合流
「済まん。今のは忘れてくれ。つい…… 」
ミモリの表情が曇る。言ってはまずいことを言ったと後悔してるようだ。
しかし一旦口にした言葉は取り消せない。ミモリは俺を馬鹿にしたんだ。
決して許すことはできない。
「あれあんたは先生のところの? 」
爺ちゃんと婆ちゃんは昔先生だったらしくその名残で未だにそう呼ばれている。
「はい。海です」
「そうそう。海ちゃんだったね」
ついに見つかってしまった。これは危険な賭けだぞ。
ミモリは大丈夫と言うけど不安は尽きない。
「うるさいぞそこ! 演舞の最中だろうが! 」
声を落とさずに話してたものだから注意を受ける。
俺は静かに挨拶したので関係ないよね?
どうやらミモリの言う通り皆演舞に集中していてこちらを見ていない。
俺に気づいても捕まえようとしないところをみると集落の者は敵ではない。
単なる傍観者だ。
味方を増やすのは難しいが追い立てられることも逃げることもない。
とにかく言われた通りに静かに演舞を鑑賞するとしよう。
その頃山を一つ隔てた隣村では。
「希ちゃん? やっぱり希ちゃんだ! 」
「はーい希! 元気してた」
「どうしたの二人とも…… 」
三人は隣村で再会する。
「てっきりもう駅に…… 」
希ちゃんはかわいいな。ははは…… 今はそんなこと考えてる時じゃないか。
でも海の奴がいないからな。俺がどうにかするしかない。
ここに男は一人。さあ守らなくちゃ。
ついに隣村で運命的な再会を果たす。
これは偶然? いや俺たちは運命の赤い糸で結ばれてるのさ。
「それがさアイミちゃんがトイレに行ってさ…… 」
「下手な嘘を吐かないの! 希を待とうって言ったのはあんたでしょう? 」
俺たちは命からがら逃げて来た仲間。
アイミちゃんとは随分絆ができたと勝手に思ってる。
でもなぜか海には優しいのに俺の時は手厳しいんだよな。
だから嫌になる時もたまにはある。でもめげないぞ。
「元気そうで…… ああごめん。どうも二人とも呑気そうに見えて」
ズバズバ言う希ちゃん。照れ隠しなのかな?
「呑気って…… そんな訳ないでしょう! この人の世話大変なんだからね」
「おいおい俺? 酷いなアイミちゃん」
「うるさい! 文句言わない! 」
「そう。だったら一緒に帰りましょう。海君には迷惑かけられない」
もう帰る気らしい。何てタフな希ちゃん。
「ごめん希。ここからのバスはもう出ちゃったから明日にならないと無理」
アイミちゃんが俺の代わりにすべてやってくれるので助かる。
うん。俺たち相性抜群。海には悪いけど二人とも俺のものに。
へへへ…… 裏切りの陸様だぜ。
「うおおお! 」
「ほら暴れないの。今は大事な時なんだからさ」
アイミちゃんが止めに入る。
いつもの俺ならそうだろうが今日の俺は一味も二味も違う。
そこを見せつけてやる。
「泊るところがない」
ミモリの手引きでどうにか一山超え隣村までやって来た。
俺たちはこの後どうすればいいのか迷っている。
とにかく今晩はゆっくり体を休めてから考えようと思う。
そのためには宿がとても大切になる。そうアイミちゃんが言ってた。
俺はもう野宿でもいいと思っている。でもそうもいかないらしい。
「旅館はないんでしょう? 」
「うん。私たちもゆっくりしてて今バスがないことに気づいた。
歩いてもいいけどでももう体力も限界。そんな時に人影が見えたから」
アイミちゃんがここまでの経緯を語る。
続けて希ちゃんが俺たちがいなくなった後の話をしてくれた。
「それでミモリが紹介したカメさんだけどさ…… 」
「鶴さんでしょう? いい加減覚えなさいよ! 」
「へへへ…… その婆さんが何か言ってた? 」
「私は席を外すように言われたから。漏れ聞いたことは特に。
また明日来るようにと。それから覚悟がいるって」
希ちゃんはそれだけしか知らない。知っていても教えるつもりはないみたい。
「うーん。だったら進展なし? 」
「へへへ…… 実は二人に進展があったりして」
ついからかいたくなる。へへへ…… おかしいな。
もちろん海にそんな度胸ないよ。俺と同じで消極的だから。
「まさかそんなん訳ないでしょう! あんた馬鹿なの? 」
なぜか希ちゃんではなくアイミちゃんが怒り出す。
ほんの冗談なんだけどな。言い過ぎたかな?
あれ希ちゃんがまったく反応しない。どうしたんだろう?
まさか…… いやまさか…… 俺は海を信じている。
「希…… まさかあんた! 」
食い殺そうとする勢い。これも言い過ぎか? でも本当だぜ。女は怖いんだから。
「ううん。お別れの挨拶しただけ。ミモリさんが側にいたからそんなこと…… 」
否定したけどそれだと邪魔されて無理だっただけじゃないか。
やってられない。
「だったらそのミモリさんと何かあった? 様子が変だよ希ちゃん」
まずい。また余計なことを言ったかも。でもどうしても気になるから。
突っ込んで聞きたくなる。
「馬鹿なの? ある訳ないじゃない。あったらまずいでしょう? いろいろと」
それを希ちゃん本人ではなくアイミちゃんが否定するから困る。
これでは話にならない。
「でもキスぐらい…… 」
ダメだ。どうしても興奮して余計なことを聞いてしまう。
俺にとってもショックが大きいはずなのになぜか止まらない。
まさか俺は希ちゃんではなくアイミちゃんに惹かれているのか?
「ううん。ミモリさんとは…… 」
完全否定しないからおかしな展開に。
「海とはした? 嘘でしょう? そんなはずない! 」
アイミちゃんは受け入れようとしない。
そして俺ももう限界に来ている。
「うおおおお! 」
つい怒りに任せて走り出す。
だがアイミちゃんがそれを無理やり止める。
「あんたいい加減にしなさいよ! 」
「だって…… 希ちゃんが俺の希ちゃんが海の奴に…… うわああ! 」
ダメだ我慢できない。怒りと悲しみを体を動かすことでどうにか。
でもそれって意味あるのか?
「誤解しないで。結局海君はミライさんしか見てなかった。
それは学校でも合宿でも今でも」
希ちゃんはそれがよく分かる。実感したと。
あれ…… もしかして今がチャンスなのでは?
さあ傷ついた希ちゃんを慰めてあげようっと。
続く