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最後の夏

七月は勇気が出せずつい遅くなって八月の中旬にまでになってしまった。

約束の場所には無防備なリンネの舞う姿が。心惹かれる。

そのまま抱きしめたいほど。でもそれはできない。

俺たちにはルールがあって壁がある。

見えない線とも言うべきだろうか。その線を越えてならない。

それを守らなければ二度と会えないし命の保証もないとリンネが脅す。


リンネはなんと美しいのだろう? 一年ぶりだから無理もないよな。

もう居ても立っても居られなくなり声を掛ける。

「おいリンネ! 聞こえるか? 」

気づいてるはずなのに無視し続ける。もう俺たちは終わったのか?

だがそれで引き下がるような情けない男ではない。

思い切って叫んでみる。一年分の溜まりに溜まったリンネへの思いを吐き出す。

もう気づくまで。無視が終わるまでずっと。何度も何度も繰り返す。

相当浮かれてるんだろうな俺。これではリンネを困らせて悲しませることになる。

分かっていながらそれでも彼女への想いを優先させてしまう。


「何をしておる! 」

どこからか男の声がした。

今までこんなことはなかった。いつもはリンネ一人だけだったから油断した。

俺たちだけの秘密の場所。二人っきりの空間だったのに。

突如として現れた侵入者。果たしてその正体は? 目的は?


まさか監視されてるだなんて思いもしなかった。

ただ男の声はするのだが肝心の姿を捉えることはできなかった。

恐らくどこかに隠れて俺をからかっているんだろうなと勝手にそう解釈した。

でも真相は違った。男は怒り狂ってリンネに手を上げようとする。


「おやめくださいお父様。その者は赤の他人でございます

私はその者とは一切関係がありません。どうぞ冷静に」

リンネが庇う。今までの一連の行動も俺を守るため? 都合よく解釈する。


「ウソを抜かせ! 儂のいない間に密会していたな? どうなんだリンネ? 

我が娘ながら何とふしだらな女だ。ほら正直に言わんか! 」

問い詰められても決して口を割ろうとしない。

甘んじて罰を受けようとする。それはまるで俺を守ってくれているようにも映る。

映るのは映るが結局彼女の本心が掴めずにいるのも確か。

俺はただ見守るしかない。動けば奴の思う壺。

せっかくリンネが無関係を装うってくれたのにすべてが無になってしまう。


「お父様! どうぞお許しください! 」

「ならん! お前は嫁ぎ前の大事な体。どこの者とも知らぬ奴を合わせれるか!」

リンネの父親だそう。怒り狂うその形相はまるで鬼そのもの。

声だけでも恐ろしかったのに姿まで見せられてはその場に立ち尽くすしかない。

見過ごせないこと。だからって俺だって引き下がっていられるか。

リンネを縛るいかなるものをも排除するつもりだ。

「それは誤解です。ただの観光の方でしょう。私に驚かれているだけだと」

「まだ言うか! 」

そう言うと二度ほど張る。


きゃああ! 

「お仕置きだ。なぜもっと淑やかにできんのだ? 一体何が不満だと言うのだ? 

有り余る金を手にした者に嫁ぐと言うのに。それだけでなく地位も保証されてる。

これ以上一体何が必要だと言うんだ? 不満などあるはずがなかろう! 」

勝手に決めつけて反論させないとんでもない奴。もし俺たちが結ばれたら義父に?

無理だ。さすがに耐えられない。想像するだけで寒気がする。


「お父様…… お願いです…… 」

反抗することなくただ受け入れるリンネ。可哀想でもう見ていられない。

怒りに震える。そして我慢の限界を超える。

「リンネや! 父に誓えるな? もう二度としないと? 」

涙に濡れたリンネに容赦のない父。


「やめろ! やめろ! 」

「ああん? 何だお前? やはり娘と関係があるんだな? 」

ついにこちらを睨みつける。

「こんな優男に惚れるとは我が娘ながら情けない。

これ以上余計なことをすればタダでは済まないぞ。ああん? 」

男はこちらに鋭い視線を送る。

まだ睨んでいるだろうな。恐怖でどうにかなりそうだ。


「俺はこの子を守る。リンネを守って見せる! 」

ついに決定的なことを言ってしまう。

「何だやっぱりお前たちは密会していたんじゃないか。嘘を吐きおって!

よし来い! もうこんなところではやらせない」

怒って家に連れ戻そうとする。

なんと強引なことを? これも俺のせいなのかな?


「来い! 帰るぞ! 」

「いや! 私はここに残る! 」

「ははは…… 聞き分けの悪い子で困っていたんだ。お前は娘をたぶらかした。

きっちりお礼をしてやるからな」

こうしてにらみ合う。


「ははは…… 」

なぜか笑いを堪えるが漏れてしまう男。仕方なく勝ち誇ったように笑い続ける。

「何がおかしい? 」

「おいおいまさかお前も知らない訳ではないだろう? 」

男は意味深なことばかり言い惑わせようとする。

「一体何の話だ? 俺には心当たりがない」

そう男はすべてのからくりを知っていたのだ。

「よしいい機会だ。教えてやろう。お前たちは決して結ばれない。

お前がこちらに来れないように娘もそちらには行けない。

これがすべて。受け入れがたい現実だ。お前はさっさとこの場を立ち去れ! 」


「そんなこと…… 」

一度ではない。二度も三度も試した。

その都度危ないからやめるように止められていた。

でも事実はそうでないかもしれない。


               続く

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