメなのか? あの方って誰だ?
「俺は海人。皆からは海って呼ばれてるんだ。君は誰なの? 」
同い年ぐらいに見える。
「私は…… 教えられない。知らない人に言うなって」
「へえ。それって大人の話だろう? もう俺たち友だちじゃないか」
「もう海ったら。分かった。私はミライ…… ミライって言うの。
よろしくね海」
こうして俺たちは五年前の夏に出会った。
いや正確には姿を見せ合ったに過ぎないが。
続く