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ミライの願い

そう五年前の夏に選ばれた。

あの時なぜ選ばれたのかまったく分からなかった。

国王は当時まだ若々しかった。それでもお父様よりも随分と上。

しかも我が村からは五人もの花嫁が。

その一人に過ぎない私は最年少で国王の元に嫁ぐ栄誉を頂いた。

家族はもちろん村の者も大喜び。

これで両親は安泰でしょう。


ですがそれは私がすべて受け入れた場合。

もちろん私は生まれてから村を離れたことがない。

これが正しいと信じています。ですが姉もお友だちも可哀想な目で見る。

まだ幼かった。両親に褒められ村でも祝福され婚姻が何か分かっていなかった。


私のためだと信じて疑わず本当のことを隠していた両親。

今となればほぼ自由のない老いた国王を待ち続ける毎日だと分かる。

仮にすべてを受け入れても思い描いた輝かしい日々は幻想だとすぐに分かる。

私が丈夫で聡明なお男の子を産まなければ役立たずと冷遇されるそう。

そうなれば酷い仕打ちを受ける日々になるとティアナまで無責任に吹聴する。

そんなところに誰が行きたいのでしょう?


五年前のあの日だって分からないながら国王に選ばれて大変光栄とだけ。

それでも日が経つにつれてもう嫌で嫌で。お母様に相談したこともありました。

ですがそれが幸せだと。国王の元に嫁ぐことが女の幸福であると疑わない。


「さあこんな子は放って置いて儀式の練習をしなさい! 」

「はーい! 」

元気よく答える。

まるで子供のようですがこれも仕方ないこと。

文句を言ったり逆らえば離れに閉じ込められてしまう。

そして反省の言葉を述べるまで…… 誠心誠意謝るまで決して許してもらえない。

小さい頃からずっと。誰も助けてはくれない。見て見ぬふり。

誰もお母様に逆らえないのです。

昔から厳しい方。お姉様はまだ反抗的な態度を取りますが私はもう戦わない。

情けないとからかわれても閉じ込められて傷つくよりよっぽどマシ。


険しい表情を一切変えず戻られるお母様。

「ミライ? 」

「逃げ遅れないでよね。笑いを抑えるのが大変なんだから」

「じゃあね頑張って! 」

自分のことではないから皆本当にいい加減。何で私だけ?

己の運命を呪うこと数知れず。

ですがどうしようと変わらない。後ろ向きでいるよりは明るく元気にいたい。


「アーバンに行ったら例の件お願い」

「うん任せて。あなたの恋人を見つけて来るから。楽しみに待っててね」

ティアナは協力的ですがいい加減なところがあるからいまいち頼りにならない。

ああ…… 早く私を迎えに来て……


アーバンのお隣に住んでいる次女のライラお姉様にもお願いしたけど期待外れ。

お手紙は届きますがそれは近況報告のみ。

あちらでうまくやってるようです。あれほど頼み込んだのにもう忘れた?

遊びに来るように言われたけどもう無理だろうな。


今月が期限。それまでに逃げる算段をつけておくつもりですが。

正式に申し込まれたと言えばきっと分かって下さる。

アーバンには他の女もいくらでもいるんですから。

私一人抜けたぐらいどうと言うことはない。


海…… 私を迎えに来て。早く! 早く! もう時間がない。

とにかく今は海が迎えに来るまで大人しくしていよう。


鶴さんの家。

「済みません。俺眠っていたみたい。おかしいな? 」

「何構うことはないよ。あんたは夢の世界に誘われたのさ。

もうすぐ。もう少しで約束の場所が分かるよ。早くたどり着けるといいが」

鶴さんはいい兆候だと。一歩前進したと励ましてくれる。

俺としてはまったく意味不明で首をひねるばかり。


「それで明日までと言うのは? 」

ミモリと同様出会えるのは明日までと考えてるのだろう。

「そんなこと言ったかい? 」

「すみません。つい海がゆっくりしてるものだから真実を」

「馬鹿だね。焦らせてどうする? 心配するだろう? 」

「ですがこいつがしっかりしないから…… 」

いつの間にかミモリが俺の保護者面をする。


確かに助けてもらったしよくもしてもらった。

それだけだけでなく幼い頃にお世話にもなったお兄ちゃんだ。

感謝の気持ちは忘れない。間違いなく救世主だ。それは認める。

だからって俺の何が分かるって言うんだろう?

 

そもそも母さんだって俺をきちんと理解してるか微妙だ。

父さんなんか俺が大変な目に遭ってるのに助けに来やしない。

普通助けるのは救世主のミモリではなく父さんだろう。

離婚して家を出て行ってから顔を見せてない。どうしてもその辺のことが疎かに。


「明日が最後さ。お前はその子…… ほら何って言ったっけ? 」

「ミライ」

ミモリが俺より先に答える。

「そうそうミライ。それでお前はミライの本名を知ってるのかい? 」

鶴さんはゆっくりゆっくり情報を開示していく。

まさか暇つぶしに俺で遊んでるのか? 遊んでないとしても何だか嫌な感じ。

「早くお願いします! 鶴さんの言う通り時間が迫ってるんです! 」

ミモリはどうか知らないが少なくても鶴さんはゆっくりしている気がする。

俺が本気にならないとダメだとかいい加減なことばかり言う。


うおおおお!

大声を上げて本気を示してみるがただポカンとするだけで認めてはくれない。

「鶴さんお願いです! 分かり易く早く簡潔に! 」

もうお願いと言うより強制だろうか? でもゆっくりされたら埒が明かない。

日が暮れ明日になってしまう。

「面倒だね。よしあんたがしっかり教えてやりな」

ミモリに投げる鶴さん。やはりいい加減だ。


                   続く

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