悲劇の始まり
鶴さんに励まされ最後の最後まで隠していた真実をさらけ出すミモリ。
五年前の夏。お前がこの集落に遊びに来たあの夏一人の少女に出会った。
彼女もリンネ同様どうしようもない運命に翻弄され懸命に助けを求めていた。
だからあの約束の場所で自然と話すように。
相手の心の声に耳を傾け応えると本来見えないはずの相手が見える仕掛け。
だからよそ者に興味を持たない集落の者は気づきようがない。
偶然気づかなければ起こり得ない事象。奇跡と呼んでいいだろう。
そして俺はそこで再び彼女の呼びかけに応えて出会った。
とは言え彼女は俺には相応しくない幼き少女だった。
だからただ話を聞いてやることにした。ただの相談相手だな。
実際いい子だったよ。話してみれば笑うし俺のことを詳しく聞こうとしなかった。
そう言う気の利く物分かりのいい子。
俺の名前を伝えたのだって最近だからな。
今振り返れば掛け替えのない時間だったと思う。
いつの間にかミライをリンネに重ね合わせていた自分がいた。
そしてお盆を迎える。
俺は彼女とのことで一杯ではっきり言ってあまり相手にしていなかった。
お前の世話を任された俺は一緒に遊び秘密基地も作った。
でも彼女のことが心配で正直心ここにあらずだった。
五年前のこととは言え今のことのように鮮明に覚えている。
海が一人で秘密基地作りに熱中してたので一時間のつもりで抜けた。
本当は断りを入れるべきだったがあまりに集中していたものだからつい……
一人になったことで不安になり探したのだろう。
そこでこの約束の場所に誘われてしまった。もはや運命。
俺は慌てて止めようとしたが二人は楽しくお喋りを始めた。
もう遅いと悟った俺はその場を離れ戻って来るのを待った。
お前をこんな風にしたのは俺なんだ。
俺がきちんと世話をして一緒に秘密基地を作っていればこんなことには。
それだけがどうしても心残り。お前に謝りたいことなんだ。
自分のミス。心の弱さがお前を引き込んだ。
決して出会ってはいけない二人が出会ってしまった。
案の定お前も彼女を忘れられなかった。俺と同じ運命をたどってしまう。
悲劇でしかないのにそれでも出会う。もちろん形だけ。実際は見合っただけ。
それがどれだけ辛いか俺には分かってるつもりだ。
ミモリはついにすべてを告白した。そこには予想もしない衝撃的な真実が。
「海…… 済まない許してくれ! 」
そう言って頭を下げ続けるミモリ。
「まさか…… その子って? 」
「ああそうだ。お前の想像通りだ」
「そんな…… まさかミライ…… いや違う! そんなの嫌だ! 」
真実を拒絶する。現実から目を逸らす。
俺は自分の目で確かめたこと以外信じない。
たとえどれだけ真実に近いとしてもそれは真実もどき。
目を瞑り耳を閉じる。それで現実逃避する。
信じられるか! それにこれはミモリの話であって俺には関係ない。関係……
どれだけ真実に近かろうと観測されなければ確定しない。
明らかにおかしな事象をそのまま真に受けるのは陸と変わらない。
宇宙人がいると言ってるようなもの。それ以上だ。
宇宙人に会ったと言ってるようなものだ。誰が信じる?
実際はいないだろう? 俺がこの目で見てこの耳で聞いて初めて確定する。
常識や科学に反したことは自分で確認してようやく真実となる。
誰かのホラ話を聞いて決定づけるものではない。
「そうだ! ミライだ! お前の探し求めていたミライだ! 」
「嘘だ! 嘘だ! 嘘に決まっている! 」
頑なに認めない。俺が認めなければいいんだ。
「嘘じゃない。残念ながらすべて事実だ」
うわあああ!
情けない。勢いに任せてガキのように飛び出してしまう。
当てもなく仲間もいない危険な集落で大声を上げて疾走する。
どうして? どうしてこんなことが?
俺のミライはミライはこの集落の女の子で無理やり嫁がされた哀れな犠牲者。
そんなイメージがあった。それが見事に覆ってしまった。
彼女は存在するはずだ。絶対目の前に存在するはずだ。
どうして…… 会えないのかミライ?
お前をこの手で掴めないのか?
もういい。もういいよ!
会うことも触ることもできないならミライを探す意味なんかない。
意味なんか…… 俺のミライはどこにもない。どこにも……
どうしてミライは俺に迎えに来てくれなどと言ったんだ?
これならただ別れればよかったんだ。
美しくも懐かしい思い出としていつまでも残ったのに。
ミライ…… 君はすべて知っていた風だった。
どうして迎えに来いなどと無責任なことを言ったんだ?
俺が苦しむのを見たかった? 苦しみ続けることを望んだのか?
恨むぞ。これなら初めから拒絶してくれればよかったのに。
思わせぶりに求めるから信じてしまった。 探してしまった。
どうして? 俺が悪いのか? 俺は間違ってるのか?
おおおおお!
もうどこをどう走ったのかまったく。
無茶苦茶に走って今ため込んでいたものをすべて吐き出そうとした。
でも俺にはその資格がない気がして我に返った。
目の前にはぽつんと一軒の家が。あれ一周してきて戻ったかな?
鶴さんの隠れ家に戻ってきたのかな?
ここは一旦落ち着こう。
ドンドン
ドンドン
怒りに任せて叩く。
あれだけ騒いだからな恥ずかしい。とても恥ずかしくて堪らない。
「はいはい。今開ける」
その頃。
ミモリとお鶴さんが今後のことを相談中。
ドンドン
ドンドン
「はいはい。今開けるよ」
「失礼します。あの…… 」
「ああ戻ってきちゃったのかい? 後ろの子は? 」
「それが実は…… 」
「嘘だろう…… 」
ミモリが驚愕する。そして残念そうに下を向く。
「どうしたんだい? どうも訳アリのようだがね。
そうだお茶でも飲んで落ち着くといいよ」
「それでミモリは知ってるんだろう? 早く紹介しな」
鶴さんは興味津々。ミモリはただうろたえるばかりで要望には応えようとしない。
「その子は俺の知ってる…… なぜ君がいるんだ? どうやって? 」
まるで奇跡かのようにじっくり見る。ミモリは明らかにおかしい。
これは失敗した? それとも大成功?
「いいから座りな! お茶を淹れて来るからね」
黙る。ミモリもその様子を見守っている。
「それでどうしてここに? 」
「心配になったから…… 」
「まったく俺の計画がすべて水の泡じゃないか…… 」
落胆するミモリ。
ひとまずお茶を飲み落ち着く。話はそれから。
続く