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リンネ

ミモリの独白。

今まで散々隠していた真実。なぜか今になって語りだす。

どうやらミモリも覚悟を決めたらしい。

それならば俺だって…… 


舞台上で優雅に舞いどこか儚い歌声を響かせていた彼女。

それが俺と彼女の最初の出会いだった。

いやこれが出会いと言えるかは微妙だがとにかくお互いを認識した。

舞が終わると俺は思い切って話しかけることに。

突然のことで驚いた彼女は来ないでと拒絶する。

そう言われては素直に従うしかなかった。そうだよな怖いよな。

得体の知れない男が走って来る訳だから。


「お願いこれ以上はダメ! あなたを失いたくないの! 」

どうやら彼女は俺を決して拒絶した訳ではなかった。

ただ他の者に知られたら何をされるか分からないと恐れていた。

他の者とは要するに彼女の仲間か親兄弟ってところだろう。

随分と物騒な話。抑圧された世界で悲しい思いをしていたに違いない。

俺が何とかしてあげたい。強い思いが沸き上がる。


「ははは…… 何を言ってる? 大げさだな」

「大げさじゃない! 本当のことだから気をつけて」

表情は真剣そのもの。その勢いに笑いが引っ込む。

きちんと耳を傾ける。


こうして俺たちはその日からいろいろなことを話した。俺の境遇も彼女の悩みも。

今振り返ると本当に楽しい思い出だったな。

もう会えないと打ち明けられたのが五日目。

それまでは笑顔を見せていた彼女。素振りはまったく見せなかった。

てっきり俺が邪魔をしたせいで演舞がうまく行かないのだとばかり。

どうやらそうでもなさそう。


「何でだよ? 俺を嫌いになったのか? 」

「違う! でも決してもう会いに来てはダメ。会えないから。会えないの…… 」

最初は何を言ってるか分からなかった。緊張や照れ隠しかなと。

この時はまだ何も。今になって思えば彼女の気持ちも理解できる。

仕方なく彼女に言われるまま引き下がった。

演舞を終えて彼女が忙しくなくなったらまた会いに行けばいいと。

どうせ俺は暇なんだから。深くは考えなかった。


でもどうしても気になってそれから三日後に再び会いに。

すると声は聞こえるが姿はどこにも。

ただ泣いてるだけの彼女。心配になって声を掛けてみたが会話にならなかった。

そんなことが続いて彼女の姿が完全に消えたのが八月末。

もう無理だと絶望した俺だったがもう一度会おうと集落に留まった。

もちろんずっと葛藤した末の答え。


そして一年が過ぎようやく彼女の姿が見えたのは夏至を過ぎてからだった。

でも彼女は中々姿を見せない。

彼女はどこに住んでるのかと不思議に思ったもの。


ついに約束の場所で再会。

彼女の話によれば崖の下の小さな土地に住んでいたと。

ここからだと危険だから止めてくれていた。

丘を越えた草原地帯は断崖絶壁。

あちらに行こうものなら命を落とすのは確実。

俺たちの間には見えない壁によって仕切られていた。

声も聞こえるし会話だってできるが訪れるにはどれだけの時間が掛かるか?

その断崖絶壁のところに舞台が作られていた。

からくりさえ分かってしまえば会うのは難しくない。

ただそこには彼女なりの優しい嘘が混じっていたのだが。


「もう会えない」

「はあどう言うことだ? 」

「嫁ぐことになった」

「そんな話知らないよ」

「だってあなたに言っても無駄でしょう? それとも助けてくれるの? 」

彼女曰く嫁ぐことが決まったのは去年だと。

それをひた隠しにしていたのは迷惑を掛けたくないからだそう。

気持ちは痛いほど分かる。でも俺だって男だから……


「日取りはいつ? 」

「来年の祭りが終わるその日まで」

随分といい加減だが要するにその祭りこそが神聖な婚姻の儀式。そう理解した。

「なあ俺じゃダメなのか? 」

こんなこと軽く言いたい訳ではない。でも俺を頼ろうとしないから。

「ごめんなさい。決まったことだから…… 」


夏至が過ぎて彼女の姿が見えるようになってずっと毎日通った。

そこは俺たちの秘密の場所。


彼女の名前はリンネ。

名前からも運命を感じた。

俺たちは結ばれるべく出会ったのだ。そう信じている。

彼女は俺を心配するあまり拒絶しているけど大丈夫。

俺が本気になれば彼女だって分かってくれるって。

でも違った。いつも会えば不機嫌。泣いてる時さえあった。

罪悪感があると訳の分からないことを言って。


リンネは次第に約束の場所に足を向けなくなった。

どうやらもう諦めて欲しいようだった。でもそれができるならもうしてる。

そしてやはり別れの時は来てしまう。

もう姿を見せなくなった。

八月の終わりにはもう声だけに。聞こえるだけ。会話さえままならない。

こうしてついに運命のタイムリミットを迎える。

残すは一年のみ。


毎年彼女があそこで踊っていたのは毎年夏の終わりに行われる祭りの為。

儀式で演舞を披露するため。

だから彼女がどんなに嫌がろうと体調を崩さない限り現れた。


俺はどうしても勇気が持てずに七月は足を向けられなかった。

それが彼女の願いだから。もしこれ以上しつこくすれば場所を変えられてしまう。

それだけはどうしても耐えられなかった。


そして八月も中盤に差し掛かろうとしたところで改心する。

もう今年まで。どんなにルールを守ろうと会えなくなるだけ。

会えなければ何の意味もない。諦めるだけ。

だから彼女の気持ちを確かめたくて再び約束の場所を訪れた。

なるべく考えずにいたが一年間苦しいのに変わりはなかった。

なぜ俺を拒絶するのか? 拒絶し続けるのか?

するとその答えが分かってきた気がする。


その日は暑かった。朝から三十度を超えていた。

そんな気温でも彼女は儀式の踊りに精を出していた。


こうしてリンネとの再会を果たす。


                 続く

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