夜の湖は黄泉の国に繋がっている
夜。
鶴さん救出を諦め態勢を整えるためにミモリと共に洞窟へ向かう。
この辺りには自然のままの洞窟がいくつかある。
そのすべてを調べ上げたのが地図の専門家の異能とか言う爺さんだ。
現在その彼は所在不明。鶴さんによればどこぞの洞窟を調査してるのだろうと。
森の奥の完全無欠洞窟にでも行ってまた帰って来れなくなってる恐れも。
今まで集落の者が何度となく挑戦するも帰って来る者は一人もいなかった。
それほど危険な洞窟。決して一人では立ち寄ってはいけない。
ただ今向かってる洞窟はそれとは違い落盤と害獣の危険さえなければ安全。
迷うことはないらしい。
我々が向かってるのは湖から少し行ったところにある誰も近づこうとしない洞窟。
集落の者も存在を忘れているとミモリは言うが果たして?
「明かりをつけるな! 」
遅すぎる。もっと前に言ってくれないとどうにもならない。
コウモリが光と体温に反応して一斉に襲い掛かかる。
人間ではないからいいと言う問題ではない。
騒げば気づかれることも。夜行性の獣に嗅ぎつけられることもある。
「バカ野郎! 何をやってる? ほら早くそのライトを消せ! 」
「ウソだろ? 俺知らなくてつい…… 」
「ほら早く! 」
「うわあ…… 」
焦るあまりにライトを落としてしまう。
するとライトめがけてコウモリが突撃してくる。
何と恐ろしい。見てるだけで吐き気が。恐怖を感じる光景。
「まったく人騒がせな」
そう言ってライトを拾って切るミモリ。慣れているのかとても頼りになる。
兄ちゃん…… つい昔を思い出してそう呼んでしまう。
こうしてコウモリの奇襲攻撃から逃れることに。
「どうした? 噛まれでもしたか? 」
見せてみろと言うミモリ。
「あいつら噛むの? 」
嫌だな聞きたくもない。そんな知識を蓄えたくない。
「血を吸うからな。当然噛んだりもするさ。
それにコウモリはとんでもない病原菌を持っている。
もし痛みやかゆみ等のサインが出たら……
いや出なくてもすぐに全身をきれいに洗った方がいい。
一旦洞窟を離れて夜の湖で全身を洗い流す。
これで俺は助かるんだよな?
熱は出てないか確認するも今のところ特に問題ない。
何てことだろう? サバイバルは楽しいがここまで絶望的だと心が折れる。
あまりにもヘビー過ぎないかこの展開?
湖できれいにしてから夜の湖を少しだけ泳ぐ。
俺はサマー部。合宿でも泳いだしトライアスロン大会でもスイムを二キロ。
本当は夜に泳ぐのは危険な行為だがミモリもいるしな。
しかし今日は月が見えないな。どうやら分厚い雲に隠れてしまってるようだ。
まあ追っ手に見つかっては元も子もないから暗い方がいい。
ただ周りがまったく見えないのも不安が募る。
ここだって奴らが潜んでないとは限らない……
だがこの辺りに人はいないと断言。侵してはならない神聖な場所だと言う。
また危険でもあるのだとか。洞窟周りには見えない毒があると信じられている。
ただそれで亡くなった者はいない。単なる言い伝えだと言う見方もある。
これもミモリの教え。ミモリはミモリで教わったのを伝えてるに過ぎないそう。
彼もここに越してから長いそう。その折に触れて聞くことも多いとか。
俺たちが五年前に会ってるなら少なくて七年近くはこの集落にいる計算になる。
湖でさっぱりしたところで洞窟に戻る。
「どうだった夜の湖は? 感動したか? 」
ミモリに少しだけ笑顔が戻った。元々もあまり笑顔を見せるタイプではない。
ただ静かに見守るのが常。もしかして俺を少しは認めてくれたのかな?
そうすると俺はミライに一歩近づいたことになる。
「どうしたんですミモリさん? 夜の湖は少々冷えますね」
「おいおいそれだけか? 」
笑顔の次は笑い声をあげる。もう完全に信頼を得たらしい。
「ううん…… 正直に言うと怖いかな。何だか夜の海もだけど湖もそう。
一人で泳いでると連れて行かれそう」
黄泉の国に連れて行かれると暗に言ってみる。
「ははは…… 敏感だな。そうだ夜の湖はあっちの国に繋がっているらしいぞ。
だから絶対に夜は泳ぐな。日が暮れたら近づくなと。
集落の子供が真っ先に教えられることさ。
俺が知ってるのはその子供から教わったから。まあ迷信だよ。
迷信だけど小さい頃から言われ続ければ当然大人になっても守ろうとする。
それは伊丹治たち権力者も例外ではない。
だから夜の湖には近づかないのさ。ここは安全地帯。
禁を犯すのはいつだってよそ者。まあ俺たちのことだな。
ただ今回は伊丹治だって本気だからな。禁を犯してまで追ってこない保証はない」
「それは確かに…… 」
「ただ例外もある。知りたいか? 」
「ええ…… ぜひ」
「もう少し自分で考えてみろ」
突き放すミモリ。すぐ教えてはつまらないのだろう。
そう言うところは妙に子供っぽいな。いい大人がガキをからかってどうする?
一分一秒を争うかもしれないのに。
ミモリは一体何を言ってるのだろう? 例外などあるはずがない。
まさか信じない者がいるのか?
確かに集落にも一定数はいたっておかしくないが。
しかし集落の教えや掟を守らなければ生きてはいけないはず。
続く