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囚われの鶴さん

夜。

ミモリと闇に沈んだ世界を走る。

もう限界! ここまでは奴らだって追いかけては来ないだろう。

とにかく落ち着こう。

水を汲んで一杯。


どうしてこうなってしまったのだろう?

上手く逃げたつもりなのに異丹治の手下に追いかけ回されてもうヘトヘト。

完全に逃げ切ったと思ったのにどうやら読まれていたらしい。


「ねえおかしいよ」

真っ暗になってもその勢いは衰えない。追っ手は本気らしい。

至るところに監視を置き逐一報告を受けているそんな感じだ。

手下をお宝で惑わせ異丹治を怒らせ本気にさせてしまった。

もう容赦しないだろう。まさかとは思うが命懸け?


ミライに会うのにこれからどれだけの苦難が待ち構えてるのか?

もちろん分かっていたさ。

これもミライに会うための試練。俺は試されているんだ。

何としても無事に切り抜けてみせる。

切り抜けた先にはきっとミライが待っているはず。

ミライへの道。それは長く辛いもの。もはや耐えきれないほど。


「なあ聞いてるのかミモリさん? 」

「黙ってついてこい! 」

鶴さん宅の前まで来ると何だか様子がおかしいとミモリが言いだす。

夜だからね。昼間とは景色も違うだろう。考え過ぎなような気も。

ただ体の震えが止まらない。もしかすると俺は恐れてる?

たかが間抜けな集団。捕まるはずがない。でも震えは止まりそうにない。

ははは…… 情けない。一度恐怖を感じるとどんどん膨らんでいく気がする。

捕まって拷問されそうになったからな。

あの時は脅しだったが今度はそれだけでは済まないだろう。

「ほら明かりがついてるじゃないか。さあ中に入れてもらおうよ」

無警戒で中へ。

「だから待てって! よく見てみろ! 」

人影が動く。そう鶴さんがいる証拠。

それに声も? あれ一人が好きでこんな森に家を建てたはず。

もしかすると本当にミモリの言う通りここは危険なのか?


「済まないな海。残念だがもう集落の者は完全に敵に回ったと見ていい」

ミモリはとんでもないことを言いだす。

確かに異丹治の地下牢から脱出した時にもそんな気がした。

だから誰にも頼れずに逃げ回り孤独だった。でもそれが違うと言ったのはミモリ。

人を信用しろと言ったのもミモリだ。

それなのにそれなのに…… 今はもう違う? そんなバカな。

でも集落の皆はそんなことはなく祭りの見学までさせてくれたいい人たちばかり。


「ほら裏に回ってみてみろ」

ヒマワリ畑を超えて裏庭から中の様子を窺う。

真っ暗で何も見えない恐ろしく孤独な世界。

一人また迷い込んでもおかしくない。闇に導かれている。

夜目が利くのか迷いなく歩き出す。


うわ!

つい大声が。もちろん気づかれることはない。

だって奴らは家の中。仮に聞こえても人間だとは思わないだろう。

鳥か獣の雄たけびだと思われる。

明かりのついた室内にはお馴染みの三人組の姿があった。

三人が囲むように鶴さんが。鶴さんと男たちは何かを話し合ってるらしい。

「ほらな。俺たちの動きを先回りしてやがった。

もうここも危険だ。さあ着いてこい! 」

ミモリはもはや決断をした。そんな顔つき。

何だかとても嫌な予感がするぞ。


「ちょっと待ってよ。鶴さんを助けなくていいの? 」

常識で考えれば困っているお年寄りを助けるのが当たり前。

放っておいたら危険だ。

俺たちにだってできることはあるはず。

「馬鹿言うな! 罠に飛び込もうと言うのか? 」

呆れてものが言えないとみるみる内に機嫌が悪くなっていく。

そして一番恐れていたことを言う。


「もうここまでだ! 明日を待たずにこの集落を脱出するぞ! 」

とんでもないことを言いだした。その自覚はあるのだろうか?

それはミライ探しを諦めろと言うこと。即ち失敗を意味する。

もう俺たちは出会えないことになる。


「でも鶴さんを助けないと」

どうにかミモリを説得する。

「大丈夫。鶴さんだってお前がいない方が安全なんだよ」

ミモリが説明する。

「いいか。確かに仲良くしていたよ鶴さんとは。

でもそれは変人と変人のいわば波長があったからに過ぎないんだ。

ここで助けて関係がはっきりすれば奴らは迷うことはなく鶴さんを人質に取る。

そうすると鶴さんはずっと狙われ続けることになる。それでいいのか? 」

ミモリは鶴さんのためには仕方ないと言うがどう考えても逆な気がするな。


さあどうする? 明日までだったのに。ここで諦めて切り替えるか?

それができるならノコノコこんな山奥の集落まで来てない。

ゆっくり家でクーラーでもつけて大人しくしてればいい。

あるいは母さんの実家に里帰りすればいい。

そうすれば母さんも婆ちゃんも大喜び。

うーん。どうする?

 

「でも鶴さんはこのまま放っておいて大丈夫なの? 」

「鶴さんも頑固だから。脅しにはきっと屈しないよ。

知らない。関係ないねで通すはずだから。さあもう心配せずに脱出するぞ! 」

ミモリの的確な判断で俺たちはどうにか気づかれずに暗闇に姿を隠した。

ただ最悪なことに山に通じる道は異丹治の手の者により塞がってしまっている。

せっかく戻る決心をしたのにこれでは再び考え直さざるを得ない。


どうする? 集落に引き返しても捕まるだけ。だからと言って山にも行けない。

うーん。俺たちはどうすればいいんだ? どうすれば……

完全に塞がってしまった。


洞窟へ。

湖から少し行ったところに誰も近づかない洞窟が。

そこは集落の者も存在を忘れているとミモリは言うが果たして?


               続く

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