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異能 

その頃。

「どうした? 騒々しい奴め」

ここはどこだ? この人は一体誰なんだ?

目の前には白髪の老紳士が。集落の者だとしても俺には見覚えがないぞ。

五年前だってこんな爺さん知らない。会ったことがない。

俺はいつの間にかおかしな世界に迷い込んだのだろうか?


「黙ってしまって情けないのう。迷子か? 」

穏やかで人のいいお爺さん。ただどことなく嫌な感じがする。

見た目と言うか面影に拒否感がある。なぜだろう?

今更迷っていても仕方ないか。

とりあえず自己紹介。


「おお海君か。それで君はここに何しに来たんだい? 」

疲れただろうと冷えた緑茶に緑の鮮やかな団子を一本。

遠慮なく頂く。

「美味いだろう? ここの集落の名物なんだ。ははは…… 」

落ち着いてリラックスしたところで話を聞く。


「そうだったな。まだ名を名乗ってなかったな。儂は異能と申すものだ」

「異能? まさかお爺さんはこの集落の地図を作ったあの異能さん? 」

ミモリから貰った地図を差し出す。

地図には異能版と記されている。

「そうそう。若い時に足を使ってな。苦労したぞ。何と言っても山奥だからな」

笑うものだから俺もつられて愛想笑い。


時刻は三時前。もう本当に時間がない。のんびり団子を食ってる時じゃない。

急がなければミライが待っているんだ。

ミモリの話は一旦忘れてすべてを懸ける。

「どうした? そわそわして。まさか昼飯を食ってないのか? 」

「はい。でも今はそれどころではないんです」

一生懸命現状を訴える。


「うん。どうしたと? こんなのどかな集落で何を焦っておる? ほほほ…… 」

ダメだ。茶を飲んで寛げば時間がなくなる。

「一つ確認してもいいですか? 」

「うむ。まるで大人のような物言い。まさかもう中学生か? 」

「そんな訳あるか! 高校生だ! ごめんなさい…… 」

ふざけたことを抜かすからつい…… せっかくのお招きに非礼で応えてしまう。

でも俺はまだ高校生だからさ。しょうがないよね?


「済まん済まん。大変失礼した。それで高校生の海君は何が聞きたい? 」

「あなたはまさか異丹治さんの仲間ではありませんよね? 」

「ああ異丹治の知り合いか? そうかそうか。ならば丁重に扱わねばな」

後で連絡しておくと言うので待ったを掛ける。

「そうかそうか。そんなことがあったのか。あいつめ欲に目が眩みおって。

災難だったようだな。儂が代わって謝るよ。悪かったな」

そう言うと頭を下げる。


「あの親子は異衛門もそうだがどうしようもなくてな。嫌になって縁を切った。

だが今でも連絡を取り合ってはいる。

この集落ではやはり一人では生きて行けんからな。

まあ儂の場合地図作りにと言うか冒険にすべてを捧げた一生。

今はのんびり余生を過ごしてるところだ。

どうだろう儂の後を継ぎ新たな冒険と地図作りに取り組んでみんか? 」

勧誘されてしまう。だから今はそんなのんびりしてる暇は一秒もないんだって。

と言いながらゆっくりと団子を頂いている矛盾。


「あの…… 」

「面白いぞ。何と言っても新世界だからな。発見しようものなら一躍有名人だ。

歴史に名を遺す快挙であろう。それくらいの偉業だぞ。

さあ一緒にチュウシンコウへ行こう! 」

「チュウシンコウですか? ええ! チュウシンコウ? 」

「ほほほ…… いきなりでは面食らうのも無理はない。

昔この集落はチュウシンコウと繋がっていた。

文献によれば百年以上前とされている。

幻の都市チュウシンコウは今でもどこかで繋がっているとの噂だ。

どうだ手伝う気にはなったか? 」

純粋な冒険家で地図作りの大家の異能。彼の言葉なら信じられそう。

ただ異能さんはあの異丹治とのいとこな訳で。信用していいものか悩む。

それにしても年の離れたいとこだな。


「お願いです! その場所を示してくれませんか? 」

「どう言うことだ? 」

「俺はどうしても今日中に…… 日が暮れるまでに会いたい人がいるんだ! 」

もう強引にでも頼み込む。もはや格好つけてられない。ミライに会いたい。

ミライに会わなければいけないんだ! ミライに! 

我がままが過ぎると自覚している。でもどうしても異能に頼るしかない。


「残念だがチュシンコウは百年以上前に消えたと噂の消滅都市だ。

はっきり言ってしまえば夢物語。

儂では無理で海君でも恐らく無理だろうな。それが新世界であり冒険だ。

そう簡単には行けないのだ。今の科学では不可能だろう。

それでも僅かながら可能性がある。

それで海君はどうしてチュウシンコウを知っている? 」

「それは…… 」

「きちんとすべて話すといい。そうすれば願いは叶うかもしれない」

こうして今までことを。特に五年前のことを中心に話す。


「うむうむ。まるでミモリのようだな。運命に翻弄された男の哀れな姿」

何だか酷い言われよう。ミモリはどんな扱いなんだ? 

「ミモリさんの件を知ってるんですか? 」

「ああ噂程度にはな。お鶴さんから聞いたんだがな。

奴も誘ってみたが現実を受け入れようとしなかったわ」

「それで俺はその約束の場所を探しているんです」

「情けないのう忘れたのか? あの雲の向こうにあるだろう? 」

そう言うと爺さんは指し示す。


「これは特別じゃ。緯度と経度を示してやろう。儂は地図作りのプロ。

そのプライドに賭けてサービスしてやる。出血大サービスだからな。

その代わり落ち着いたら儂とチュウシンコウ探しに出掛けてもらう。いいな? 」

交換条件を出すがそれは俺にも願ってもないこと。ぜひともお供したい。


「さあこのメモを持って行くがいい若者よ! 

ただしたどり着いても呼ばれなければ無駄だろうがな」

すべてを知る者異能。彼によりついに目的地へ。

異能が指し示した約束の場所へ。

さあもう時間も僅か。急ぐとしよう。


ついに物語は最終章へ。


                   続く

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