ミコ
鶴さんと別れてミモリと祭り会場の広場に。
どうやら集落の者が敵視してる様子はない。
異丹治の手下に見つからない限り危険はなさそうだ。
パチパチ
パチパチ
いつの間にか演舞は終わっていたようだ。
つい気持ちよくなって寝てしまった。
だから内容などまったく覚えてない。
「どうだった? ふふふ…… 」
女の子がこちらを見つめる。確か演舞に出ていた……
「ミライ…… ミライなのか? お前はミライなのか? 」
強く肩を揺する。
まずい…… やり過ぎたのか驚いて離れて行く。
「待ってくれミライ! 俺だよ俺! 」
「バカ野郎! 寝ぼけてるんじゃない! 」
ミモリに叩かれる。
「もう痛いな。何をするんですかミモリさん? 」
喰って掛かる。
「お前ちっとも緊張感がないぞ。寝ぼけやがって。ほら顔を洗ってこい! 」
酷いなもう。仕方なく河原へ。とりあえず喉が渇いたので一杯。
うん冷たくてうまいな。カルキ臭くなくていくらでも飲めそうだ。
「もう海ちゃんったら」
さっきの女の子だ。やっぱりミライ? でも見覚えがあるような……
そうだ! 確か隣の林蔵さんとこの娘さん。名前は忘れたが面影はある。
五年前は風邪を引いて一緒に遊べなかったんだっけ。
「お父さんが海ちゃんが来たって言うから…… 今までどこにいたの?
皆心配してたんだからね」
かわいらしく頬を膨らます女の子。俺よりも三つは下だったと思うので中学生か。
「ははは…… いろいろあってね。そう言えばいたね」
完全に記憶から消えていた。まさかこの子が?
「覚えてないの私のこと? 」
演舞の衣装で迫るから余計にミライに見える。
でもきっと違うんだろうな。五年前に寝込んでいた彼女がミライであるはずない。
この集落は彼女を含めて僅かしかいない。
高校は都会に行く者も多いと聞く。隣の村とかではなく本当に見知らぬ都会に。
中途半端に田舎にいるよりもいいとの考えからだろう。当然都会への淡い憧れも。
俺たちもその都会から来たそう。とは言えそれは彼らの思い込み。
俺たちは洗礼された都会者では決してない。それは陸を見れば想像がつく。
本当の都会者はもっとお洒落で言葉遣いだって丁寧だ。
俺たちは結局のところ東京方面から来ただけのただの田舎者さ。
比較すれば都会と言うだけ。
でも彼らは疑わない。彼らの目的は憧れるのでなく敵視することにあるのだから。
うん…… 都会者? どこかで?
「ねえ海ちゃん! 」
「ははは…… 君みたいなかわいい女の子を忘れるはずないだろう」
褒めておくか。うん確かに大きくなってかわいく……
お父さんに似なくてよかったね。林蔵さんも嬉しいだろうな。
「それで? 」
「うーん。忘れてないんだけど覚えてもいない」
正直に言う。
そもそも俺はここにミライへ会いに来たのであってこの子の踊りを…… 」
あれ踊り? なぜこの子はミライのように演舞をしてるんだ?
「最低! 」
「冗談だよ。確かピョンピョンだったよね」
「それは…… お父さんが勝手に! 私がよく跳ねてたから」
恥ずかしい過去を思い返されてご機嫌斜め?
「じゃあウサギでいい? 」
「いいはずないでしょう! 私の名前はミコ。覚えてなさいよ! 」
「そうそう。ミコだったね。変わった名前だよね? 」
「ケチつける気? これは祭りでミコの役になれますようにとお父さんが…… 」
自分では気に入ってるのか分からないそう。ピョンピョンよりいいとは思うけど。
脱線してしまった。話を元に戻す。
「どうだった私の演舞? 」
そうこれが聞きたかったのだろうな。恥ずかそうに俯くミコ。
俯いたって何も変わらないんだが。
「素晴らしかったよ。まるで夢のような気分」
寝ててまったく覚えてない。そもそも途中からだったし。
何が正しくて間違ってるかなんて俺に分かるはずがない。
だから心配したり不安にならないように励ます。
「失敗だってしてないだろう? ピョンピョンはきっと大丈夫だよ」
「そう…… そうだよね。笑われたけど大丈夫だよね」
どうやら失敗して笑われたことが凄く気になるらしい。それさえ覚えてない。
でもよかった。この集落が皆敵だと思っていたがそうでもなかった。
「そう言えばなぜピョンピョンが選ばれたの? 」
「だからピョンピョンはやめて! ミコでしょう? 」
「そうそう。ミコはなぜ演舞を? 」
この演目も恐らく紅心中伝説の一つだろう。
鶴さんが語っていたように紅心中の元になった最初の物語。
「私が優れてるから…… ううん。本当は代わり。
去年の末にいなくなっちゃったお姉さんの代わり。私が親しくしていたから。
それにミコだしね」
ミコは集落に広がった噂を元に教えてくれた。
ミコの話だとそのお姉さんはたまたま観光で訪れた男と駆け落ちしたらしい。
紅心中伝説の演舞の少女が伝説のように不幸になっていく。
そう勝手に集落の者は解釈してるようだが真実は誰にも。
そもそもその話も本当かどうか怪しいものである。
相手の男は異丹治の屋敷でお世話になっていたそうだし。
地下牢にあった骨の件もある。
チュウシンコウに近づき過ぎて二人とも消された可能性もある。
「まさかミコも誰かのところへ嫁ぐわけ? 」
「はあまだ中学生で何を言ってる訳? まさか海ちゃんのところ? 」
はっとなって口ごもる。
俺もさすがに恥ずかしくて何も言えなくなってしまう。
「冗談だよ…… さあ休憩終わり。行こう! 」
そう言うと先に走って行ってしまった。
ミコはかわいいがどうやら俺の求めていたミライじゃなかった。
当然そんな簡単であるはずがない。いやそんな簡単であってはいけない。
もっとこうロマンチックで手に汗握る展開が相応しい。
俺たちはそうやって再会するんだ。もちろんこれは俺の理想。
現実はもっとあっさりと見つかるのかもな。それはそれでいい。
よし戻るか。
「お待ちください」
ミコが消えたかと思ったら今度は新手。
どうやら目立ち過ぎたらしい。
続く