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紅の姫

夜の湖で沐浴する少女。

脱ぎ捨てた服をそのままに湖へ。

まるで冥界に旅立とうとするかのように。

神々しいほどに神秘的だ。

ミモリは目を逸らすなと言うけれど……


「よしもういいだろう? そろそろここから退散しよう」

そう言って無理やり引きづっていく。もう充分満足したらしい。

ミモリの奴め…… 何てものを見せるんだ。


「待ってよ。ミコが…… 」

「気づかれたらお前だって気まずいだろう? 」

「確かにそうだけど。でもミコが心配で…… 」

「嘘を吐け! ただ見たいだけだろう? 」

とんでもないことを言う。そもそも見せようとしたのはミモリの方だ。

初めから知ってたらこんなこと…… 

ダメだ。自分に嘘は吐けない。


「それに彼女はミコじゃない。悲しみの姫だ」

「はああ? 」

何を言ってるんだこの人? 神秘的な光景にどうにかなってしまったか?

「そう紅の姫だ」

「紅の姫? 」

悲しみの姫と来て今度は紅の姫。俺を混乱させるためにわざと言ってないか?

大体随分と大げさな名前だし。でもどっかで聞いたことがあるような……


「悪い。それはあっちでの呼び名だった。ここではチュウシンコウだ」

「あっち? チュウシンコウ? 」

もう訳が分からない。結局チュウシンコウに落ち着くらしい。

集落の者にさえ伝わらなそうな難解な言葉使うんだから。どうしたらいい?

頭の悪い俺ではただ混乱するばかり。やはり狙いは俺を狂わせることにあるのか?


「おいおい難しく考えるなって。二つ名があるだけだ」

「でもあっちだって……  こっちがあってあっちがある。

だから少なくても別の場所がある」

断定する。いやいや断定までしていいものなのか? 

まさかこれがチュウシンコウの真実?

それに気づいた俺をミモリは放ってはおかないだろう。

秘密を知ったからには次の手を打つ。

やはりミモリも敵なのでは?


あの鶴さんだって。新たな敵の一味なのでは?

俺たちを助け親身になって逃亡の手助けまでしてくたミモリと鶴さん。

彼らはまた別の勢力。異丹治とは対立する別の組織?

だがそれでも俺たちにこれ以上関わるのはどうしてだ?

まさか父さんが関わってるとか? 

どんどんおかしな考えに憑りつかれてしまう。

想像を膨らませ余計なことを考えるのが俺の悪い癖。もはや妄想でしかない。

とにかくこの場を離れるのは賛成。


「よし行くぞ! 」

こうしてミモリに引っ張られて山の方へ。


あれ…… 異丹治の手下が見当らない。見張りはどこへ消えた?

ラッキー? いや逆に危険な気がする。まだ警戒は解かない方がよさそう。

もう間もなく夜明け。今日でミライに会えるのは最後。

しかしミモリは危険だとすぐに帰るように助言。

「今すぐこの山を! さあ早く! 取り返しのつかなくなる前に」

「嫌だ! 俺はミライに会うんだ! 」

「馬鹿を抜かせ! これ以上明るくなればすぐに見つかる。いいのか? 」

「いい。それでもいいから…… 」

つい甘えて泣きつく。情けないがこれでミモリも分かってくれるはず。


「もうどうなっても知らないぞ。お前はまだ高校生だろう?

絶望を味わう必要はない。怖い思いをこれ以上する必要はないんだ! 」

説得するミモリ。でも俺は分かってる。会った当初からミモリは否定的だった。

だからミライに会わせないようにしてるんだと推測できる。

きちんと分かってるんだから。


「ねえもう追っ手は来ないんじゃないの? 

これは集落全体で俺を怖がらせて早く帰らせようとしてるだけ。

違うかいミモリさん? 俺はもうガキじゃないんだ」

ついに追及してしまう。このまま何も知らない振りした方がよかったのに。

それでも我慢できずに口が滑り墓穴を掘る。


「馬鹿野郎! 」

そう言うとパンチを一発。

突然のことに思考が停止してしまう。

俺が動いたせいでパンチは頬ではなく顎にヒット。

「痛…… あー痛い。何するんだよミモリさん」

「済まん。ついかっとなって。でもお前が現実逃避するから。

俺が信じられないなら好きに歩き回ればいい。すぐに捕まって地下牢行きだ。

残念だが翌日には処刑されるだろう。それでいいなら好きにするがいいさ」

もう呆れたとがっくり項垂れる。


「だって…… ミモリさんが疑うようなことばかりするから」

「分かったよ。俺がそんなに信用ならないんだな? 」

「いや…… 今ので吹っ切れた気がする。

ミモリさんが俺のことに真剣だって分かったから」

もう疑うのはよそう。大人だからって信用できないんじゃない。

信用できない大人が多すぎるだけだ。


「お前…… 愛情を受けずに育ったのか? 」

心配してくれるのはありがたいがそれはあまりにも失礼じゃないか?

「いや…… そんなことない。ただ五年前に父さんと別れたから…… 

それからもいろいろあって…… 」

「済まない。お前の家庭の事情は聞いていたが詳しくは知らないんだ」

「ミモリさん…… でも俺やっぱり諦めたくないんだよ」


ミライの姿が見えるのは今日まで。

明日からは声のみ。だから当然会話もできない。

思いを伝えることもできない。

「ねえミモリさん。ミライのところへ案内してくれないか? 」

「だからそれは自分の力で。俺に頼るな! ほら声が聞こえるだろう? 」

ダメだ。ミモリでは話にならない。

ここは思い切って鶴さんに頼むとしよう。


「もう頼まないよ! 」

「待て! どこへ行く? 」

「鶴さんのところに…… 」

「馬鹿! 捕まりに行くようなものだぞ! 悪いこと言わないから後にしろ! 」

もうどうでもいい。今日がタイムリミットである以上どうなろうと構わない。

待ってろよミライ。必ず迎えに行くからな。


鶴さんの家へと走る。


                   続く

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